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25.血に濡れた玉座
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王宮の正門が破壊され、松明や農具を手にした民衆が敷地内へなだれ込んでくる。その数は二,三百か。飢えと絶望に歪んだ顔、憎悪に燃える瞳。それはもはや民ではなく、復讐に駆られた獣の群れだった。
「王を出せぇぇぇぇっ!」
「俺たちの家族を返せ!」
「お前たちだけ贅沢しやがって!」
衛兵たちが必死に応戦するも、数の暴力の前ではあまりに無力だった。
次々と斬り伏せられ、踏みつけられていく。
「まずい! ここもすぐに……!」
アッシュが叫んだ瞬間、玉座の間の扉が凄まじい音を立てて破壊された。
「いたぞ! 王族だ!」
血と泥に汚れた男が叫ぶと、民衆が一斉に崩れ込んできた。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
残っていた近衛兵たちが王たちを守ろうと壁になるが、狂乱した民の勢いは止められない。剣が肉を裂く音、骨が砕ける音、断末魔の悲鳴が幾重にも重なり、おぞましい交響曲を奏でる。
「ひぃっ! 助けて、アッシュ!」
「来るな! 近寄るな、下賤の者どもが!」
王と王妃は玉座の影で震え、命乞いと罵倒を繰り返す。
アッシュは剣を抜き、両親の前に立ちはだかった。
「そこをどけ、王子!」
大柄な男が巨大な斧を振りかざしてアッシュに迫る。
アッシュはそれを必死に受け止めるが、腕力の差は歴然。
腕が痺れ、じりじりと後退させられる。
「ぐっ……! お前たち、正気か! こんなことをして国がどうなるか分かっているのか!」
「国なんてもうとっくに終わってんだよ!」
男が斧を押し返すと同時に、別の民兵がアッシュの脇腹を鈍器で殴りつけた。
「がはっ……!」
激痛に膝をつき、剣を取り落とす。
その一瞬の隙を民衆は見逃さなかった。
「父上! 母上!」
アッシュの目の前で、数人の男たちが王と王妃に飛びかかった。
「やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇ!!!」
王の悲鳴。
「いやああああああああああ!!!」
王妃の絶叫。
それはすぐに、ごぼりという湿った音に変わった。
民衆の輪の中心で、何本もの錆びた刃が何度も何度も振り下ろされる。
やがて、勝ち誇った一人の男が血に濡れた何かを高く掲げた。
それはつい先ほどまで父であった男の首だった。
絶望に見開かれた目が、虚ろにアッシュを見つめている。
間髪入れず、母の首も掲げられた。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」
民衆から勝利の雄叫びが上がる。
アッシュは目の前の光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
ただ両親の無残な亡骸だけがスローモーションのように目に焼き付いていた。
近衛騎士が放心状態のアッシュを無理やり引きずるようにして、玉座の間の隠し通路へと押し込んだ。
やがて壮絶な戦いの末に反乱は鎮圧された。
後に残されたのは、玉座の間に山と積まれたおびただしい数の死体と、取り返しのつかない喪失感だけ。
王宮側もまた、その代償として壊滅的な打撃を被り、もはや国としての体裁を保つことすら困難になっていた。
血の海と化した玉座の中央でアッシュは一人、立ち尽くしていた。
両親だったものの亡骸がゴミのように転がっている。
フィーナを連れ戻すという最後の希望もこの惨劇の前ではあまりに空虚だった。
(父上、母上……これが…我らが犯した罪の報いだというのか……)
彼はふらつく足で血に汚れた玉座に歩み寄り、そこに崩れるように腰を下ろした。
「王を出せぇぇぇぇっ!」
「俺たちの家族を返せ!」
「お前たちだけ贅沢しやがって!」
衛兵たちが必死に応戦するも、数の暴力の前ではあまりに無力だった。
次々と斬り伏せられ、踏みつけられていく。
「まずい! ここもすぐに……!」
アッシュが叫んだ瞬間、玉座の間の扉が凄まじい音を立てて破壊された。
「いたぞ! 王族だ!」
血と泥に汚れた男が叫ぶと、民衆が一斉に崩れ込んできた。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
残っていた近衛兵たちが王たちを守ろうと壁になるが、狂乱した民の勢いは止められない。剣が肉を裂く音、骨が砕ける音、断末魔の悲鳴が幾重にも重なり、おぞましい交響曲を奏でる。
「ひぃっ! 助けて、アッシュ!」
「来るな! 近寄るな、下賤の者どもが!」
王と王妃は玉座の影で震え、命乞いと罵倒を繰り返す。
アッシュは剣を抜き、両親の前に立ちはだかった。
「そこをどけ、王子!」
大柄な男が巨大な斧を振りかざしてアッシュに迫る。
アッシュはそれを必死に受け止めるが、腕力の差は歴然。
腕が痺れ、じりじりと後退させられる。
「ぐっ……! お前たち、正気か! こんなことをして国がどうなるか分かっているのか!」
「国なんてもうとっくに終わってんだよ!」
男が斧を押し返すと同時に、別の民兵がアッシュの脇腹を鈍器で殴りつけた。
「がはっ……!」
激痛に膝をつき、剣を取り落とす。
その一瞬の隙を民衆は見逃さなかった。
「父上! 母上!」
アッシュの目の前で、数人の男たちが王と王妃に飛びかかった。
「やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇ!!!」
王の悲鳴。
「いやああああああああああ!!!」
王妃の絶叫。
それはすぐに、ごぼりという湿った音に変わった。
民衆の輪の中心で、何本もの錆びた刃が何度も何度も振り下ろされる。
やがて、勝ち誇った一人の男が血に濡れた何かを高く掲げた。
それはつい先ほどまで父であった男の首だった。
絶望に見開かれた目が、虚ろにアッシュを見つめている。
間髪入れず、母の首も掲げられた。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」
民衆から勝利の雄叫びが上がる。
アッシュは目の前の光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
ただ両親の無残な亡骸だけがスローモーションのように目に焼き付いていた。
近衛騎士が放心状態のアッシュを無理やり引きずるようにして、玉座の間の隠し通路へと押し込んだ。
やがて壮絶な戦いの末に反乱は鎮圧された。
後に残されたのは、玉座の間に山と積まれたおびただしい数の死体と、取り返しのつかない喪失感だけ。
王宮側もまた、その代償として壊滅的な打撃を被り、もはや国としての体裁を保つことすら困難になっていた。
血の海と化した玉座の中央でアッシュは一人、立ち尽くしていた。
両親だったものの亡骸がゴミのように転がっている。
フィーナを連れ戻すという最後の希望もこの惨劇の前ではあまりに空虚だった。
(父上、母上……これが…我らが犯した罪の報いだというのか……)
彼はふらつく足で血に汚れた玉座に歩み寄り、そこに崩れるように腰を下ろした。
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