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7.氷血伯との対面
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――――その時。バタバタと慌ただしい足音が響き、息を切らした職員が部屋に飛び込んできた。
「し、市長!お客様です!一階のホールでお待ちです……!」
職員に促されるままホールへと向かうと、そこには場違いなほど異質な空気をまとった一団が立っている。中心で腕を組み、冷ややかな視線でこちらを見つめる一人の男。
銀髪のショートボブ、氷を削り出したかのような整った顔立ち。佇まいは絶対零度の冷たさを放ち、周囲の空気を凍てつかせているかのよう。オドネルが即座に私の前に立ち、警戒を露わにする。職員たちの間にも緊張が走る。
「地図を囲んで宝探しごっことは……なるほど、君が新しい市長殿か。随分と楽しげじゃないか」
侮蔑を隠そうともしない。けれど私は臆さない。オドネルを下がらせると、埃のついた手をスカートで軽く払い、一歩前に出る。
「ご挨拶が遅れました。私がこのアトランシアの市長、ルティア・ヴェルフェンです。貴方様は?」
「俺はシオン・クレイヴァーン。このアトランシアの隣、クレイヴァーン領を治める伯爵だ」
その名には聞き覚えがあった。若くして伯爵位を継ぎ、鉄の規律と冷徹な判断力で腕をふるう領主――――『氷血伯』の異名で恐れられる男。
「これはクレイヴァーン伯爵。わざわざご足労いただき恐縮です。ご覧の通り、街の再建に向けて追われており、お見苦しい姿で失礼いたしました」
あえて笑顔で応じた。前世のコンサルタント時代、こういう高圧的な態度の交渉相手は数えきれないほど接してきた。
「王都を追われた罪人のお嬢様が廃墟で市長のまね事とは酔狂なことだ。その熱意がいつまで続くものか、見物だな」
「まね事ではありません。事業です」
きっぱりと訂正した。
「このアトランシアには、まだ活用されていない資産と人材が眠っています。それを蘇らせ、かつて以上の価値を創造する。伯爵様のような優れた領主であれば、この事業の可能性をお分かりいただけるかと存じますが?」
「……口だけは達者なようだな」
彼はそれだけ言うとくるりと背を向けた。挨拶は済んだとばかりに、部下を伴って出口へと向かう。
「せいぜい足掻くがいい。この街が君の墓場にならぬよう祈っている。お手並み拝見といこうか、市長殿……では」
扉が閉まり、彼の姿が見えなくなると、ホールを支配していた張りつめた空気がようやく緩んだ。
「なんて無礼な奴だ!」と職員の一人が憤慨の声を上げる。オドネルも心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「お嬢様、お気をつけください。あの男、ただ者ではありませぬ」
「ええ、分かっています」
冷酷で高圧的。その裏には合理的な思考が見え隠れする。彼がわざわざ足を運んできたのは、隣接するアトランシアの動向が自身の領地に与える影響を無視できないからに他ならない。敵になるか、味方になるか。あるいは利害が一致した時だけ手を組むビジネスパートナーか。
いずれにせよ私の計画は揺るがない。
「し、市長!お客様です!一階のホールでお待ちです……!」
職員に促されるままホールへと向かうと、そこには場違いなほど異質な空気をまとった一団が立っている。中心で腕を組み、冷ややかな視線でこちらを見つめる一人の男。
銀髪のショートボブ、氷を削り出したかのような整った顔立ち。佇まいは絶対零度の冷たさを放ち、周囲の空気を凍てつかせているかのよう。オドネルが即座に私の前に立ち、警戒を露わにする。職員たちの間にも緊張が走る。
「地図を囲んで宝探しごっことは……なるほど、君が新しい市長殿か。随分と楽しげじゃないか」
侮蔑を隠そうともしない。けれど私は臆さない。オドネルを下がらせると、埃のついた手をスカートで軽く払い、一歩前に出る。
「ご挨拶が遅れました。私がこのアトランシアの市長、ルティア・ヴェルフェンです。貴方様は?」
「俺はシオン・クレイヴァーン。このアトランシアの隣、クレイヴァーン領を治める伯爵だ」
その名には聞き覚えがあった。若くして伯爵位を継ぎ、鉄の規律と冷徹な判断力で腕をふるう領主――――『氷血伯』の異名で恐れられる男。
「これはクレイヴァーン伯爵。わざわざご足労いただき恐縮です。ご覧の通り、街の再建に向けて追われており、お見苦しい姿で失礼いたしました」
あえて笑顔で応じた。前世のコンサルタント時代、こういう高圧的な態度の交渉相手は数えきれないほど接してきた。
「王都を追われた罪人のお嬢様が廃墟で市長のまね事とは酔狂なことだ。その熱意がいつまで続くものか、見物だな」
「まね事ではありません。事業です」
きっぱりと訂正した。
「このアトランシアには、まだ活用されていない資産と人材が眠っています。それを蘇らせ、かつて以上の価値を創造する。伯爵様のような優れた領主であれば、この事業の可能性をお分かりいただけるかと存じますが?」
「……口だけは達者なようだな」
彼はそれだけ言うとくるりと背を向けた。挨拶は済んだとばかりに、部下を伴って出口へと向かう。
「せいぜい足掻くがいい。この街が君の墓場にならぬよう祈っている。お手並み拝見といこうか、市長殿……では」
扉が閉まり、彼の姿が見えなくなると、ホールを支配していた張りつめた空気がようやく緩んだ。
「なんて無礼な奴だ!」と職員の一人が憤慨の声を上げる。オドネルも心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「お嬢様、お気をつけください。あの男、ただ者ではありませぬ」
「ええ、分かっています」
冷酷で高圧的。その裏には合理的な思考が見え隠れする。彼がわざわざ足を運んできたのは、隣接するアトランシアの動向が自身の領地に与える影響を無視できないからに他ならない。敵になるか、味方になるか。あるいは利害が一致した時だけ手を組むビジネスパートナーか。
いずれにせよ私の計画は揺るがない。
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