【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

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21.救国の偽聖女

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安定を取り戻したかに見えた魔力の流れは、次の瞬間には凄まじい嵐となって制御不能のまま暴走を始めた。地下空間全体が激しく揺れ、壁に亀裂が走り、天井から瓦礫が降り注ぐ。

「うわあああっ!」
「な、何が起きたのだ!?」

身の危険を感じた国王とアッシュは恐怖に顔を引きつらせた。
結界がイリスの魔力を「異物」と認識し、拒絶反応をむき出しにしている。
暴走する魔力は巨大な渦と化し、その中心にいるイリスを飲み込もうとしていた。

「だめだ、ここにいては我々も飲み込まれるぞ!」
国王が絶叫し、アッシュの腕を掴んだ。

「アッシュ、逃げるのだ! これはもう我々の手に負えるものではない! ぐずぐずするな! 王家を存続させるのが我らの務めであろうが! 死んでは何も出来ん!」

国王は半ば強引にアッシュを引きずるようにして出口へと向かった。
アッシュは一度だけ振り返る。
魔力の嵐の中、絶望の表情でこちらに手を伸ばす婚約者。
己の命を脅かす圧倒的な恐怖の前では、彼女を救う勇気は欠片も湧いてこなかった。

二人は転がるようにして部屋を飛び出し、すぐさま背後の重厚な鉄の扉を閉めた。ガチャンという無慈悲な音と共に、内と外が遮断される。

「開けてください! お願いです、アッシュ様! 陛下! 怖い! ここから出して! 助けて!」

閉ざされた扉の向こうから、イリスの悲痛な叫びが聞こえてきた。その声は二人の良心を責め立てるように地下回廊に響き渡る。

「アッシュ様ぁぁぁぁっ! 死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

その声にアッシュは恐怖で青ざめた顔のまま動けずにいた。
今、扉を開ければ自分たちもあの魔力の渦に飲み込まれてしまう。

その時、階段を駆け下りてくる慌ただしい足音が聞こえた。
息を荒げて現れたのはイリスの父、セレスティア伯爵だった。

「陛下! 殿下! 一体何事です! この魔力の暴走は……! まさか娘は…イリスはどこにおりますか!」

伯爵は扉の向こうから聞こえる娘の声に気づくと血相を変えた。

「イリス!? そこにいるのか!? なぜ……! 陛下! なにとぞ、なにとぞ扉をお開けください! 娘が、私の可愛い娘が中にいるのです!」

伯爵は狂ったように扉を叩き、国王とアッシュに詰め寄った。
二人は黙りこくっている。

「娘を見殺しになさるおつもりですか!」
「セレスティア伯爵、覚悟を決めよ。……これは国のための尊い犠牲なのだ」

その言葉に伯爵は絶望の表情を浮かべた。
伯爵が今度はアッシュに掴みかかる。

「アッシュ殿下! あなたはイリスを愛していたのではなかったのですか! お願いです、助けてやってください! この通りだ!」

伯爵が床に膝をつき、額を擦りつけて懇願する。
アッシュは青ざめた顔で目をそらし、ただカタカタと震えているばかりだった。
父王に逆らってまで扉を開ける勇気も、イリスと共に死ぬ覚悟もなかった。

「人でなしぃぃぃぃ!!!今すぐ扉を開けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

伯爵の絶叫が響き渡るなか、扉の向こうから聞こえていたイリスの声は次第にか細くなっていった。

「お父……様……た…すけ……て……」

それが、娘の最後の言葉だった。
その声がぷつりと途絶えたのと同時に、あれほど荒れ狂っていた魔力の光も命の灯が消えるように静かに収束していく。

禍々しい音と振動が消え、地下空間には死んだような静寂だけが残された。

セレスティア伯爵は力なくその場に崩れ落ちた。
目の前で娘を見殺しにした国王と、その未来の婿になるはずだった王太子に対する底なしの憎悪の炎だけが燃えていた―――。


◇◇◇


後日、王宮のバルコニーに立った王太子アッシュは集まった国民を前に、悲痛な面持ちでこう告げた。

「皆に伝えなければならない。我が国の誇り、聖女イリス・セレスティアはこの国を襲った未曽有の危機に際し、自らの命を捧げ、我らを滅亡の淵から救ってくださったのだ!」

民衆の間から、どよめきと嗚咽が漏れる。

「イリスは最後の瞬間まで民を、そしてこの国を案じておられた! 彼女は真の聖女であった! 我々はその尊い犠牲を決して忘れてはならない! 今後、イリス・セレスティアの名は国を救った救国の英雄として、未来永劫語り継がれるだろう!」

アッシュが声を張り上げると、民衆は「聖女イリス様!」とその名を叫び、彼女の犠牲に涙した。

アッシュはそんな国民を冷めきった目で見下ろしていた。

(……英雄などこの世にはいない。ただそう語られる人間が一人作られるだけ。これがお前らの望んだ『物語』だ)
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