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8.壊して、創る
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市庁舎に戻り、地図の前に職員たちを集めた私は指を三本立てた。
「皆さんの協力のおかげで、この街が抱える問題点が明確になりました。課題は山積みですが、一度にすべては解決できません。そこで都市再生計画の第一段階として、最優先で取り組むべき3つのプロジェクトを発表します」
人々の視線が私に集中する。
「それは『水』『食料』そして『安全』です。人間が生きる上で、そして街が機能する上で不可欠な生命線。私たちはまずこの3つのインフラを確立します。最初に取り掛かるのは最も喫緊の課題である『水』です」
地図に記された、今は枯れている水路の跡を指し示した。
「この街には、かつて山から清浄な水を引き込んでいた水路がありました。これを修復し、街の隅々まで安定した水の供給を復活させます。ついてはこの事業に参加してくださる市民を募集します。労働には必ず対価を支払うと約束しましょう」
私の宣言はすぐに街の広場に張り出された。しかし数日後、指定した場所に集まったのはわずか十名程度。長年の貧困と絶望は新しい何かを信じる力さえも奪っていた。彼らは腕を組み、疑い深い目で私を遠巻きに見ている。
「……これだけか」
職員の一人が失望の声を漏らした。私は集まってくれた人々に向き直る。
「皆さん、よく来てくださいました。たった今、あなた方はアトランシア再生の最初の立役者となりました。さあ、始めましょう」
私が彼らを導いた先は水路があった場所ではなく、完全に倒壊し瓦礫の山と化した建物が並ぶ一角。人々は怪訝な顔で顔を見合わせる。
「市長様、水路を直すのでは?」
代表して尋ねた男の声に瓦礫の山を指さし、
「ええ。そのためにまずこの建物を『解体』します」
その言葉にその場にいた全員が固まった。職員も、集まった住民も、そして護衛のオドネルさえも。
「正気ですか、お嬢様!?」
「新しい市長は街を更地にするつもりなのか!?」
ざわめきが大きくなり、あからさまな困惑と不信が私に向けられる。私は冷静に説明を続ける。
「皆さん、水路を直すには何が必要ですか? そう、資材です。けど、今の私たちに山から新たに石を切り出し、運んでくるだけの資金も労働力もありません。ならばどうするか? 答えは私たちの足元にあります」
私は瓦礫の一つを拾い上げ、彼らに見せた。
「これはただの廃墟ではありません。先人たちが築き上げた良質な石材の宝庫です。これを再利用しない手はありません。コストはほぼゼロ。必要なのは私たちの労働力だけです」
合理的で大胆な発想に誰もが言葉を失う。
「まずは安全に建物を解体し、使えそうな石材を大きさごとに分別してください。鉄屑や木材も貴重な資源です。一つも無駄にはできません」
そして、私は集団の中にいたバルトマーに向き直った。
「バルトマーさん。先日、あなたの手のマメを見ました。それは紛れもなく一流の石工の証。あなたの腕を見込んでお願いがあります。この分別した石を水路を補修するためのパーツとして加工していただけますか?」
「……なるほど。廃材からパーツを作り、現場で組み合わせるのか。これなら少ない資材と人数でも……。面白いことを考えるお人だ」
彼は埃をかぶった道具箱を開けると、鑿(のみ)と槌(つち)を手に取った。そして、分別された石の一つに向き直ると、心地よい金属音を響かせ始める。カン、カン、カン――。
その音に作業をしていた誰もが手を止め、見守った。ただの瓦礫だった石の塊が熟練の技術によって正確な角度で削られ、滑らかな溝を持つ見事な水路のパーツへと姿を変えていく。
「……そういうことだったのか」
誰かが呟いた。資材がないなら、街そのものから作り出す。絶望の象徴であった廃墟は再生のための資材。ルティアの真意を理解した人々の間に、驚きと感嘆、そして興奮が波のように広がっていった。私は完成した最初の一個を手に取り、高く掲げる。
「見てください!これが最初の希望のひとかけらです!」
「皆さんの協力のおかげで、この街が抱える問題点が明確になりました。課題は山積みですが、一度にすべては解決できません。そこで都市再生計画の第一段階として、最優先で取り組むべき3つのプロジェクトを発表します」
人々の視線が私に集中する。
「それは『水』『食料』そして『安全』です。人間が生きる上で、そして街が機能する上で不可欠な生命線。私たちはまずこの3つのインフラを確立します。最初に取り掛かるのは最も喫緊の課題である『水』です」
地図に記された、今は枯れている水路の跡を指し示した。
「この街には、かつて山から清浄な水を引き込んでいた水路がありました。これを修復し、街の隅々まで安定した水の供給を復活させます。ついてはこの事業に参加してくださる市民を募集します。労働には必ず対価を支払うと約束しましょう」
私の宣言はすぐに街の広場に張り出された。しかし数日後、指定した場所に集まったのはわずか十名程度。長年の貧困と絶望は新しい何かを信じる力さえも奪っていた。彼らは腕を組み、疑い深い目で私を遠巻きに見ている。
「……これだけか」
職員の一人が失望の声を漏らした。私は集まってくれた人々に向き直る。
「皆さん、よく来てくださいました。たった今、あなた方はアトランシア再生の最初の立役者となりました。さあ、始めましょう」
私が彼らを導いた先は水路があった場所ではなく、完全に倒壊し瓦礫の山と化した建物が並ぶ一角。人々は怪訝な顔で顔を見合わせる。
「市長様、水路を直すのでは?」
代表して尋ねた男の声に瓦礫の山を指さし、
「ええ。そのためにまずこの建物を『解体』します」
その言葉にその場にいた全員が固まった。職員も、集まった住民も、そして護衛のオドネルさえも。
「正気ですか、お嬢様!?」
「新しい市長は街を更地にするつもりなのか!?」
ざわめきが大きくなり、あからさまな困惑と不信が私に向けられる。私は冷静に説明を続ける。
「皆さん、水路を直すには何が必要ですか? そう、資材です。けど、今の私たちに山から新たに石を切り出し、運んでくるだけの資金も労働力もありません。ならばどうするか? 答えは私たちの足元にあります」
私は瓦礫の一つを拾い上げ、彼らに見せた。
「これはただの廃墟ではありません。先人たちが築き上げた良質な石材の宝庫です。これを再利用しない手はありません。コストはほぼゼロ。必要なのは私たちの労働力だけです」
合理的で大胆な発想に誰もが言葉を失う。
「まずは安全に建物を解体し、使えそうな石材を大きさごとに分別してください。鉄屑や木材も貴重な資源です。一つも無駄にはできません」
そして、私は集団の中にいたバルトマーに向き直った。
「バルトマーさん。先日、あなたの手のマメを見ました。それは紛れもなく一流の石工の証。あなたの腕を見込んでお願いがあります。この分別した石を水路を補修するためのパーツとして加工していただけますか?」
「……なるほど。廃材からパーツを作り、現場で組み合わせるのか。これなら少ない資材と人数でも……。面白いことを考えるお人だ」
彼は埃をかぶった道具箱を開けると、鑿(のみ)と槌(つち)を手に取った。そして、分別された石の一つに向き直ると、心地よい金属音を響かせ始める。カン、カン、カン――。
その音に作業をしていた誰もが手を止め、見守った。ただの瓦礫だった石の塊が熟練の技術によって正確な角度で削られ、滑らかな溝を持つ見事な水路のパーツへと姿を変えていく。
「……そういうことだったのか」
誰かが呟いた。資材がないなら、街そのものから作り出す。絶望の象徴であった廃墟は再生のための資材。ルティアの真意を理解した人々の間に、驚きと感嘆、そして興奮が波のように広がっていった。私は完成した最初の一個を手に取り、高く掲げる。
「見てください!これが最初の希望のひとかけらです!」
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