137 / 206
第一部 第四章 隠された世界の真実
番外編 爆誕☆コゲマコ君~宇宙から飛来したキノコ胞子の恐怖~ ≪後編≫
しおりを挟む「そもそも、だ。創造主。タマゴっつーのは繊細でだな、愛情こめてじーっくりと、優しく丁寧に扱うモンなんだよ」
謎の生命体……とでも言えばいいのかな。
オレと名乗っているし、多分男性?
……自信はないけど、そう思う事にした。
彼が皿から離れ、歩き出してこちらへ向かう姿が見える。
明らかに不機嫌な様子だ。
彼はテーブルの端っこスレスレに立つと、まん丸の目を半月に変えて睨んできた。
「それをナンだ? 創造主ときたら、いきなり強火で炙りやがって……オレ様に対する愛情はねェのか!? アァン!?」
「ふえ!? ご、ごめんなさい!」
喉の奥を鳴らし、恐ろしい剣幕で怒鳴る焦げ卵の威圧感は凄まじかった。
言ってる内容も正論な気がして、怒られてはとにかく謝るしかない。
頭を振り下げて全力で謝罪した。
髪の毛が流れ落ち、毛先が床へ着いてしまったが、そこまで気にして振る舞う余裕なんてない。
そうしていると——「チッ」と舌を打ち鳴らす音が聞こえた。
「……まぁいい。髪、汚れんだろ、面ぁ上げな」
「は、はい」
髪の毛を気にしてくれるなんて、意外に優しい。
言われた通り顔を上げると、彼は腕を組んでいた。
……腕、さっきと別の場所から生えてる気がする。
構造どうなっているのかな。
「それより創造主。生み出したからには、最後まで責任を持て」
「責任って言われても……」
何をどうして欲しいのだろう。
(料理として生み出したのだから、美味しく食べて……とか?
それかもっとマシな状態に改良を——……でも、炭化してるから無理だよね。
そもそも、シャノちゃん、シェリちゃん、リシアちゃんと一緒に料理をしてみてわかったけど、私は料理のセンスがない)
改良しろと言われても、もっと悲惨な状況になり兼ねない。
思考を巡らせても彼の望む答えがわからず、じっと見つめていると、盛大なため息を付かれた。
「ったくよぉ。まずはやるべき大事なことがあんだろ?
ほら、創造主の〝愛〟をくれ」
「あ、愛……!?」
驚きのあまり飛び退き、そのせいで後ろにあった何かにぶつかった。
高く乾いた音——陶磁器の割れるような音が厨房へ木霊する。
頭の中は混乱だ。
まさか謎の生命体に愛を求められるとは思わず。
いくら自分が生み出した存在とは言え、良く知りもしない初対面の相手。
生命体なのかすら怪しいし、色々と問題がありすぎる。
〝愛があれば何でも乗り越えられる〟——なんて名言もあるらしいけど、本当に?
……どう考えても、無理だ。
第一、好みのタイプじゃない。
「ごめんなさい、貴方を一人の男性として愛する事は……ちょっと、無理です」
再度、深く頭を下げて丁重にお断りする。
今度は髪の毛が床へ流れ落ちてしまわないように、気を付けた。
「ちっげーよ!! 皆まで言わねェとわかんねェのかよ!? 誕生した我が子へ創造主が贈る、最初の愛、名前だよ! オレ様に名前をくれよ!!」
炭化したオムレツの低音域のはずの声が高められ、絞り出すような叫びが大音量で響き渡った。
〝愛〟とは比喩で、解釈違いだったらしい。
でも、そんなこと言われても、わかるわけがない。
盛大に勘違いした事に気付いて、頬へ熱が集まる。
こちらも赤っ恥だ。
勢いよく顔を上げると、眉頭を寄せて彼を睨んだ。
「そういう事はちゃんと言って……!」
「お、おう。……確かに紛らわしかったな。悪かったよ」
今度は彼が後退っていた。
けれど、非を認めて謝罪を口に出来る辺り、やっぱり悪い人?ではないみたい。
「それで、オレ様に名前は……」
睨みが効いたのか、吊り上がった眉を〝ハの字〟に変えて、遠慮がちに尋ねてくる。
確かに、名前がないのは不便なので、〝誕生した我が子への愛〟はさておき、名付けぐらいはしてあげてもいいかなと思った。
……とは言え、名前を考えるのも中々に難しい。
〝名は体を表す〟——と言うのも、良く聞く言葉だ。
ここは慎重に考えないと。
(一目見て、目の前の彼が何であるのか認知出来る、わかりやすくて素敵な名前……)
言い知れぬ使命感のようなものが湧き上がった。
もしかしたらこれが〝誕生した我が子への愛〟の気持ちなのかもしれない。
一歩、彼の傍へと歩み寄る。
それから顎へ手を添え、もう一方の手で肘を組み、その姿形を観察した。
(元は……卵。
頭に刺さった白い物は……やっぱり卵の殻だ。
こんな形に割った覚えがある)
オムレツを作ろうと解いてフライパンへ流し入れ——強火で焼きすぎて、焦がした。
(炭化したオムレツ。
男性……。
焦げた、卵の……紳士?)
ダメだ、語呂が悪い。
もっとこう、簡潔にわかりやすく省略して——。
(……焦げまこ……)
瞬間、電撃が走ったように閃く。
「これしかない!」と。
彼の特徴をバッチリ押さえているし、何より呼びやすく親しみやすい。
イリアは大きく頷くと唇に弧を描いた。
そうして、不安と期待の混じった視線を向ける彼へ向かって、堂々とその名を告げる。
「——コゲマコ君。貴方の名前は、コゲマコ君!」
〝焦げた卵〟の略だ。
会心の出来だと思う。
きっと喜んでくれるはずだと、信じて疑わなかった。
その名を聞いて、彼は——。
「……創造主……。料理の腕だけでなく、そっち方面もポンコツだったか……」
深い……深ーい、ため息を吐き出していた。
何故だか、憐みの視線が向けられている。
(それにさりげなく馬鹿にされたような……)
納得がいかない様子だったので、気に入らないなら別の名前を考えようと思った。
「——はァ。まあいいか……創造主の愛が詰まってるんだもんな」
だが、そんな思いに反して彼はやれやれと言った風に肩?体?を竦めてみせて。
「ってことで、いまからオレ様は〝コゲマコ君〟だ!」
それから得意げに笑って、名乗ってみせた。
どうやら気に入ってくれたみたい。
ほんの少しだけ「安直すぎたかな?」と後悔したけど、彼が良いと言うのなら大丈夫なんだろう。
——安堵したら、何だか眠くなってきた。
急激に瞼が重くなり、開けているのも困難で、このままでは立ったまま船を漕いでしまいそうだ。
「コゲマコ君、とりあえず、話はまた明日でもいい?」
部屋へ戻って、寝て起きて、それから改めて話をしようと思った。
「おっと、時間切れか」
彼が意味深に呟いた。
「言いたい事は山ほどあるんだが〝神〟も気まぐれだからなァ。創造主、とりあえずゆっくり休めよ」
彼の言う〝神の気まぐれ〟と言うのが何なのか気になったけど、視界がぼやけて意識が遠のいて行く——。
「うん……おやすみ、コゲマコ君」
辛うじて告げ、瞼を閉じる。
「おやすみ、創造主。またな」
暖か味のある彼の声が、耳に響いた。
——次に目が覚めて、瞼を開くと飛び込んで来たのは、見慣れたベッドの天蓋。
ちょっと前にも同じ体験をした。
飛び起きて周りを見渡すと、良く見知った公爵家の客室で、ベッドの上にいた。
部屋に薄暗さはなく、大きな窓から朝焼けの光が差し込んでいる。
(さっきまで厨房にいて、謎の生命体——コゲマコ君と話をしていて眠くなって……?)
そのまま多分、寝てしまって、どうやって部屋へ戻って来たのかと首を傾げる。
彼があの体の大きさでここまで運べる訳がない。
「……夢?」
そう考えるのが自然だった。
あの不思議な体験——ほわほわのことも、コゲマコ君との邂逅も、すべて夢の中の出来事……。
「なんだか、変な夢だったな……妙に現実感があって」
普通に考えれば、焦げた卵が生命を宿し、意思を持って動く事などあり得ない。
色々な事があったせいで記憶が混乱して、あんな夢を見たんだろう。
(それにしても、コゲマコ君のインパクトは凄かった)
あの口調と姿形はしばらく忘れられそうにない——と、イリアは思い出し笑いを浮かべた。
その日の朝食の席で、厨房の陶磁器が謎に壊れていたと言う話を聞いて驚く事になるのだけど——彼の姿はどこにも見えず、あの邂逅が真に現実の物であったのかは、結局わからず仕舞いだった。
多分、続く。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる
ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。
「運命の番が現れたから」
その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。
傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。
夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。
しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
*狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話
*オメガバース設定ですが、独自の解釈があります
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!
ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。
転生チートを武器に、88kgの減量を導く!
婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、
クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、
薔薇のように美しく咲き変わる。
舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、
父との涙の再会、
そして最後の別れ――
「僕を食べてくれて、ありがとう」
捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命!
※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中
※表紙イラストはAIに作成していただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる