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38 魔導師〝葬礼ネナヴィスト〟の仕事
しおりを挟むクラスニーが扉を開けば、そこには明らかに人ではない姿の人が三人、立っていた。
顔に白い仮面をつけて隠していて、長いずるずるした服を着て、手足も見えない。
分厚い布地に見えるけれど、服の下の形が人じゃない、気がした。
わたしに確認をとったクラスニーが三人を中へ招き入れると、一番前に立っていた人が、クラスニーへ深々と半身を折った。
「お久しぶりでございます、ツョヴィェク先生」
「僕を先生と呼んでくれるのは嬉しいけれど、配下に示しがつかないだろう」
先頭の人は声だけは男性だった。
低すぎて聞き取りにくいのは、イヌの姿の時のクラスニーに似ている。
たぶん男性に苦笑を向けたクラスニーは、後ろの二人に会釈する。
後ろにいた仮面の二人は、ぴょんとバッタのように飛び上がって、無言のまま腰を折った。
丸くて白い仮面に、目の部分に穴が空いてる。
息がしやすいようになのか、口の部分にも細いスリットが何本か並んでいる。
この人たちの方が、クラスニーよりも人の姿に見えない。
だからと言って怖いとも思わない。
わたしを見る視線に、嫌な感情を感じないから。
なんだか興味深そうに見られてるような雰囲気はあるけど。
「いいえ、先生の教えは呪法対策官に徹底されておりますれば、我ら全員の先生と言っても過言ではありません」
「そうかい、ネナヴィストさんがそう思ってくれるなら、素直にありがとうと言うべきだろうね」
再び頭を下げ、たぶん男性が仮面越しにわたしへと視線を向けた。
「お初にお目にかかります、お嬢さん。
魔導師協会で呪法対策室次官をしております〝葬礼ネナヴィスト〟と申します」
「は、初めまして、ネラです」
二人の会話を聞きながら、やっぱりクラスニーは先生なんだ、と納得していたので不意打ちだった。
うまく挨拶できたかな。
新事実の発覚に驚いていた。
クラスニーが人に教え慣れているように思えたのは、過去に先生をしていたから。
わたしが読んだことのある絵本や物語では、大魔導師は先生をしてなかった。
でも絵本や物語に、本当のことだけ書いてある、とは限らないのかも。
「お嬢さんにはお聞かせしたくない話ではありますが、ウクリドニット・ズトラツィムが呪法師に堕ちていることが確認されました」
「……ネラ、呪法師を見逃すことはできない」
すごく苦渋に満ちた決断です、みたいな口調で分かりあっている二人には悪いんだけど。
「あの、魔導師きょうかいもだけど、じゅほうたいさくじかんとか、じゅほうし、ってなに?」
「え?」
「あれ?」
仮面のソウレイネナヴィストさんは、それまでのどよんとした重たい雰囲気から、呆然とした様子になって。
クラスニーが頭をかいて、シャリシャリと長い髪の毛を鳴らしながらつぶやいた。
「あ……あーまだ教えてなかった」
変な沈黙が満ちてしまったその場で、ソウレイネナヴィストさんの後ろにいた二人が、プルプルと震えている。
笑うのを我慢している気がする。
むしろ全力で無音で笑ってる気がする。
これって、知っておかないとまずいことだったのかな。
どうしよう。
ここで聞かずに、後でクラスニーに説明してもらうんだった。
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