【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

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28.私情ではなく公務

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翌日、私はロイエルと共に女帝アウレリア陛下の謁見にのぞんでいた。エリオット王国の一件について私が成すべきことを話すため――。

「陛下、本日はかのエリオット王国の件でお話しがございます」
「申してみなさい、フィーナ。あなたの意見を軽んじる者はこの国にはもうおりません」
「はっ。単刀直入に申し上げます。私をエリオット王国へ視察団の長として派遣していただきたく存じます」

その言葉に室内の空気が一瞬で張り詰めた。
宰相は感情を露わにする。

「あの地は今や無法地帯。あなた様のような国の至宝を危険に晒すなど断じて認められません!」
「お心遣い痛み入ります。ですがこれは過去の清算のために申し出ているのではありません。グリゼルダ皇国の宮廷魔術師長としての果たさねばならぬ責務なのです」

私は一同を見据えた。

「伯爵から聞き出したエリオットの『国家護持結界』。暴走の末に沈黙したと……。ですがそれは停止したわけではありません。私の見立てでは不安定な魔力を内包したまま眠っているにすぎない。いわばいつ再暴走してもおかしくない『魔法的な時限爆弾』と化している可能性が高いのです」

皆の顔色が変わる。

「いつ、いかなるきっかけで再暴走するか知りえません。もしそうなればその厄災は国境を軽々と越え、このグリゼルダの地にも甚大な被害を及ぼすでしょう。これは過去のためではないのです。愛するこの国と大陸の未来を守るための公務。危険物を処理しに行く、ただそれだけのことです」

私の説明に宰相は唸りながらも眉間の皺を深くした。

「……魔術的な脅威については理解いたしました。しかしフィーナ様。主を失ったとはいえ、他国へ無断で立ち入ることは国際的な信義にも関わります。周辺諸国に介入の口実を与えることにもなりかねません」


私が口を開くより先に、隣に立つロイエルが力強く一歩前に出た。

「宰相の懸念はもっともだ。だがリスクを冒してでも、我らが介入せねばならぬ理由がそこにある!」

ロイエルは壁に飾られた大陸地図、グリゼルダ皇国の隣に存在するエリオット王国を指し示した。

「あの地は今や王を失い、権力の空白地帯。このまま放置すれば統治を失った民は安住の地を求め、必ずや国境を越えてくるはずだ。それは我らが守るべき皇国の民の生活を脅かし、深刻な治安悪化を招くことは明白!」


私はロイエルの言葉を引き継ぐ。

「座して厄災を待つのは愚策です。ならばグリゼルダが先んじて主導権を握るべきです。私が大使として赴き、エリオットを我々の『保護国』として管理下に置くことを宣言するのです。復興を支援し、危険な遺産を管理することで無害化する。これこそが我が国の安寧と繁栄を守る、最も確実な国家戦略であると考えます」

静まり返った執務室に私の声だけが響き渡る。
個人的な感情を一切排し、ただ国家の未来だけを見据えた進言。
かつて私を捨てた国を今度は私自身の意志で『管理』する。


やがて沈黙を破ったのはアウレリア陛下だった。
その威厳に満ちた顔に満足げな笑みが浮かんでいた。

「あなたという女性はどこまで私の期待を超えてくるのでしょう。宰相、聞こえましたか。これが我が国の新たな頭脳です。私情に流されず国益を追求する判断力……。これは救済ではない。未来への投資であり国家の防衛です」

陛下は玉座からすっと立ち上がった。

「裁可します。宮廷魔術師長フィーナ、あなたをグリゼルダ皇国の大使としてエリオットへ派遣します」
「はっ。必ずや陛下の御期待に応えてみせます」

陛下は続けて、

「そしてロイエル」
「はい、母上!」
「あなたに皇国軍第一部隊の指揮権を与えます。フィーナの剣となり盾となり、彼女の任務遂行をその身をもって支えなさい。これは皇太子としての初陣です。心して臨むように」
「御意!このロイエル、命に代えてもフィーナを守り抜きます!」

力強く答えるロイエルの隣で私は静かに顔を上げた。
あの日、私を無価値だと断じた国へ……その国の運命を握る者として赴く――――――。
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