〜close friend〜 《mamaによるanythingスピンオフ作品》

むひ

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二十話

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「俺には待ってる人がいるんだ」

「知ってます、奥様でしょう?」

「そうだ。病気で亡くなった…事にはなっているが、正確には行方不明のままなんだ」

「行方不明?」

「患っていたのは確かだ。日に日に元気が無くなっていたが、俺に歌を歌ってほしいと言ってな。歌えば笑顔を見られたし、少し元気になった…気がしていた。それがある日、家を見知らぬ男と抜け出して、それっきりだ」

「見知らぬ…男…」

「若い男ではあったが、俺の直感だと医者だがな。奴は俺より良い人ができただのと抜かして出て行ったんだ。それっきり連絡は取れない、消息は掴めない。おそらくだが…」

「…それは…」

「たぶん、最期を俺に見られたくなくてな、どこかの施設で静かに……だろうよ」

「…」

「だがな、俺が歌を歌うキッカケになったのはアイツだし、こうして、歌を歌い続けていれば、いつかひょっこり元気になって戻ってくるんじゃないかとも思っていてな」

「そうでしたか…」

「ま!もし、アイツが戻ればお前は用済みだな!」

「…もぅ…。その時はそっと、消えますから…」

「わかってんじゃねーか。でもな、それは無いだろうよ」

「え?」

「アイツはたぶん…もう…。最後に、いちばん好きな曲を歌ってやった次の日にいなくなったんだ。どうしても今日聴きたいとゴネられてな、不思議に思ったが、それが何らかの兆しだったように思うな」

「…」

「アイツは死んだ。だがしかし、俺はアイツを蘇らせたい。俺の歌を聴いて俺だけの歌を聴いて、喜び、笑顔になるような、そんな存在が俺には必要だ」

「…わかりました。それが貴方の望みなら、全力でお手伝いしましょう」

「俺の無謀な計画に付き合うってか。ハッ、とんだ変わりモンだな」

「これも、何かのご縁ですから…」

(それだけ私は貴方の事を…)

「◯◯◯◯◯」

青い炎が屋敷を包み、ごうごうと燃えているのに全く音がしなかった。

想い出の詰まったあの部屋も、あの場所も、あの蓄音機も、絵も、おやすみとおはようを言い合ったあのソファも、全てが燃えている。

《あっ……あ……っ…う、そ…》

ロッロはその場から動けなくなっていた。
うまく息ができなくて、ハッ、ハッと苦しそうに呻いた。
どこかであの日のように追いかけて引き止めてくれやしないかと、また次の日になればあの屋敷に呼ばれるのではないかと期待していた部分もあった。

しかしそれは無く、炎は次第に弱まり、炎の残りと黒い霧を散らすようにして屋敷は消滅した。
それと同時といっていいほど、朝日が照りつけ、辺りはすっかり明るくなった。

終わったのだ。何もかも。
互いが元いたあるべき場所に還るだけであった。

森を抜けると、街の入り口より少し離れた場所にガウンを羽織ったエリーヌが立っていた。

《エリーヌ様…》

「大きめの闇の魔法の気配がしたから様子を見にね…。ジャイマー…貴方を見て何があったのかは…わかったわ。お疲れ様」

《…はい…。終わりました…。屋敷も消えました》

「ずっとずっと尽くしても報われず、泣いてばかりで心を傷めるジャイマーを見てるの辛かったわ。イールビさんには悪いけど、ジャイマーを大切にしないなら、これで正解よ」

《…これで良かったんですよね…》

「そうよ。…これで、全てが元に戻るの」

《…最後に、見ておきたい場所に行ってから…そのまま魔界に帰ります。エリーヌ様…今までホントにありがとうございました》

「これで最後ではないはずよ。きっとまた会えるわ。待っているから、いつでも戻ってくるのよ」

《はい…》

ロッロは海岸へ向かった。
重い足取りではあったが、最期にどうしてもイールビとロッロ、2人が出会った海が見たかった。
その後も何度か訪れては2人で寄り添い話をした事もあった想い出の海だった。

《…~♪》

悲しげな歌声だったが、ロッロの口ずさんでいる海賊の歌は笑い声の歌詞から始まる。
泣きそうな声で歌う笑い声の歌詞はなんともアンバランスであった。

しかしロッロの歌声は誰にも聴こえない。
犬の姿で歌っているからだ。
ロッロは合間に漏れる嗚咽を堪えながらもようやく歌い終えた所で海岸に到着した。

《できれば最後くらいは、一緒に歌いたかったな…。一緒に歌いたい歌はたくさんあったのに…時間もたくさんあったのに…》

青空と青い海を見ていると、ふうっと大きなため息が出た。

《もう、いいか…》

最後に一緒に歌いたかった歌を人の声で歌いたくなり、力を振り絞って人間の姿になった。

イールビに教わった歌で、人との出逢いを歌った歌。

だんだんすれ違っていく2人を
はじめからそういう運命だったと知っていたらもっとうまく出来ただろうか
このまま2人離れたとしても
また出会える日が来るだろうか
どんな日でもどんな場所でも
貴方を愛してしまう
心の中にはいつも貴方がいてほしい

そんな内容の歌だった。

とても難しい歌であったが、息をしっかり吸い込んで、イールビに教わったように気持ちを込めて歌った。

途中から涙が止まらなくて声が震えてしまう。

こんなの独りよがりだ。
一方的に好意を感じて好きになって
困らせて邪魔になっていて
あの人が好きだから歌う?
もう必要ともされていないのに?
あの人は私の事好きでもなんでもないのに?

最初から好きになってはいけなかったのに
この気持ちも消えて無くなればいいのに…
出会わなければ…良かった…?

声が震えてしまったが、曲のラストに差し掛かり、ロッロは力一杯歌った。

するとそこに歌声が重なった。
最後の最後まで、リードするように、優しく響く低音がロッロの高い声に寄り添い、曲を歌い終えた。

「俺達はもっと早くに出逢うべきだったな」

「…!」

「ヘタクソ。音痴か。声もキンキンうるせー」

落ち着いていて、低くて、優しい声。
ロッロはその声が大好きだった。

「~~~イールビ様ぁああ……」

「ここだと思ったわ。バカめ」

ロッロの目からはぼたぼたと大粒の涙が溢れていた。
怒っているのか呆れているのか、読み取れなかったが、イールビは笑っていた。

「…ぅう、っ…」

「俺をあんま怒らせんなよ。うっかり屋敷爆破しちまっただろーが、アホ」

イールビはロッロに近づいて、頭を軽く小突いた。
ロッロは涙をぬぐいながら、

「あれで良かったんです、あの屋敷に囚われていた…私も…イールビ様も」

「…呪いはあったと思う。無くなってなんだかスッキリしたわ。どうしてもあの屋敷にお前を縛り付けて自分の物にしておきたかった。自分の物、すなわち、俺の思う通りになるお前であってほしかったが…。お前はお前だし、そう簡単に人は変われない、同調できないのは懲りたわ。俺が妥協する番なのかもしれないな。もっと楽に行こう。より良い関係でいたい」

声は低いままだったが、とても優しいトーンで恋人というよりは、父親が娘に諭すようにイールビは言った。

ロッロは、イールビの目を真っ直ぐに見つめた。

「お屋敷があってもなくても、私はイールビ様への態度は変えるつもりは無いです…。
そう簡単に変われない…そうです、気持ちは変わりません。ここにいても、いなくても…私は貴方を大切に思ってます」

少しの沈黙の後、イールビがいたずらっぽく笑いながら続けた。

「魔界…さ。行ったら戻って来い。できるだろ?お前ならさ。てゆーか、俺が気になって気になってしょーがないお前、あの後も姫さんに会いに行く度に後ろから着いて来やがって」

「うっ…」

「ほどほどにしとけよな。他の奴にしたらストーカーだぞ。俺はいいけどな」

「え…」

「本人が楽しんでんだからな。お前が聴いてるだろ?って思いながら話してるし歌ってるわ。バカ。ワザと姿を消さずに出かけていたし、お前が見つけられるようにしていただろうが」

「気づいていたんですか…」

「お前の行動なんてバレバレだし、お前が喜ぶ事もお前が嫌がる事も全てわかってるつもりだわ。どれだけの時間を一緒に過ごしたと思ってる。二度と言わねぇって言ったが、その空っぽのわたがし脳に叩き込んで胸に刻め!お前の好意に応えることはできないが、何より大切に思っている。わかったか。もう二度と気持ちを確認するようなセコいマネするんじゃねぇよ。俺がお前にどんなにイラついても、あの屋敷がある以上…っと、屋敷は壊したんだった。あー…俺がお前に話しかけ続けるって事はそーゆー事だ。ホレ」

何かを高く弧を描いて投げられ、たどたどしい動きでなんとかキャッチした手の中身を見ると、そこには小さな黒い水晶のついたペンダントがあった。

「…イールビ様……こ、これは?」

「首輪だ。首輪。俺とお前の命と魔力のある限り、それでどこにいてもやりとりはできるはずだ。魔界に行っても、話しかけたら3分以内に返事しろよな」

「3分は厳しいです…」

「うるせぇ。…仕方ねーな。んじゃ5分以内な」

イールビは腕を組み、横暴な態度ではあったが、イールビの気持ちがハッキリとわかったロッロは今度は嬉しくて涙が止まらずうまく返事ができないでいたが、なんとか振り絞り、

「……はい」

とだけ小さく応えた。

「嬉しくねーんかよ。返せよ。そういう所、リスペクトが足りてねぇ、忠誠心が足りねぇっていつも言ってんの。わかるか?」

と、イールビがイラついたようにまくし立てる。

「はいじゃねーだろ。ありがとうございますだろがよ、バカタレ」

「は、はい…ありがとうございます…」

「おせぇ。魔界にでもどこにでもちゃっちゃと行ってちゃっちゃと戻って来んかい」

「はい…」

「逃げ出す事は許さん。勝手に消える事も許さん。その時が来るまで…………」

「…………」

「……」

波の音が2人の沈黙を埋めていた。
ロッロは言葉の続きを待ったが、いつまで待っても続きが来ない。

「………あれ?続きは?」

「ない。早よ行け」

なんでもないように言うイールビにロッロは盛大にコケてしまった。

「なんですかそれーー!!!」

「フン。魔界についたらとりあえず連絡しろや。ソレが使えるかどうかの確認するからな」

「…かしこまりました」

「おし!解散!散れ!!またな!!」

「はい…!イールビ様、ありがとうございます…行って来ます!!」

「おう」

つい数時間前まで争っていたのが嘘のように2人は笑顔で別れた。

『◯◯◯◯◯』

これは2人には声に出す必要の無い言葉であった。
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