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かわいくなんかありません ④
しおりを挟むそんなところに、開いたままの扉からアレクシスが飛び込んできた。
「ミルドレッド!?」
クリストフの胸から少し顔を上げて見ると、アレクシスの顔色は真っ青だった。
姉はわたしが彼の腕の中にいることを確認してから、デリックに目をやる。
「デリック、なんてことを」
わたしの背中をなだめるようになでながら、クリストフがアレクシスに話しかけた。
「この男は、とりあえず騎士団で拘束しておく。侯爵家の権限は及ばないようになるが、問題はないな?」
「はい。ミルドレッドを襲うなんて……。こんな男にライリーを任せていたと思うと恐ろしいわ。夫にもすぐに知らせます。我が侯爵家は絶対にこの男を許しません」
クリストフは床に倒れたデリックをにらみつけると、低く冷たい声で告げる。
「俺の妻に狼藉を働いた罪は重い。必ず極刑にしてやる」
クリストフの言葉を聞いて、驚いたように大きく目を見開くデリック。
「なんだって? つ……妻!?」
そして、クリストフの腕の中のわたしを凝視する。
「ミルドレッド、きみは結婚していたのか!? そんな……僕の天使の君が、純潔じゃなかったなんて」
極刑にすると言われているのに、デリックはわたしが既婚であることのほうに衝撃を受けていた。
やっぱりどこかおかしい。こんな人に捕まっていたことに、改めて恐怖が込み上げた。
わたしが震えながらクリストフの上着をぎゅっとつかむと、彼はふたたびデリックを蹴り上げた。
「おまえは大人しく寝ていろ」
ボゴンと大きな音がしたけど、顔がえぐれていないだろうか。
立ち尽くしていたアレクシスのあとから、この家の使用人が駆けつける。
クリストフはその男に縄を持ってこさせ、デリックを縛り上げた。そして使用人に騎士団への使いを命じる。
わたしのほうを振り返ると、落ち着いた優しい声で説明してくれた。
「ミルドレッド、俺は騎士団の者が来るのを待って、こいつを引き渡さなければならない。先に屋敷に戻るか?」
「わたし……クリストフさまのそばにいたいです」
「わかった」
すぐにやってきた部下の騎士にデリックを引き渡す手配をしている間も、わたしはずっと彼にすがりついていた。
事件はとりあえず解決したはずなのに、まだ怖さが残っている。子どもっぽい振る舞いかもしれないけど、今は彼のぬくもりを感じていたかった。
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