〜close friend〜 《mamaによるanythingスピンオフ作品》

むひ

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十九話

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「なんだって」

イールビの声が低く低く、益々不機嫌になる様子が部屋の空気がピリピリするほどロッロに伝わった。

「私、魔界に帰らなくてはいけません」

負けじと声を振り絞って強く言ったが、最後は声が裏返ってしまった。

「…帰るってどういう事だ?里帰りか?なら勝手に行ってくりゃいーやんけ」

「違います、魔界に戻るともう二度とこちらには戻りません」

いたずらっぽく笑って持ち直したイールビの顔からまた笑顔が消える。

「……は」

「イールビ様には黙っていましたが、私…魔界に家族があって…。そろそろ様子が気になりますので…それに、あまりにもこちらの世界にいすぎました。私の魔力が未熟なのもこちらの世界との調和が取れていないからで…。体調にも影響が出始めています。
同じ時期に魔界から来たジースーという…オーニーズの1人は既に帰ってしまいました」

「……」

「私も、帰らなくては」

部屋に沈黙が流れた。
窓の外がどんどん明るくなる。

「いつだ」

「…イールビ様がよろしいのであれば…いつでも」

「消えたいならサッサと消えろ。そういうやつは要らん」

「……」

「今すぐ出て行け。なんだかんだ言って長い間よく尽くしてくれたな。感謝はしておる。
じゃあな」

踵を返し奥の部屋へと消えようとするイールビの背中に振り絞るように答えた。

「…い…嫌です、本当は帰りたくなんか、ない…」

「じゃあなんで俺に話す?お前の好きにすりゃあえーやんけ。簡単に消えるとか言い出すかまってちゃんに構ってられるほど暇じゃないんでね」

「どうしても帰らなくてはいけなくて…。
でも気持ちはここに残りたい…私も悩みました。ジースーにもエリーヌ様にもそろそろ戻りなさいと言われていたのに引き伸ばして引き伸ばして、私…もう魔力が…」

じわじわと涙が出るのをロッロは止められなかった。

ジースーはイヤザザ地区にて産まれた魔族であった。
そしてロッロもそれに続いて産まれた魔犬ケルベロスだった。

何らかの力の作用で、魔族が誤って人間界へと産まれる事が稀にあるのだ。
それは時空の歪みだったり、同族のいたずらだったり、原因は様々だが、しばらくはそのまま人間界に馴染み生活をする。
しかし生まれ持つ魔力が体内で作られる量よりも放出されていく量が増える時期がやってくる。
時期が来れば魔界へと戻らなくてはならない。
そうしなければ消滅してしまうのだ。
ジースーも世界を救い、役目を果たして一足先に魔界へと帰っていった。

「イールビ様…」

イールビはため息をついた。
頭をがしがし掻くと、何か言いたそうに口を開いては一旦閉じた。
鼻をすすりながらロッロが小さな声で、

「…私はもうじき歌う事も、この姿になることもできなくなります…。今まで通り貴方にお仕えする事もできなく、なります…」

ぽそぽそと話した。

「ここにいてはいけないんです」

それまで俯いて話していたロッロが顔を上げると涙が一筋頬を流れ切って、イールビの目をしっかり見つめて言った。

「貴方の邪魔にしかならない私はいりません」

「おまえ…」

楽しかった日々はあっという間に過ぎ去り、ここ数年のうちにいつしか2人は一緒に歌う事は無くなり、イールビはロッロに自分の全てを理解させ、自分の思い通りに行動し、発言する事を望むようになっていた。
ロッロは必死に応えようとしたが、上手くいかない事が多く、その度にイールビをイラつかせてしまう事が多かった。
イールビは罰だと言って飾っていたロッロの描いた絵を外し、一緒に歌おうと言っていた歌を二度と聴くことが無いように封印し、ロッロに醜い姿に変身して行動するよう命令したり、檻に閉じ込めては酷く罵倒し、叱責するようになっていた。
あんなに自分を認めてくれていたその人が今度は自分を否定するようになっていくのを感じたロッロは次第に自分が必要ないのではないかと思うようになっていた。
そうした事も祟ってか、身体から魔力がひどく抜けていくのを感じていた。

そんな日々を送りながらも毎晩のようにイールビは自分が眠るまで側にいるよう呼び命じるのだ。
ロッロがどんなに叱責された日であっても、イールビがロッロの側でその日あった事を話しながら安心したように眠る姿に何かしらの好意を感じていた。
そのアンバランスさがロッロの心を更に傷つけ、不安にもさせていた。

ここで別れて、楽になろう。

「今がその時……その時が来たんです。
もう一緒にいられ…ません…」

「…好きにしろ。何度も言わせるな。消えたいなら消えろ。自ら消えていく奴を追うほど優しくはない」

「…。最後に私と一曲、歌ってはくれませんか?」

「バカか。そんなもん、歌うわけねー」

「…わかりました…。今まで、ありがとうございました…。私…最後まで、貴方の望む私になれなくて、すみません…。うまくできなくて…ご迷惑を…。さようなら…イールビ様…どうかお元気で」

「…」

「◯◯◯◯◯」

最後の言葉はイールビに聞こえたのか聞こえなかったのかロッロにはわからないほど小さな小さな声しか出なかった。

言うなり、そのまま、屋敷を飛び出した。

人の姿のまま駆け出して、森の木々の合間を縫う度に少しずつ、犬の姿に戻って、速度を上げた。

振り向くな。走れ、走れ…!!

走れ……!!

《俺はそれには応えられないが、元気でやれよ》

心に声が響いて、息が止まり、脚がもつれてコケそうになった。
思わず立ち止まって振り向いてしまった。

屋敷が青い炎をあげて静かに燃えていた。
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