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えっ、おまじない……?

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「────っ、ぅあ……も、だめ……っ」

 私の上でシュティルがぶるぶると震える。
 私の中に収まっている彼自身からも脈動を感じたので、おそらく果ててしまったのだろうと思った。

 まるで噂に聞いていた童貞のような感じ。
 ────もしかして、やっぱり初めてじゃなかった?

「シュティル……? あなたって、女性経験なかったの……?」

 呻きながら私の中を出て行くシュティルに問いかける。
 すると、綺麗なアメジストの瞳が怪訝そうに私を睨んだ。

「根暗な俺にそんな相手がいると思ってるの?」

 ────ですよね、ごめんなさい。

 呆気ない終わりに私は身体を起こした。
 入って来たときは痛くなかったけれど、さすがに下腹部辺りに違和感は残るみたいだ。
 まだ、シュティルがいるようなそんな感じの。

「……どうして服を着ようとしてるの」
「え?」

 両手・・で下着を穿き直そうとしていると、シュティルの手がそれを制した。
 質問の意図が分からない。こちらこそ、「どうして?」という気持ちでシュティルを見つめ返す。

「え、だって……終わった、でしょ……?」

 再び前髪に隠れてしまったので表情は見えないが、口がむっとしたように曲がったのを見て違うのだと知る。
 でも、こういうのって男性が果てたら終わり……じゃないの?

 シュティルの両手・・が私の手を取ったとき、私はようやくあることに気付いた。

「あれ? 手……いつの間に……?」
「好きな人と想いが通じ合えたら、解けるおまじないだって聞いた」
「え? そうなの? ……って、どうしてそれを?」

 すると、シュティルがさっきまで私の掌とくっついていた手を広げて見せてくれる。
 今日、私が解呪したものとは違う魔法陣が書かれていた。
 魔術語でぐるりと円を描いて、その中ではたくさんのハートで埋め尽くされている。明らかに普通の魔術とは違う魔法陣だった。果たしてこれを本当に魔法陣と言っていいのかは疑問だけども。

「噂で聞いたおまじないを試した。……イヴに嫌われていると思ったから、どうしても両想いになりたくて」

 ────ということは、手がくっついたのは私の手に移ったおまじないのせいじゃなくて、シュティルが試したというおまじないのせいだということだろうか。
 彼とくっついていた自分の手を見て見ると、ほんのりとインクがついてしまっているだけで魔法陣そのものは描かれていなかった。

「俺たち、両想いだったんだね。嬉しい、好き、大好き……」
「な!? な、な……!?」

 解ける条件が本当なら、──そういうことなのだろう。
 うっとりと(たぶん)私を見つめながら、シュティルが制服の上着を脱ぎ始めた。
 もう一回しよう、とでも言っているかのように。

「ま、待って、シュティル……! あなた、体力、あまりないんじゃなかったの? う、運動音痴なんでしょ……!?」

 ひょろひょろと痩せ細っているかと思っていたのに、想像していたよりも筋肉をつけた上半身に内心ドキッとしながら私はベッドの上で後退する。
 しかし、一人用のベッドの上は狭い。すぐに背中が壁とくっついてしまう。

「平気。俺にはイヴがくれたこれがあるから」
「そ、それは」
「辛い訓練も乗り越えられる力が湧くんでしょ」

 彼が上着のポケットから取り出したのは、先日私があげた滋養剤だった。
 まだ飲んでいないのか、きっかり一回分の量の液体が小瓶の中で揺れている。
 茫然としている私の前でシュティルは親指で栓を押し上げて栄養剤を一気に飲み干してしまった。
 宝物のような丁寧な動作で、空っぽの小瓶がポケットの中へと戻される。
 
「これで、平気。これでたくさんイヴとできるよ」
「ま、まって、そ、それはそのためにあげたんじゃないから!」
「俺のためにイヴがくれたものだからイヴのために使う」
「お、お願いだから、少しは私の話も──っ!」

 私の抵抗はシュティルの口づけによって押えられた。
 おばあさま直伝のレシピで作っただけあって、滋養剤の効果は抜群だったらしい。
 
 私がベッドから抜け出せたのは、すっかり夜も更けた頃で。
 隣で気持ちよさそうに寝息を立てる彼の横をそっと抜け出してへろへろな身体で一階に降りてみれば、のんびり気質な使い魔のあくびに出迎えられた。

「……ベオ。ニシンのパイは今後一切禁止だから、絶対」
「にゃ!?」

 私の使い魔であるベオは、私の言葉には逆らえない。
 シュティルにもあとでよーく言っておこう。
 それから今後のことをしっかりと話し合わなければと脳裏に思い描きながら、私は彼がいつ起きてきてもいいようにと飲み物を用意し始める。
 身体はとってもとっても怠いけれど、私の作るライムミントソーダを「美味しい」と言って飲んでくれるなら。
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