15 / 105
14 学生の本分
しおりを挟むそして、わたしはクルの元で三月を過ごした。
この三月の間、わたしはとっても幸せ。
ではなかった。
クルは優しいけど、わたしを甘やかしてくれない。
「幸せだけを受けとる人は駄目になるから、苦労もしなさい」って教師みたいなことを言う。
イヌなのに。
どこからどう見ても巨大なイヌなのにっ。
眠たいならお布団の中で二度寝して良いけど、だらだらしたいだけなら、服を着替えてからソファでという謎の指針も持っている。
ベッドとソファで何が違うの。
着替えてからソファでぐうたら過ごしていたら、フリルのついたかわいい服がしわだらけになってしまったことがある。
ネグリジェにきがえる時に気がついて、すごくショックだった。
それからはきがえたらごろごろできない。
母さんに叱られなければ、どこまでもだらけてしまう。
それを防がれている。
クルの手のひらで転がされてる気がする。
でも、クルはわたしの母さんじゃないのに。
どうしてこうなったの。
それでも結局、クルは優しい。
彼がわたしに与えた仕事は書庫の整理。
だったはずなんだけど。
「これ」
「じじょ、自浄作用?」
「次はこっち」
「いきち」
「ここは」
「え……ら、ら子植物の分布とかんきょうの……変化?」
「習ってないのに分かったね、素晴らしいよ、変化ではなく、変容」
「変容」
分厚くて大きな本を目の前にして、隣には大きな赤イヌのクル。
わたしはいったいぜんたい、どうして勉強をしてるの。
話をしていて、わたしが中等学校を卒業していないことを知ったクルが、書庫の整理より前にやることがあると言いだした。
ここに置いてくれるといったからなのか「町に戻って卒業してきて」と言われなかったことに安心した。
でも勉強はしたくない。
それがわたしの顔に出ていたのか、クルが机の上に手を置くと何冊もの本と紙の束があらわれて、とどめのようにキラキラと光る羽根ペンがそっと置かれた。
そう、真っ白い羽根が光ってる。
これは本当に存在する鳥の羽根なのかな。
クルが教えてくれないことは分かってるのに、どうしても目が離せなかった。
ぺ、ペンが使いたくて勉強する気になったわけじゃないから。
用意されたインクが、見たこともないきれいな青だったからじゃないから。
ここまで用意するなら、学校で習っていた内容を知ってるのかと思ったけれど、そこはちがった。
どうして他国の言語を習わないといけないの。
ここに来る前は勉強が好きではなかった。
お腹が空いて集中できない。
お腹が鳴って集中できない。
まわりに笑われてとかいろいろあって。
今はきらいじゃない。
クルの教え方が上手いのか、満腹になるまで食べられることが良いのか、不思議なほど頭に入ってくる。
今なら勉強がきらいだった理由を忘れてしまいそう。
勉強を頑張ると、ごほうびにクルがスペシャルな紅茶をいれてくれる。
とびきりのケーキやタルトも。
紅茶が美味しいのも、ここに来てから知った。
だからこの三月の間のわたしはとっても幸せではないけど、最高に幸せ。
クルはわたしがこれまで知ることのできなかった喜びを教えてくれる。
人に教えなれている、そんな気がした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる