CHAIN

むひ

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社会常識

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「坊主、起きろ」
外はまだ暗かった。眠たい目を擦る。
「ほら、そこの水道で顔洗ってこい。男のたしなみだ。かっかっか!」
オジサンなんか顔洗ったって汚れてるじゃないか。
「俺はよ、今から空き缶を拾いに行くからよ、おめえは自動販売機のお釣りん所と、下の隙間を小銭が無いか見てくれ」
付いては行ったが自動販売機は見なかった。何でそんな恥ずかしい事をしなくちゃいけないんだ。
オジサンは空き缶いっぱいのゴミ袋を二つ自転車に括りつけて器用に乗っている。
「おめえ、何でやらねえ?俺のアンパン食ったろう。その分働いて貰わにゃ困る。これが労働の対価ってもんだ。わかるか?労働の対価。かっかっか!」
オジサンは今覚えた言葉のように繰り返した。

夕方、オジサンは空き缶を鉄クズ屋で売り、帰り路にお酒を買っていた。売ったといっても何百円だったと思う。何で何百円の為にこんな時間をかけるんだろう。
オジサンはお酒をグビッと呑み、仕事のあとの一杯は最高だなっと言っていた。
「ほれよ、食いな」
アンパン。
「おめえの稼ぎはねえけどよ。今日の対価だ。資本家は辛れえなあ。かっかっか!」
美味しかった。
こんな生活なのにオジサンは楽しんでるように見える。なにが楽しいのか。
「なんだよ、怪訝そうな顔しやがって。俺はな、生きてるんだ」
何を言ってるんだ、このオジサン。当たり前だろ。
「俺はな、金を稼ぐために生きたかねえんだ。生きるために生きてえんだ。かっかっか!」
理解不能だ……
「金稼いでなにが残るんだ?物しか残んねえ。物ばっかり増えていきやがる。命さえあればいいんだよ。人間ってのはよ」

夜になり、横になってるとオジサンが話しかけてきた。
「坊主よお。そろそろ帰れよ。おめえん家の事情とか知らねえけどよ、その痣みたらだいたい分からあな。けどよ、親ってのは子供が産まれた時はそりゃあ嬉しいもんだ。愛おしいもんだ。少なくとも産まれた瞬間は祝福されて産まれてきてるんだな。じゃなかったらよぉ、あんな痛い思いしてまで産まねえぞ。」
ふうっと一息つき、また口を開いた。
「人には逃れられねぇ鎖があるんだ。無理に切ろうとすると色々とおかしくなっちまう。その鎖と上手に付き合って、なだめて、スカして、ゆっくり解いてくんだ。だから今は帰るんだ」
答えに困り寝たフリをしてしまった。
「なんだ、寝ちまったのか。まぁいいがよ。かっかっかっ!」
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