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離縁の危機 ③
あたたかくて柔らかい唇の感触と、かすかに感じる彼の息遣い。
(……はい? わたし、口づけをされている……?)
クリストフのほうから口づけしてきたのは、初めてだ。
結婚式でも、ほっぺたにチュッとふれただけだったし、彼の出張の前夜に口づけたのも、媚薬の力を借りたわたしの暴走だった。
背後で、パタンとドアの閉まる音がする。エミリが部屋の外に出ていったらしい。
「んっ、クリストフ、さま」
ふたりきりになると、彼はさらに情熱的に口づけてきた。
身長差のせいで、ほとんど真上から押しつけられる唇。
そんな状態が続いて息が苦しくなり、少し口を開くと、熱い舌が入ってくる。
「んっ、んん……あっ」
「……ミルドレッド」
吐息とともにささやかれる名前に、ぞくぞくするような興奮が湧き上がった。
彼から求められている。
ふだんは感じられない彼の欲望の気配。
女性の力では逆らえない力強さに、怖さよりもときめきを覚えて、わたしも彼の胸にしがみつくようにして口づけに応えた。
唾液が混ざるぴちゃぴちゃとした水音に、時折かすかな衣擦れの音が混ざる。
クリストフがわたしの背中をなでているのだ。熱い手のひらの感覚が、腰が砕けてしまいそうなほど気持ちいい。
「あ……」
少し唇が離れた。
彼の体温が消えてしまうのがさみしくて、背伸びをして追いかけたら、ぐりぐりと頭をなでられた。
大人として口づけられたのか、子ども扱いされているのか、一瞬混乱してしまう。
クリストフは緑色の瞳に強い光をたたえたまま、ぼそりとつぶやいた。
「きみがかわいくて、もう手放せそうにない」
「うそ……」
心臓の鼓動が激しい。
本当に、わたしを手放したくないと思っているの?
夢みたいで、なかなか実感が湧かない。
深い森のような色の瞳をうっとりと見上げていたら、クリストフが頬をゆがめて苦笑した。
「気持ち悪くはないか? きみの夫が、こんなおっさんで申し訳ない」
「ええ!? おっさんなんかじゃないです。わたくしはクリストフさまがいいんです。クリストフさまだから大好きなんです」
「ミルドレッド……」
彼の瞳が熱を帯びた。
目が離せない。見つめ合うわたしたちの間に、強い磁力が働いているようだ。
わたしは思い切って彼を寝室に誘った。
「クリストフさま、お部屋に戻りませんか?」
のどがからからに渇いてしまって、かすれた声しか出ない。
(この雰囲気は……今夜こそ、ちゃんとした夫婦になれるかもしれないわ!)
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