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22.招かれざる客
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――グリゼルダ皇国での新たな生活が始まってから二週間。
私、フィーナの居場所はロイエルの計らいで城の一角に用意された研究室兼私室。そこには先帝陛下の遺された貴重な蔵書が運び込まれ、ページをめくるたびに未知の知識と新しいアイデアを与えてくれた。
そして今日、私は女帝アウレリア陛下より正式に、このグリゼルダ皇国に新設された『宮廷魔術師長』の地位を拝命した。
「宮廷魔術師長なんて大役恐れ多くて……本当に私でいいの?」
叙任式の後、城の控え室で隣に立つロイエルが少しだけ心配そうな表情を見せる。いつもの親しみやすい口調が戻り、自然と私も緊張がほどけ、穏やかに微笑んだ。
「フィーナ。君はこれから一国の魔術師のトップになるんだ。色々と大変なこともあると思う。俺ができることは何でもするから」
「うん、大丈夫。私一人じゃないもの。あなたがいる。陛下がいる。この国には私が守りたいと心から思える人たちがいる。そのためにこの力を使えるならこれ以上の喜びはない」
「ああ、俺も全力でお前を支える。宮廷魔術師長殿」
「よろしくお願いしますね、皇太子殿下」
私たちは顔を見合わせて悪戯っぽく笑い合った。
時を同じくして、グリゼルダ皇国はかつてない熱気に包まれていた。
死の大地グランフェルドが緑豊かな聖地へと生まれ変わった――その奇跡の噂は風に乗って、あるいは旅人の口伝によって大陸中に広まっていった。
その真偽を確かめようと、各国の名だたる魔術師たちが続々とこの国に集結し始めていた。
「信じられん……この澄んだ魔力の流れは……」
「瘴気など微塵も感じられない。これが本当にあのグランフェルドなる土地だというのか!」
異国の衣装に身を包んだ魔術師たちが、その変貌した大地に目を見張り興奮の声を上げている。国は活気に満ち、誰もが未来への希望に胸を膨らませていた。
その一方で――、謁見の間では全く別の問題が持ち上がっていた。
◇◇◇
その日、謁見の間は緊張に満ちていた。
玉座に座る女帝アウレリア陛下の前には、装飾華美な服をまとった十数名の男女が居並んでいた。
彼らは自らを「エリオット王国から厄災を逃れ、避難してきた貴族」と名乗った。
「……というわけだ、女帝よ。我々はエリオット王国の有力貴族一行である。祖国は今、得体の知れない厄災に直面している。よってそなたの国にしばらく身を寄せることにした」
その態度はふてぶてしく傲慢そのもの。
まるで施しを命じているかのように。
「ついては我々の身分にふさわしい住居と待遇を用意するのがそなたの国の務めであろう。なに、心配せずとも我らが住んでやるのだ。光栄に思うがいい」
「左様。我々は選ばれし者。このような小国に滞在してやるだけでも名誉と心得よ」
取り巻きの貴族たちも口々に同意し、さも当然の権利であるかのように要求を突きつける。
その言葉に、玉座の脇に控えていたロイエルの眉がぴくりと動いた。今にも飛び出しそうな彼を女帝が視線だけで制する。
アウレリア陛下はただ静かに冷徹な声で告げた。
「お断りします」
「……何だと?」
貴族らの顔がみるみるうちに驚きと屈辱に歪む。
「聞き間違いか? 我らはエリオットの貴族だと言ったはずだ。このグリゼルダは我が王国の従属国。主人の危機の際に助けるのは当然の義務であろうが!」
「義務ですって? 黙りなさい。ここはあなた方の国の惨状を語り、物乞いをする場ではありません」
「なっ……! 貴様、先の戦争の結果を忘れたとでも言うのか!」
「歴史は忘れておりません。ですがいつまでも過去の勝利に驕り、他国を虐げ続ける国に未来などないと、あなた方の現状が証明しているのではなくて?」
女帝はいっそう語気を強めた。
「我が国がエリオットにどれほどのものを奪われ、民がどれほどの苦難を強いられてきたか、お忘れですか? そなたたちの都合で、これ以上我が民を蔑ろにすることは許しません。帰るべき場所もないと言うのなら、難民として最低限の保護は約束しましょう。それ以上の厚遇を求めるというのなら話は別です」
「き、貴様あっ! 属国の女帝ふぜいが我らに指図する気か!」
一触即発。
貴族たちが激高し、衛兵たちが一斉に剣の柄に手をかける。
ロイエルもついに堪えきれず、一歩前に出ようとしたその時だった。
私、フィーナの居場所はロイエルの計らいで城の一角に用意された研究室兼私室。そこには先帝陛下の遺された貴重な蔵書が運び込まれ、ページをめくるたびに未知の知識と新しいアイデアを与えてくれた。
そして今日、私は女帝アウレリア陛下より正式に、このグリゼルダ皇国に新設された『宮廷魔術師長』の地位を拝命した。
「宮廷魔術師長なんて大役恐れ多くて……本当に私でいいの?」
叙任式の後、城の控え室で隣に立つロイエルが少しだけ心配そうな表情を見せる。いつもの親しみやすい口調が戻り、自然と私も緊張がほどけ、穏やかに微笑んだ。
「フィーナ。君はこれから一国の魔術師のトップになるんだ。色々と大変なこともあると思う。俺ができることは何でもするから」
「うん、大丈夫。私一人じゃないもの。あなたがいる。陛下がいる。この国には私が守りたいと心から思える人たちがいる。そのためにこの力を使えるならこれ以上の喜びはない」
「ああ、俺も全力でお前を支える。宮廷魔術師長殿」
「よろしくお願いしますね、皇太子殿下」
私たちは顔を見合わせて悪戯っぽく笑い合った。
時を同じくして、グリゼルダ皇国はかつてない熱気に包まれていた。
死の大地グランフェルドが緑豊かな聖地へと生まれ変わった――その奇跡の噂は風に乗って、あるいは旅人の口伝によって大陸中に広まっていった。
その真偽を確かめようと、各国の名だたる魔術師たちが続々とこの国に集結し始めていた。
「信じられん……この澄んだ魔力の流れは……」
「瘴気など微塵も感じられない。これが本当にあのグランフェルドなる土地だというのか!」
異国の衣装に身を包んだ魔術師たちが、その変貌した大地に目を見張り興奮の声を上げている。国は活気に満ち、誰もが未来への希望に胸を膨らませていた。
その一方で――、謁見の間では全く別の問題が持ち上がっていた。
◇◇◇
その日、謁見の間は緊張に満ちていた。
玉座に座る女帝アウレリア陛下の前には、装飾華美な服をまとった十数名の男女が居並んでいた。
彼らは自らを「エリオット王国から厄災を逃れ、避難してきた貴族」と名乗った。
「……というわけだ、女帝よ。我々はエリオット王国の有力貴族一行である。祖国は今、得体の知れない厄災に直面している。よってそなたの国にしばらく身を寄せることにした」
その態度はふてぶてしく傲慢そのもの。
まるで施しを命じているかのように。
「ついては我々の身分にふさわしい住居と待遇を用意するのがそなたの国の務めであろう。なに、心配せずとも我らが住んでやるのだ。光栄に思うがいい」
「左様。我々は選ばれし者。このような小国に滞在してやるだけでも名誉と心得よ」
取り巻きの貴族たちも口々に同意し、さも当然の権利であるかのように要求を突きつける。
その言葉に、玉座の脇に控えていたロイエルの眉がぴくりと動いた。今にも飛び出しそうな彼を女帝が視線だけで制する。
アウレリア陛下はただ静かに冷徹な声で告げた。
「お断りします」
「……何だと?」
貴族らの顔がみるみるうちに驚きと屈辱に歪む。
「聞き間違いか? 我らはエリオットの貴族だと言ったはずだ。このグリゼルダは我が王国の従属国。主人の危機の際に助けるのは当然の義務であろうが!」
「義務ですって? 黙りなさい。ここはあなた方の国の惨状を語り、物乞いをする場ではありません」
「なっ……! 貴様、先の戦争の結果を忘れたとでも言うのか!」
「歴史は忘れておりません。ですがいつまでも過去の勝利に驕り、他国を虐げ続ける国に未来などないと、あなた方の現状が証明しているのではなくて?」
女帝はいっそう語気を強めた。
「我が国がエリオットにどれほどのものを奪われ、民がどれほどの苦難を強いられてきたか、お忘れですか? そなたたちの都合で、これ以上我が民を蔑ろにすることは許しません。帰るべき場所もないと言うのなら、難民として最低限の保護は約束しましょう。それ以上の厚遇を求めるというのなら話は別です」
「き、貴様あっ! 属国の女帝ふぜいが我らに指図する気か!」
一触即発。
貴族たちが激高し、衛兵たちが一斉に剣の柄に手をかける。
ロイエルもついに堪えきれず、一歩前に出ようとしたその時だった。
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