28 / 34
28.私情ではなく公務
しおりを挟む
翌日、私はロイエルと共に女帝アウレリア陛下の謁見にのぞんでいた。エリオット王国の一件について私が成すべきことを話すため――。
「陛下、本日はかのエリオット王国の件でお話しがございます」
「申してみなさい、フィーナ。あなたの意見を軽んじる者はこの国にはもうおりません」
「はっ。単刀直入に申し上げます。私をエリオット王国へ視察団の長として派遣していただきたく存じます」
その言葉に室内の空気が一瞬で張り詰めた。
宰相は感情を露わにする。
「あの地は今や無法地帯。あなた様のような国の至宝を危険に晒すなど断じて認められません!」
「お心遣い痛み入ります。ですがこれは過去の清算のために申し出ているのではありません。グリゼルダ皇国の宮廷魔術師長としての果たさねばならぬ責務なのです」
私は一同を見据えた。
「伯爵から聞き出したエリオットの『国家護持結界』。暴走の末に沈黙したと……。ですがそれは停止したわけではありません。私の見立てでは不安定な魔力を内包したまま眠っているにすぎない。いわばいつ再暴走してもおかしくない『魔法的な時限爆弾』と化している可能性が高いのです」
皆の顔色が変わる。
「いつ、いかなるきっかけで再暴走するか知りえません。もしそうなればその厄災は国境を軽々と越え、このグリゼルダの地にも甚大な被害を及ぼすでしょう。これは過去のためではないのです。愛するこの国と大陸の未来を守るための公務。危険物を処理しに行く、ただそれだけのことです」
私の説明に宰相は唸りながらも眉間の皺を深くした。
「……魔術的な脅威については理解いたしました。しかしフィーナ様。主を失ったとはいえ、他国へ無断で立ち入ることは国際的な信義にも関わります。周辺諸国に介入の口実を与えることにもなりかねません」
私が口を開くより先に、隣に立つロイエルが力強く一歩前に出た。
「宰相の懸念はもっともだ。だがリスクを冒してでも、我らが介入せねばならぬ理由がそこにある!」
ロイエルは壁に飾られた大陸地図、グリゼルダ皇国の隣に存在するエリオット王国を指し示した。
「あの地は今や王を失い、権力の空白地帯。このまま放置すれば統治を失った民は安住の地を求め、必ずや国境を越えてくるはずだ。それは我らが守るべき皇国の民の生活を脅かし、深刻な治安悪化を招くことは明白!」
私はロイエルの言葉を引き継ぐ。
「座して厄災を待つのは愚策です。ならばグリゼルダが先んじて主導権を握るべきです。私が大使として赴き、エリオットを我々の『保護国』として管理下に置くことを宣言するのです。復興を支援し、危険な遺産を管理することで無害化する。これこそが我が国の安寧と繁栄を守る、最も確実な国家戦略であると考えます」
静まり返った執務室に私の声だけが響き渡る。
個人的な感情を一切排し、ただ国家の未来だけを見据えた進言。
かつて私を捨てた国を今度は私自身の意志で『管理』する。
やがて沈黙を破ったのはアウレリア陛下だった。
その威厳に満ちた顔に満足げな笑みが浮かんでいた。
「あなたという女性はどこまで私の期待を超えてくるのでしょう。宰相、聞こえましたか。これが我が国の新たな頭脳です。私情に流されず国益を追求する判断力……。これは救済ではない。未来への投資であり国家の防衛です」
陛下は玉座からすっと立ち上がった。
「裁可します。宮廷魔術師長フィーナ、あなたをグリゼルダ皇国の大使としてエリオットへ派遣します」
「はっ。必ずや陛下の御期待に応えてみせます」
陛下は続けて、
「そしてロイエル」
「はい、母上!」
「あなたに皇国軍第一部隊の指揮権を与えます。フィーナの剣となり盾となり、彼女の任務遂行をその身をもって支えなさい。これは皇太子としての初陣です。心して臨むように」
「御意!このロイエル、命に代えてもフィーナを守り抜きます!」
力強く答えるロイエルの隣で私は静かに顔を上げた。
あの日、私を無価値だと断じた国へ……その国の運命を握る者として赴く――――――。
「陛下、本日はかのエリオット王国の件でお話しがございます」
「申してみなさい、フィーナ。あなたの意見を軽んじる者はこの国にはもうおりません」
「はっ。単刀直入に申し上げます。私をエリオット王国へ視察団の長として派遣していただきたく存じます」
その言葉に室内の空気が一瞬で張り詰めた。
宰相は感情を露わにする。
「あの地は今や無法地帯。あなた様のような国の至宝を危険に晒すなど断じて認められません!」
「お心遣い痛み入ります。ですがこれは過去の清算のために申し出ているのではありません。グリゼルダ皇国の宮廷魔術師長としての果たさねばならぬ責務なのです」
私は一同を見据えた。
「伯爵から聞き出したエリオットの『国家護持結界』。暴走の末に沈黙したと……。ですがそれは停止したわけではありません。私の見立てでは不安定な魔力を内包したまま眠っているにすぎない。いわばいつ再暴走してもおかしくない『魔法的な時限爆弾』と化している可能性が高いのです」
皆の顔色が変わる。
「いつ、いかなるきっかけで再暴走するか知りえません。もしそうなればその厄災は国境を軽々と越え、このグリゼルダの地にも甚大な被害を及ぼすでしょう。これは過去のためではないのです。愛するこの国と大陸の未来を守るための公務。危険物を処理しに行く、ただそれだけのことです」
私の説明に宰相は唸りながらも眉間の皺を深くした。
「……魔術的な脅威については理解いたしました。しかしフィーナ様。主を失ったとはいえ、他国へ無断で立ち入ることは国際的な信義にも関わります。周辺諸国に介入の口実を与えることにもなりかねません」
私が口を開くより先に、隣に立つロイエルが力強く一歩前に出た。
「宰相の懸念はもっともだ。だがリスクを冒してでも、我らが介入せねばならぬ理由がそこにある!」
ロイエルは壁に飾られた大陸地図、グリゼルダ皇国の隣に存在するエリオット王国を指し示した。
「あの地は今や王を失い、権力の空白地帯。このまま放置すれば統治を失った民は安住の地を求め、必ずや国境を越えてくるはずだ。それは我らが守るべき皇国の民の生活を脅かし、深刻な治安悪化を招くことは明白!」
私はロイエルの言葉を引き継ぐ。
「座して厄災を待つのは愚策です。ならばグリゼルダが先んじて主導権を握るべきです。私が大使として赴き、エリオットを我々の『保護国』として管理下に置くことを宣言するのです。復興を支援し、危険な遺産を管理することで無害化する。これこそが我が国の安寧と繁栄を守る、最も確実な国家戦略であると考えます」
静まり返った執務室に私の声だけが響き渡る。
個人的な感情を一切排し、ただ国家の未来だけを見据えた進言。
かつて私を捨てた国を今度は私自身の意志で『管理』する。
やがて沈黙を破ったのはアウレリア陛下だった。
その威厳に満ちた顔に満足げな笑みが浮かんでいた。
「あなたという女性はどこまで私の期待を超えてくるのでしょう。宰相、聞こえましたか。これが我が国の新たな頭脳です。私情に流されず国益を追求する判断力……。これは救済ではない。未来への投資であり国家の防衛です」
陛下は玉座からすっと立ち上がった。
「裁可します。宮廷魔術師長フィーナ、あなたをグリゼルダ皇国の大使としてエリオットへ派遣します」
「はっ。必ずや陛下の御期待に応えてみせます」
陛下は続けて、
「そしてロイエル」
「はい、母上!」
「あなたに皇国軍第一部隊の指揮権を与えます。フィーナの剣となり盾となり、彼女の任務遂行をその身をもって支えなさい。これは皇太子としての初陣です。心して臨むように」
「御意!このロイエル、命に代えてもフィーナを守り抜きます!」
力強く答えるロイエルの隣で私は静かに顔を上げた。
あの日、私を無価値だと断じた国へ……その国の運命を握る者として赴く――――――。
238
あなたにおすすめの小説
月の雫と地の底の誓い
YY
ファンタジー
完璧な公爵令嬢として、未来の王妃として生きてきた私、セレスティア。しかし、婚約者であるエドワード王子は、勇者召喚の儀式の場で私に言い放った。
「君との婚約を破棄する」
全てを失い、反逆者の汚名と共に追放された先は、王国で最も不毛とされる「地の底」――グラキアの村。家族にも見捨てられ絶望の淵に立たされた私が、それでも生きるために手に取ったのは、たった一本の錆びついた鍬(くわ)だった。
これは、偽りの玉座を追われた令嬢が、泥にまみれながらもかけがえのない仲間と出会い、自らの手で運命を切り拓いていく物語。
やがて「月の雫の乙女」と呼ばれることになる彼女の絶望から始まる再生と奇跡の英雄譚。
※本作は『太陽の剣と地上の奇策』と対になる、同時系列の物語です。
AIはGEMINIを使用しています。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました
桜桃-サクランボ-
恋愛
赤い瞳を持ち生まれた桔梗家次女、桔梗美月。
母と姉に虐げられていた美月は、ひょんなことから冷酷無情と呼ばれ、恐怖の的となっている鬼神家の若当主、鬼神雅に嫁ぐこととなった。
無礼を働けば切り捨てられる。
そう思い、緊張の面持ちで鬼神家へ行く美月。
だが、待ち受けていたのは、思ってもいない溺愛される日々。
口数が少ない雅との、溺愛ストーリー!!
※カクヨム&エブリスタで公開中
※ ※がタイトルにある話は挿絵あり
※挿絵は、清見こうじさん
聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~
雪丸
恋愛
【あらすじ】
聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。
追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。
そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。
「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」
「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」
「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」
命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに?
◇◇◇
小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
カクヨムにて先行公開中(敬称略)
婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜
夜桜
恋愛
辺境の地を治めるクレメンタイン辺境伯家の令嬢ノアは、帝国元老院から突然の召喚を受ける。
帝都で待っていたのは、婚約者である若きエリート議員、マグヌス・ローレンス。――しかし彼は、帝国中枢の面前でノアとの婚約を一方的に破棄する。
「君のような“辺境育ち”では、帝国の未来にふさわしくない」
誰もがノアを笑い、見下し、軽んじる中、ひとりの男が静かに立ち上がった。
「その令嬢が不要なら、私がもらおう」
そう言ったのは、“冷血の大提督”と恐れられる帝国軍最高司令官――レックス・エヴァンス。
冷たく厳しい眼差しの奥に宿る、深い誠実さとあたたかさ。
彼の隣で、ノアは帝都の陰謀に立ち向かい、誇りと未来を取り戻していく。
これは、婚約破棄された辺境伯令嬢が、帝国最強の大提督に“一瞬で”溺愛され、
やがて帝国そのものを揺るがす人生逆転の物語。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜
腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。
絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。
しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身!
「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」
シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。
『役立たず』と追放された私、今では英雄様に守られています
ほーみ
恋愛
辺境伯の三女として生まれた私は、リリィ=エルフォード。
魔力もなく、剣も振れず、社交界の花にもなれない私は、いつしか「家の恥」と呼ばれるようになっていた。
「リリィ、今日からお前は我が家の娘ではない」
父の冷たい声が耳にこびりつく。
その日、私は何の前触れもなく、家から追放された。
理由は、簡単だ。「婚約者にふさわしくない」と判断されたから。
公爵家の三男との縁談が進んでいたが、私の“無能さ”が噂となり、先方が断ってきたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる