【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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15.心の拠り所

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市庁舎の窓から街を眺める私の胸には新たな課題が生まれていた。

人々は挨拶を交わすようにはなった。けれど、そこに昔からの隣人のような親密さはない。市場での会話も必要最低限。水汲み場での世間話もどこかぎこちない。長年の貧困と不信が人々の心に見えない壁を作り上げていた。バラバラになった心を一つに繋ぐ、新たな「何か」が必要――。

「心の拠り所……そうだわ」

前世の記憶がふと蘇る。疲れて家に帰った時、家族で囲んだ温かい食卓。何気ない会話と笑い声。それこそが明日への活力を生み出していた。

私は市庁舎に職員たちを集め、新たな計画を発表した。

「この街に皆が気軽に集える食堂を作ります。温かい食事を同じテーブルで囲むことで、心と心を通わせるきっかけを作るのです。メインディッシュは『うどん』にします」
「……う、うどん?」

聞き慣れない単語にオドネルが代表して首を傾げる。

「小麦粉を水と塩で練って生地を作り、足で踏んでコシを出し、伸ばして切って茹で上げる。シンプルながら奥深く、心も体も温まる素晴らしい料理です」

熱のこもった説明にも職員たちはイメージをつかめずにいる様子。そこへ、私より少し年上の元宮廷料理人だったという女性、姉御肌のミランダが口を挟んだ。

「市長。話はわかったけど、この国の小麦じゃ逆立ちしたって無理だよ。パンにしか使えないガチガチの代物さ。市長が欲しがってるモチモチなんてできっこない」

彼女の指摘は的確だった。この世界の食文化の中心はパン。うどん特有のコシを生み出すには全く不向き。でも、私は諦めない。経営コンサルタントとして代替案やニッチな需要を探し出すのは得意分野。

「ないのなら見つけ出すまでです。この土地の可能性をまだ私たちは知り尽くしてはいない」

その日から私の調査が再び始まった。以前手に入れた植物図鑑や農耕記録を読み解き、街の農家や古老に聞き込みを重ねる。そして数日後、ついに有力な情報を手に入れた。アトランシア周辺の痩せた土地に、古くから自生している野生種の麦があるという。それはパンが膨らまないため「屑麦」と呼ばれ、まともに収穫されることもなく打ち捨てられている存在らしい。

(……調べてみる価値はありそう)

早速馬を走らせたのは街から離れた痩せた土地。そこに生えていたのは風に頼りなげに揺れる背の低い麦。これが「屑麦」……。穂から取り出した一粒を指で潰してみると、パサリと乾いた感触で砕け散った。求めていた粘り気とは程遠い。これでは到底コシのある生地など作れそうにない……。
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