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旦那さま、お覚悟ください ①
「今夜こそ、抱かれてみせますわ!」
声に出して宣言し、おじけづいてしまいそうな自分に気合いを入れる。
わたしはベッドの上でひとり、ぎゅっとこぶしを握った。
広い寝室の真ん中にある巨大なベッドは、熟練の職人の手による特注品。小柄な女性なら四人は余裕で寝られそうな大きさだ。
なぜこんな規格外のサイズのベッドでなければならないのかというと、それには理由がある。
「ミルドレッド、まだ起きていたのか」
「はい。旦那さまをお待ちしておりました」
「そうか」
夜がだいぶ更けてから寝室に入ってきたその人は、さりげなくわたしから目をそらした。
ベッドの端に腰かけた彼――わたしの夫は、とても背が高い。ゆうに百九十センチはあるだろう。
おまけに体格もいい。王国騎士を生業としている彼は、筋肉質でたくましくて、わたしの目から見るとものすごくかっこいい。
(はぁ~、素敵……)
広い肩幅に、盛り上がった上腕部。胸板は厚く、ウエストはぎゅっと引きしまっている。逆三角形のスタイルは、ゆったりとした寝衣でも隠せていない。
というわけで、ベッドは彼の体つきに合わせ、なおかつふたりで眠るために作られた特注品なのだ。
そんな男らしい彼は、そっぽを向いたまま顔をしかめた。眉間のしわが深い。
「今日も遅くなるから先に休んでいるようにと、執事に伝えさせたはずだが?」
燃えるような赤い髪に、濃い緑色の瞳。
顔立ちは整っているけれど、その美形ぶりを感じさせないくらい、いつもしかめっ面をしている旦那さま。今日も安定して顔が怖い。
「でも、わたくし、旦那さまに就寝のごあいさつをしたかったのです」
そのときわたしはハッと気づいて、真っ白いシーツの上で横座りに姿勢を変えた。
それまで癖で、ペタンとおしりをつけた女の子座りをしていたのだけれど、すごく子どもっぽい座り方だった。
(今夜はできるだけ大人っぽく迫らなくては!)
彼を上目遣いに見上げると、その顔がさらに怖くなる。
「旦那さまではなく、名前を呼べと言っただろう」
「あ、ごめんなさい、クリストフさま。結婚したら旦那さまって呼ぶのが夢だったので、つい」
旦那さま――クリストフの眉間のしわがすごい。山、谷、山、谷と、山脈みたいだ。
こんなにまじまじと眉間のしわを見つめていたら、さすがに怒られてしまうかしら。
彼が本当は優しい人だと知っているから恐ろしくはないけれど、普通のご令嬢がこの形相を見たらきっと逃げ出してしまうだろう。
クリストフは眉間を指でこすり、重々しいため息をついた。
「たまになら呼んでもよいが、しょっちゅうはやめてくれ」
「はぁい」
明るく返事をして、わたしはふたたび彼の顔をのぞき込んだ。
お互いベッドに座っていても、見上げないと視線が合わない。
わたしは同世代の女性の中でも背が低いほうなので、クリストフとの身長の差は四十センチくらい。
彼に聞こえないように、そっとため息をつく。
(横に並ぶと、大人と子どもみたいなのよね)
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