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9.芽生えた疑念※ヴォルフside
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王都の謁見室はルティアを追放した夜会以来、晴れやかな光に満ちていた。父である国王と母である王妃、そして俺の隣には守るべきエリーゼが天使のような微笑みを浮かべて寄り添っている。邪悪な令嬢は追放され、善良な聖女が俺の腕の中にいる。この完璧な物語の完成に俺は満ち足りた気持ちでいた。
そこへアトランシアへ放っていた偵察兵が帰還し報告を始めた。
「ご報告いたします! ルティア・ヴェルフェンはアトランシアに到着後、市長として奇妙な行動を開始しております」
「奇妙な行動だと?」
「はっ。ルティアは街の住民をわずかながら集め、こともあろうに街に残る廃墟の建物を次々と『解体』させております!」
その報告に謁見室は一瞬の沈黙の後、大きな笑いに包まれた。
「はっはっは! なんだそれは! ついに狂ったか、あの女は! 廃墟の街を自らさらに破壊しているとは。現実を受け入れられず錯乱しおったな!」
父上が腹を抱えて笑い、母上も扇子で口元を隠しながら、
「まあ、お下品な。伯爵令嬢ともあろう方が瓦礫遊びとは。ヴェルフェン伯爵もさぞお嘆きでしょうね。娘の教育を間違えたと」
「ルティア様……アトランシアの民がどれほど不安なことでしょう。あまりに可哀そう……」
エリーゼが悲しそうに瞳を潤ませ、俺の腕に顔をうずめる。そのか弱い姿がいじらしく、俺は彼女の肩を抱き寄せた。
「自業自得だ、エリーゼ。君を傷つけた罰だよ」
そう、自業自得。俺も周囲と同じようにルティアの愚かな行動を心の中で嘲笑った。―――だが、兵士の次の言葉がその嘲りをピタリと止めた。
「…そして解体で出た石材や鉄屑を資材として再利用し、枯れた水路の修復作業を始めている…とのことです」
「……何?」
思わず声が漏れた。謁見室の笑い声がぴたりと止む。父上と母上は意味が分からないといった顔で眉をひそめている。だが、俺の頭の中では、バラバラだった情報が一つの絵として繋がり始めていた。
廃墟を解体する。そこから資材を得る。その資材で水路をなおす。
……馬鹿な。
資金も資材もない、あの流刑地でインフラを整備するための、唯一にして最善の策ではないか? 住民に仕事を与え、瓦礫を撤去して街の景観を整え、そして最も重要なライフラインである水を確保する。……一つの行動がいくつもの問題を同時に解決へと導く……。
「くだらんことを。そんな付け焼き刃で何ができるというのだ」
父上が興味を失ったように吐き捨てる。エリーゼも「きっとすぐに諦めてしまいますわ」と囁いた。俺も表向きは「ええ、父上。愚かな女の最後の悪あがきでしょう」と頷いてみせる。
だが、内心は違った。これは悪あがきなどではない。明白な目的意識に基づいた大胆不敵な一手。俺が思い描いていた泣き叫び絶望するルティアの姿はどこにもない。そこにあるのは、困難な状況を真正面から捉え、常識外れの発想で活路を見出そうとする政治家の姿。
いや、まぐれだ。きっと誰かの入れ知恵だろう。そうだ、そうでなければおかしい。そう自分に言い聞かせても、一度抱いた疑念は燻り続ける。俺が下した断罪は正しかったのだろうか。初めて、ほんのわずかな後悔にも似た感情が胸に沸いた。
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「ご報告いたします! ルティア・ヴェルフェンはアトランシアに到着後、市長として奇妙な行動を開始しております」
「奇妙な行動だと?」
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その報告に謁見室は一瞬の沈黙の後、大きな笑いに包まれた。
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「自業自得だ、エリーゼ。君を傷つけた罰だよ」
そう、自業自得。俺も周囲と同じようにルティアの愚かな行動を心の中で嘲笑った。―――だが、兵士の次の言葉がその嘲りをピタリと止めた。
「…そして解体で出た石材や鉄屑を資材として再利用し、枯れた水路の修復作業を始めている…とのことです」
「……何?」
思わず声が漏れた。謁見室の笑い声がぴたりと止む。父上と母上は意味が分からないといった顔で眉をひそめている。だが、俺の頭の中では、バラバラだった情報が一つの絵として繋がり始めていた。
廃墟を解体する。そこから資材を得る。その資材で水路をなおす。
……馬鹿な。
資金も資材もない、あの流刑地でインフラを整備するための、唯一にして最善の策ではないか? 住民に仕事を与え、瓦礫を撤去して街の景観を整え、そして最も重要なライフラインである水を確保する。……一つの行動がいくつもの問題を同時に解決へと導く……。
「くだらんことを。そんな付け焼き刃で何ができるというのだ」
父上が興味を失ったように吐き捨てる。エリーゼも「きっとすぐに諦めてしまいますわ」と囁いた。俺も表向きは「ええ、父上。愚かな女の最後の悪あがきでしょう」と頷いてみせる。
だが、内心は違った。これは悪あがきなどではない。明白な目的意識に基づいた大胆不敵な一手。俺が思い描いていた泣き叫び絶望するルティアの姿はどこにもない。そこにあるのは、困難な状況を真正面から捉え、常識外れの発想で活路を見出そうとする政治家の姿。
いや、まぐれだ。きっと誰かの入れ知恵だろう。そうだ、そうでなければおかしい。そう自分に言い聞かせても、一度抱いた疑念は燻り続ける。俺が下した断罪は正しかったのだろうか。初めて、ほんのわずかな後悔にも似た感情が胸に沸いた。
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