【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

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24.朽ちゆく王国

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エリオット王国は生きたまま緩やかに死に向かっていた。
聖女イリスが「尊い犠牲」となってから、ひと月。
彼女が食い止めたとされた厄災はその勢いを増して国全土を蝕んでいた。

かつて賑わった王都の通りに人影はなく、活気を失った市場には乾いた風が埃を巻き上げて吹き抜けるだけ。
長引く干ばつは大地をひび割れさせ、作物は根こそぎ枯れ果てた。
ティリス川は完全に淀み、緑色の泡を浮かべて腐臭を放っている。
そして狂気に駆られた野生動物たちが、主を失い廃墟と化した街を我が物顔で闊歩する始末だった。


その絶望は王宮も例外ではない。
かつて忠誠を誓った貴族や家臣の半数はとうに国を見限り、我先にと他国へ逃げ出した。がらんとした王宮は静まり返り、かつての栄華を物語る豪奢な装飾だけが今の惨状をより一層惨めに見せていた。

「……また一人、西の辺境伯が領地を放棄した……と」

玉座に力なく座す国王が乾いた声で呟いた。
その顔は深い隈に覆われ、生気がない。
隣に立つ王妃もまた、やつれ果てた顔で虚空を見つめている。

「もう終わりだ……。何もかも」

国王が自嘲気味に吐き捨てた時、息子であるアッシュが重い口を開いた。

「父上、母上。嘆いていても何も始まりません。今は残った者たちで国を立て直すしか……」
「立て直すだと?アッシュ、お前にはこの惨状が見えぬのか!忠誠を誓っていた家臣の半数はとうに我らを見捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った!残ったのは我らの権威にすがるだけの無能か、あるいは我らを憎む民だけだ!もはや打つ手など……」


国王が絶望の声を上げた、まさにその時だった。

「申し上げます! き、緊急のご報告が!」

一人の伝令兵が玉座の間に転がり込んできた。
信じられないものを見たかのような興奮が浮かんでいる。

「何事だ! これ以上悪い報せは聞きたくないぞ!」
「い、いえ! これは我が国にとって一筋の光かと! 追放されたフィーナ・セレスティア様が……フィーナ様が、ご存命であるとの確かな情報が!」
「「「なに!?」」」

王、王妃、そしてアッシュの声が重なった。

「ま、まあ! あの疫病神が……! 生きていたというのですか!? なんてふてぶてしい! 我らがこれほど苦しんでいるというのに自分だけのうのうと!」

王妃のヒステリックな声。
伝令兵は息を継ぎ、さらに驚くべき事実を告げた。

「はっ! それが……ただ生きているだけではございません! 隣国グリゼルダ皇国にて、その類稀なる魔術の才を認められ、今や『宮廷魔術師長』の地位に就かれていると!」
「……宮廷魔術師長だと……?」

アッシュは絶句した。
自分たちが「欠陥品」と蔑み、不毛の地へ追いやった元婚約者が隣国で最も栄誉ある地位にいる。

「父上!」

アッシュは玉座に駆け寄り、父王の両肩を掴んだ。

「すぐにフィーナを連れ戻しましょう! 彼女の力があればこの国はまだ……! 私が自らグリゼルダへ向かいます! どんな罵詈雑言を浴びせられようと、土下座をしてでも、彼女に許しを乞い、この国を救ってくれるよう頼むのです!」
「しかし……今更、どの面下げて……」

弱々しく呟く国王にアッシュは必死に食い下がった。

「プライドを捨ててください! このままでは我々は飢えた民に殺されるか、滅びゆく国と運命を共にするかです! フィーナこそが我々が生き残るための最後の希望なのです!」

――――そうだ、フィーナさえいれば。
あの女を連れ戻し、再びあの結界に捧げれば王家を維持できる――――。

アッシュが密かに思案を巡らしていると突然、


ドォォォォォォン……!!

遠くから、地鳴りのような音が響いてきた。
それは次第に大きくなり、無数の人間の怒号へと変わっていく。

「な、なに!? この音は!」

王妃が金切り声を上げる。
アッシュが玉座の間の巨大な窓に駆け寄ると、信じられない光景が広がっていた。
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