【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

文字の大きさ
9 / 70

9.芽生えた疑念※ヴォルフside

しおりを挟む
王都の謁見室はルティアを追放した夜会以来、晴れやかな光に満ちていた。父である国王と母である王妃、そして俺の隣には守るべきエリーゼが天使のような微笑みを浮かべて寄り添っている。邪悪な令嬢は追放され、善良な聖女が俺の腕の中にいる。この完璧な物語の完成に俺は満ち足りた気持ちでいた。

そこへアトランシアへ放っていた偵察兵が帰還し報告を始めた。

「ご報告いたします! ルティア・ヴェルフェンはアトランシアに到着後、市長として奇妙な行動を開始しております」
「奇妙な行動だと?」
「はっ。ルティアは街の住民をわずかながら集め、こともあろうに街に残る廃墟の建物を次々と『解体』させております!」

その報告に謁見室は一瞬の沈黙の後、大きな笑いに包まれた。

「はっはっは! なんだそれは! ついに狂ったか、あの女は! 廃墟の街を自らさらに破壊しているとは。現実を受け入れられず錯乱しおったな!」

父上が腹を抱えて笑い、母上も扇子で口元を隠しながら、

「まあ、お下品な。伯爵令嬢ともあろう方が瓦礫遊びとは。ヴェルフェン伯爵もさぞお嘆きでしょうね。娘の教育を間違えたと」
「ルティア様……アトランシアの民がどれほど不安なことでしょう。あまりに可哀そう……」

エリーゼが悲しそうに瞳を潤ませ、俺の腕に顔をうずめる。そのか弱い姿がいじらしく、俺は彼女の肩を抱き寄せた。

「自業自得だ、エリーゼ。君を傷つけた罰だよ」

そう、自業自得。俺も周囲と同じようにルティアの愚かな行動を心の中で嘲笑った。―――だが、兵士の次の言葉がその嘲りをピタリと止めた。

「…そして解体で出た石材や鉄屑を資材として再利用し、枯れた水路の修復作業を始めている…とのことです」
「……何?」

思わず声が漏れた。謁見室の笑い声がぴたりと止む。父上と母上は意味が分からないといった顔で眉をひそめている。だが、俺の頭の中では、バラバラだった情報が一つの絵として繋がり始めていた。

廃墟を解体する。そこから資材を得る。その資材で水路をなおす。
……馬鹿な。

資金も資材もない、あの流刑地でインフラを整備するための、唯一にして最善の策ではないか? 住民に仕事を与え、瓦礫を撤去して街の景観を整え、そして最も重要なライフラインである水を確保する。……一つの行動がいくつもの問題を同時に解決へと導く……。

「くだらんことを。そんな付け焼き刃で何ができるというのだ」

父上が興味を失ったように吐き捨てる。エリーゼも「きっとすぐに諦めてしまいますわ」と囁いた。俺も表向きは「ええ、父上。愚かな女の最後の悪あがきでしょう」と頷いてみせる。

だが、内心は違った。これは悪あがきなどではない。明白な目的意識に基づいた大胆不敵な一手。俺が思い描いていた泣き叫び絶望するルティアの姿はどこにもない。そこにあるのは、困難な状況を真正面から捉え、常識外れの発想で活路を見出そうとする政治家の姿。

いや、まぐれだ。きっと誰かの入れ知恵だろう。そうだ、そうでなければおかしい。そう自分に言い聞かせても、一度抱いた疑念は燻り続ける。俺が下した断罪は正しかったのだろうか。初めて、ほんのわずかな後悔にも似た感情が胸に沸いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

『婚約破棄された令嬢ですが、名も残さず街を支えています』

ふわふわ
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢コルネリア・フォン・ヴァルデン。 名誉も立場も失いかけた彼女が選んだのは、誰かに勝つことでも、名を取り戻すことでもなかった。 前に立たず、声高に語らず、ただ「判断が続く仕組み」を街に残すこと。 現場に任せ、失敗を隠さず、問いを残し、そして最後には自ら手を離す――。 名を呼ばれず、称賛もされない。 それでも街は止まらず、確かに良くなっていく。 これは、ざまぁの先で「勝たなかった令嬢」が、 静かに世界を変え、そして正しく消えていく物語。

【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。

公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に

ゆっこ
恋愛
 王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。  私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。 「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」  唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。  婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。 「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」  ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

処理中です...