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終幕の結婚式
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大聖堂の静寂を破るのは、ただひとつ、シュロトの声だけだった。
「――僕と結婚してほしい」
その言葉は夢のように、ふわりとわたしの耳に舞い込んできた。結婚……。彼とわたしが?
次の瞬間、溢れる喜びが心の最も深い場所から沸き立ち、波のように押し寄せてきた。
「君を愛している。心の底から――。この先どんな試練が訪れようとも、君だけを愛し続けると誓う。僕の人生の全てをかけて、君を幸せにしたい。隣でいつまでも笑っていてほしいんだ。これからの生涯を僕と共に歩んではくれないだろうか」
彼の言葉の一つ一つが心に深く、深く刻み込まれていく。その真摯な瞳から誤魔化しのない誠実な想いが伝わってきて、胸がいっぱいになった。熱い雫が止めどなく頬を濡らした。
目の前にいるのはヴァロア侯爵家という名門の後継者などではなく、ただ一人の女性を愛し、その想いを全身全霊で伝えようとする一人の男性だった。
言葉にならない。ただ、こくこくと何度も頷くことしかできない。声を出そうとしても、嗚咽がこみ上げてきてちゃんとした音にならない。それでも想いをありったけ込めて届けた――。
「はいっ……!喜んで……!」
途切れ途切れだったけれど、返事は確かに彼に届いたようだった。シュロトの顔に安堵と、そしてこの上ない幸福に満ちた笑顔が花開いた。
彼は優しく微笑みながらわたしの左手を取り、その薬指にゆっくりと指輪をはめてくれた。ひんやりとした金属の感触とダイヤモンドの重み。指にぴったりと収まったその指輪はずっと昔からそこにあったかのように、指にしっくりと馴染んだ。
キラキラと輝く指輪を見つめる。それはただの美しい装飾品ではない。シュロトの愛の証。未来への変わらぬ約束の形。
「ありがとう、リリーナ……!プロポーズを受けてくれて、僕は世界一の幸せ者だ」
シュロトは感極まったように立ち上がり、再び力強く抱きしめた。彼の腕の中で、彼の肩に顔をうずめた。
「わたしの方こそありがとう、シュロト。こんなにも幸せでいいの……」
「ああ、いいんだ。君は誰よりも幸せになる資格がある。僕が必ず君を世界で一番幸せな女性にするよ」
――彼の言葉は何物にも代えがたい特別な贈り物。この腕の中にいればもう何も恐れることはない。彼のためならなんだって頑張れるし、どんな困難も必ず乗り越えていける――そんな確信が心に芽生えた。
「さあ、行こうか。新しい始まりの空を見に」
シュロトがわたしの手を取り、エスコートするように促した。二人はゆっくりと祭壇に背を向け、静寂に満ちた大聖堂の長い通路を歩き出す。
扉を二人で押し開けると、眩いばかりの光と共に、外の清々しい空気が一気に流れ込んできた。大聖堂の中の静けさとは対照的に、小鳥たちの愛らしいさえずりや、木々の葉が揺れる音、遠くから聞こえる街の賑わいが生き生きとした世界の息吹として迎えてくれる。
手を取り合ったまま、大聖堂の石段をゆっくりと降りた。そして揃って空を見上げた。彼はわたしの肩をそっと抱き寄せる。
そこにはどこまでも広がる、一点の曇りもない澄み渡った青空があった。白い雲がゆったりと流れ、太陽の光が世界をさんさんと照らし出している。
シュロトの隣で果てしない空を見つめながら、左手の薬指にはめられた指輪の重みと輝きを改めて感じていた。これは夢ではない。この幸福は紛れもなく自分のものなのだと――。
「これからどんな景色も一緒に見よう。楽しいことも嬉しいことも、悲しいことや辛いことだってあるかもしれない。そんな時は全部二人で分かち合おう。もし嵐が吹き荒れても、この空が再び晴れ渡るように、僕たちなら乗り越えていける」
「――はい、シュロト」
シュロトはリリーナの手をより一層強く握りしめ、その声には揺るぎない自信が満ちていた。
「あなたと一緒なら……きっと大丈夫」
リリーナもまた、シュロトの手に力を込めて応える。
太陽の光が二人の指輪に反射して、重なり合う手の上で小さな虹色の輝きとなった。二人の愛の物語は、今、この瞬間から永遠へと続いていくのだった――――。
(完)
「――僕と結婚してほしい」
その言葉は夢のように、ふわりとわたしの耳に舞い込んできた。結婚……。彼とわたしが?
次の瞬間、溢れる喜びが心の最も深い場所から沸き立ち、波のように押し寄せてきた。
「君を愛している。心の底から――。この先どんな試練が訪れようとも、君だけを愛し続けると誓う。僕の人生の全てをかけて、君を幸せにしたい。隣でいつまでも笑っていてほしいんだ。これからの生涯を僕と共に歩んではくれないだろうか」
彼の言葉の一つ一つが心に深く、深く刻み込まれていく。その真摯な瞳から誤魔化しのない誠実な想いが伝わってきて、胸がいっぱいになった。熱い雫が止めどなく頬を濡らした。
目の前にいるのはヴァロア侯爵家という名門の後継者などではなく、ただ一人の女性を愛し、その想いを全身全霊で伝えようとする一人の男性だった。
言葉にならない。ただ、こくこくと何度も頷くことしかできない。声を出そうとしても、嗚咽がこみ上げてきてちゃんとした音にならない。それでも想いをありったけ込めて届けた――。
「はいっ……!喜んで……!」
途切れ途切れだったけれど、返事は確かに彼に届いたようだった。シュロトの顔に安堵と、そしてこの上ない幸福に満ちた笑顔が花開いた。
彼は優しく微笑みながらわたしの左手を取り、その薬指にゆっくりと指輪をはめてくれた。ひんやりとした金属の感触とダイヤモンドの重み。指にぴったりと収まったその指輪はずっと昔からそこにあったかのように、指にしっくりと馴染んだ。
キラキラと輝く指輪を見つめる。それはただの美しい装飾品ではない。シュロトの愛の証。未来への変わらぬ約束の形。
「ありがとう、リリーナ……!プロポーズを受けてくれて、僕は世界一の幸せ者だ」
シュロトは感極まったように立ち上がり、再び力強く抱きしめた。彼の腕の中で、彼の肩に顔をうずめた。
「わたしの方こそありがとう、シュロト。こんなにも幸せでいいの……」
「ああ、いいんだ。君は誰よりも幸せになる資格がある。僕が必ず君を世界で一番幸せな女性にするよ」
――彼の言葉は何物にも代えがたい特別な贈り物。この腕の中にいればもう何も恐れることはない。彼のためならなんだって頑張れるし、どんな困難も必ず乗り越えていける――そんな確信が心に芽生えた。
「さあ、行こうか。新しい始まりの空を見に」
シュロトがわたしの手を取り、エスコートするように促した。二人はゆっくりと祭壇に背を向け、静寂に満ちた大聖堂の長い通路を歩き出す。
扉を二人で押し開けると、眩いばかりの光と共に、外の清々しい空気が一気に流れ込んできた。大聖堂の中の静けさとは対照的に、小鳥たちの愛らしいさえずりや、木々の葉が揺れる音、遠くから聞こえる街の賑わいが生き生きとした世界の息吹として迎えてくれる。
手を取り合ったまま、大聖堂の石段をゆっくりと降りた。そして揃って空を見上げた。彼はわたしの肩をそっと抱き寄せる。
そこにはどこまでも広がる、一点の曇りもない澄み渡った青空があった。白い雲がゆったりと流れ、太陽の光が世界をさんさんと照らし出している。
シュロトの隣で果てしない空を見つめながら、左手の薬指にはめられた指輪の重みと輝きを改めて感じていた。これは夢ではない。この幸福は紛れもなく自分のものなのだと――。
「これからどんな景色も一緒に見よう。楽しいことも嬉しいことも、悲しいことや辛いことだってあるかもしれない。そんな時は全部二人で分かち合おう。もし嵐が吹き荒れても、この空が再び晴れ渡るように、僕たちなら乗り越えていける」
「――はい、シュロト」
シュロトはリリーナの手をより一層強く握りしめ、その声には揺るぎない自信が満ちていた。
「あなたと一緒なら……きっと大丈夫」
リリーナもまた、シュロトの手に力を込めて応える。
太陽の光が二人の指輪に反射して、重なり合う手の上で小さな虹色の輝きとなった。二人の愛の物語は、今、この瞬間から永遠へと続いていくのだった――――。
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