デブでブサイクなブタを溺愛するのは……

１３ 時の番人（ってなに？）

　

　クルがいじめっ子か、いたずら好きなのかも、という疑いは消えた。

　彼と数日も一緒に過ごせば、わたしに見せるために目の前で朝食を用意した、と分かった。
　びっくりさせたいだけだったのかも。

　次の食事からは、部屋に入った時には全てが用意されていて、目の前にとつぜん食事があらわれたのはあの時だけだった。
　いつも横に座って、わたしに食べさせてくれる理由は分からない。
　大量のご飯を、誰がどこで作っているのかも秘密のまま。

　なぜ出会ったばかりのわたしに魔導師だと明かしたのか、その理由ははぐらかされて教えてもらえない。
　クルにとっては必要なことだったのだろうと思う。

　何もかも先を考えて動いてる。
　なぜかそんな気がする。

　クルは見た目はイヌなのに、とても穏やかだ。
　時々、何百年もたっている大木と話しているような気持ちになる。
　それともおじいちゃん？

　言葉は通じて、会話も成立しているのに、話してる内容がかみあってない気がする。
　後ろ向きなことを言うと、前向きに変えられる。
　わたしが人付き合いが苦手だから、が理由じゃないと思うんだけどな。

　優しいけどちょっときびしい、彼の名前はクル。
　見た目はみがきたてのなべ色の毛並みの巨大な二足歩行のイヌで、実は魔導師。

　どうして森にいるのだろう。



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　クルの家でお世話になりながら、数日おきに父と文通をしている。

　魔導師だから、森をこえて手紙を送れるんだろう。
　物語の大魔導師さまは、星を降らせたり、山を割ったりするんだから。
　クルも森を魔法で平原にしたりできるのかな。

　父からの初めての手紙は、破った紙にただ一言だけ。
　『どこにいてもネラと繋がってる、時の番人さまにお礼を』
　と書かれていた。

　時の番人ってなんだろう。
　手紙を書いたら父に送ってくれると言うので、わたしはここでお世話になること、はたらかせてもらうこと、ごはんが美味しいことを書いた。

　学校で何があったのかは書けなかった。
　どうして家出をしたのかも。
　森に入った理由も。

　父さんと兄さんは、何も知らないかもしれない。
　わたしも二年もすれば大人の仲間入り。
　いつまでも迷惑をかけないようにしないと。

　ここで働かせてもらって、自立できるように学ぼう。
　仕事内容は聞いてないけど、やっぱり家事かな。
　いつまでもごちそうになってる側だと、居心地が悪い。

　森の奥に住む化け物に食べられたかった。

　クルにそれを話した時に否定しなかった。
　二足歩行だけど巨大なイヌみたいな姿だから？

　考えても答えは出ない。
　そして、聞いても答えてもらえない。

　クルは口元をゆがめて歯を見せて「ネラはどう思う」って言う。
　余裕たっぷりに。
　大人の男って感じで。

　なんだか悔しい。