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67.皆さんは家族
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あの夜の誓いから一夜が明けた。
私、ルティア・ヴェルフェンとシオン・クレイヴァーンの婚約。その報せは公式発表を待つことなどできず、早朝の街中へ噂として駆け巡った。まるでこの吉報を待ち焦がれていたかのように。
「聞いたか!? 我らが市長と伯爵様が、ついに!」
「ああ、知ってるさ! この街で一番待ち望まれていた春が来たんだ!」
中央市場では『祝・ご婚約記念!赤字覚悟の大セール!』と書かれた手描きの看板が掲げられ、威勢のいい呼び込みの声が飛び交う。顔なじみのパン屋の親父さんは目尻のシワに涙を溜めながら、焼きたてのハート型のパンを子供たちに配り歩いていた。
昼間だというのに、酒場という酒場からは陽気な歌声と乾杯の音が絶え間なく聞こえてくる。「我らが市長と旦那様に!」そんな掛け声と共に高々とジョッキが掲げられ、街はお祭り騒ぎとなっていた。
一方、その騒ぎの中心である市庁舎の執務室で、
「シオン、南の港から交易船の入港待ちが限界だって連絡が……」
「ああ。物流が増えすぎて、検疫も荷下ろしも追いついていないな。早急に人員を……」
個人の幸福に浸る間もなく、私たちは連合議長と副議長としての職務をこなす。しかし、窓の外から届く絶え間ない喧騒がどうしても集中を妨げた。
「なんだか、いつもより騒がしくないか?」
シオンが不思議そうに窓に近づいたその時だった。市長室の扉が勢いよく開かれ職員が、
「大変です……いえ、素晴らしいことになっています! どうか窓の外を!」
促されるまま、窓辺へと駆け寄る。眼下に広がっていたのは信じられない光景。市庁舎前の広場が人波で埋め尽くされているのだ。誰もが満面の笑みでこちらを見上げ、手を振っている。その群衆の最前列に見覚えのある顔ぶれを見つけた。
穏やかな笑みで杖を握る老魔術師のダビデ。魔道具開発にその知識を惜しみなく貸してくれた恩人。隣には腕を組んで、目元が優しく緩んでいる石工のバルトマー。彼の腕がこの街の礎となる石を一つ一つ積み上げてくれた。
そして、少し照れくさそうに頭を掻いているのは、元ゴロツキで今や市民の安全を守る警備隊長のファーゴ。かつての荒くれ者が、今や市民の平和の盾となっている。さらにその中心で、ひときわ明るい笑顔を振りまいているのは料理人ミランダ。彼女の作る温かい料理にどれだけ多くの人々が心と体を癒されたことか。
彼らは皆、この街で絶望の淵から共に立ち上がってくれたかけがえのない仲間たち――――。
「ルティア市長ーーーッ! シオンさーーーんッ!」
ミランダは一歩前に出ると、よく通る声で高らかに宣言した。
「市長! 旦那様! ご婚約、心よりおめでとうございます!」
その言葉を皮切りに割れんばかりの拍手と歓声が再び沸き起こる。胸に込み上げる熱いものを抑えきれず、シオンは私の肩をそっと抱き寄せた。
「あたしたちはね、感謝してもしきれないんだ! この瓦礫の街を大陸一輝く都に変えてくれた! 諦めかけてたあたしたちに、もう一度笑い方を教えてくれた! だからね、市長。あんたの幸せはこの街に住むあたしたち全員の幸せなんだよ!」
ミランダの言葉に、広場のあちこちから「そうだ!」「その通りだ!」という声が上がる。彼女は大きく息を吸い込み、とびきりの提案を投げかけた。
「そこで! 提案があるの! お二人の結婚式、このアトランシア市民全員で盛大にやらせちゃもらえないかい!?」
市民参加型の大結婚式。予想もしなかった言葉。
「料理はあたしたち料理人組合が腕によりをかけて作るから任せな! バルトマーが『最高の祭壇を俺が作る』ってもう工房でノミを振るってるんだよ! 警備はファーゴたち警備隊が鉄壁の守りを見せてくれる! ダビデ翁は天候を操る魔法で最高の晴天を約束してくれるってさ!」
他の市民たちも、
「祝いの音楽は技術専門学校の音楽科と街の交響楽団の共演だ!」
「ドレスとタキシードは私たち繊維ギルドに任せて! みんなの記憶に残る一着を縫い上げてみせるから!」
「打ち上げ花火は我々魔導師団にお任せを! 夜空にお二人の笑顔を描いてみせます!」
市民一人一人が自分たちの得意なことで私たちの門出を祝おうとしてくれている。…なんて素敵な贈り物。
「ルティア…」
隣でシオンが言葉を詰まらせている。私も同じだった。涙で視界が滲み、市民たちの笑顔がキラキラと光って見える。私はシオンに支えられながら、バルコニーへと歩み出た。そして、震える声で応えた。
「皆さん……ありがとう……。本当にありがとう……」
言葉が続かない。けれど、感謝の気持ちはきっと届いているはず。
「このアトランシアは私の誇りです。そして、皆さんは……私のかけがえのない家族です。こんなに素敵な家族に祝ってもらえるなら……これ以上の幸せは世界中どこを探したってありません!」
私の答えに大歓声が空に舞い上がった。シオンは私の手を強く握りしめ、市民たちに向かって深く頭を下げた。夜景の下で誓った二人だけの愛は太陽の下で、何万人もの温かい祝福に包まれ、より一層強く輝きを放ち始めていた。
私、ルティア・ヴェルフェンとシオン・クレイヴァーンの婚約。その報せは公式発表を待つことなどできず、早朝の街中へ噂として駆け巡った。まるでこの吉報を待ち焦がれていたかのように。
「聞いたか!? 我らが市長と伯爵様が、ついに!」
「ああ、知ってるさ! この街で一番待ち望まれていた春が来たんだ!」
中央市場では『祝・ご婚約記念!赤字覚悟の大セール!』と書かれた手描きの看板が掲げられ、威勢のいい呼び込みの声が飛び交う。顔なじみのパン屋の親父さんは目尻のシワに涙を溜めながら、焼きたてのハート型のパンを子供たちに配り歩いていた。
昼間だというのに、酒場という酒場からは陽気な歌声と乾杯の音が絶え間なく聞こえてくる。「我らが市長と旦那様に!」そんな掛け声と共に高々とジョッキが掲げられ、街はお祭り騒ぎとなっていた。
一方、その騒ぎの中心である市庁舎の執務室で、
「シオン、南の港から交易船の入港待ちが限界だって連絡が……」
「ああ。物流が増えすぎて、検疫も荷下ろしも追いついていないな。早急に人員を……」
個人の幸福に浸る間もなく、私たちは連合議長と副議長としての職務をこなす。しかし、窓の外から届く絶え間ない喧騒がどうしても集中を妨げた。
「なんだか、いつもより騒がしくないか?」
シオンが不思議そうに窓に近づいたその時だった。市長室の扉が勢いよく開かれ職員が、
「大変です……いえ、素晴らしいことになっています! どうか窓の外を!」
促されるまま、窓辺へと駆け寄る。眼下に広がっていたのは信じられない光景。市庁舎前の広場が人波で埋め尽くされているのだ。誰もが満面の笑みでこちらを見上げ、手を振っている。その群衆の最前列に見覚えのある顔ぶれを見つけた。
穏やかな笑みで杖を握る老魔術師のダビデ。魔道具開発にその知識を惜しみなく貸してくれた恩人。隣には腕を組んで、目元が優しく緩んでいる石工のバルトマー。彼の腕がこの街の礎となる石を一つ一つ積み上げてくれた。
そして、少し照れくさそうに頭を掻いているのは、元ゴロツキで今や市民の安全を守る警備隊長のファーゴ。かつての荒くれ者が、今や市民の平和の盾となっている。さらにその中心で、ひときわ明るい笑顔を振りまいているのは料理人ミランダ。彼女の作る温かい料理にどれだけ多くの人々が心と体を癒されたことか。
彼らは皆、この街で絶望の淵から共に立ち上がってくれたかけがえのない仲間たち――――。
「ルティア市長ーーーッ! シオンさーーーんッ!」
ミランダは一歩前に出ると、よく通る声で高らかに宣言した。
「市長! 旦那様! ご婚約、心よりおめでとうございます!」
その言葉を皮切りに割れんばかりの拍手と歓声が再び沸き起こる。胸に込み上げる熱いものを抑えきれず、シオンは私の肩をそっと抱き寄せた。
「あたしたちはね、感謝してもしきれないんだ! この瓦礫の街を大陸一輝く都に変えてくれた! 諦めかけてたあたしたちに、もう一度笑い方を教えてくれた! だからね、市長。あんたの幸せはこの街に住むあたしたち全員の幸せなんだよ!」
ミランダの言葉に、広場のあちこちから「そうだ!」「その通りだ!」という声が上がる。彼女は大きく息を吸い込み、とびきりの提案を投げかけた。
「そこで! 提案があるの! お二人の結婚式、このアトランシア市民全員で盛大にやらせちゃもらえないかい!?」
市民参加型の大結婚式。予想もしなかった言葉。
「料理はあたしたち料理人組合が腕によりをかけて作るから任せな! バルトマーが『最高の祭壇を俺が作る』ってもう工房でノミを振るってるんだよ! 警備はファーゴたち警備隊が鉄壁の守りを見せてくれる! ダビデ翁は天候を操る魔法で最高の晴天を約束してくれるってさ!」
他の市民たちも、
「祝いの音楽は技術専門学校の音楽科と街の交響楽団の共演だ!」
「ドレスとタキシードは私たち繊維ギルドに任せて! みんなの記憶に残る一着を縫い上げてみせるから!」
「打ち上げ花火は我々魔導師団にお任せを! 夜空にお二人の笑顔を描いてみせます!」
市民一人一人が自分たちの得意なことで私たちの門出を祝おうとしてくれている。…なんて素敵な贈り物。
「ルティア…」
隣でシオンが言葉を詰まらせている。私も同じだった。涙で視界が滲み、市民たちの笑顔がキラキラと光って見える。私はシオンに支えられながら、バルコニーへと歩み出た。そして、震える声で応えた。
「皆さん……ありがとう……。本当にありがとう……」
言葉が続かない。けれど、感謝の気持ちはきっと届いているはず。
「このアトランシアは私の誇りです。そして、皆さんは……私のかけがえのない家族です。こんなに素敵な家族に祝ってもらえるなら……これ以上の幸せは世界中どこを探したってありません!」
私の答えに大歓声が空に舞い上がった。シオンは私の手を強く握りしめ、市民たちに向かって深く頭を下げた。夜景の下で誓った二人だけの愛は太陽の下で、何万人もの温かい祝福に包まれ、より一層強く輝きを放ち始めていた。
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