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余聞 魔導師〝葬礼ネナヴィスト〟の思惑
しおりを挟む我は二つ名持ちの魔導師。
〝葬礼ネナヴィスト〟という。
世界から与えられたと信じて疑わない天職は、呪法師を抹殺、はしないが捕縛する呪法対策官。
二つ名を得てから百年以上になるので、長官になってくれと何度も言われているが、現場で動くために次官以上になるつもりはない。
我々のように呪法に対面するものには、直接の師匠ではなくても〝先生〟と仰ぐ魔導師がいる。
その御方は〝時の番人ツョヴィェク〟。
本当に偉大な御方だ。
本当の年齢は、誰も知らず。
本気になった時の恐ろしさだけは、誰もが知っている。
知識は深く良識を持ち。
世界を動かす力の一端を所持しておられるのに、奢ることなく、権力や私心に腐心することもなく、長きに渡り世界の安寧を守っておられる方だ。
現代の魔導師の在り方を、ツョヴィェク先生が魔法高等院に教導員としておられる時に、直接教わることができたのは、我が人生で最大の僥倖であった。
あれから二百年あまり。
復讐を果たすべく、呪法師へ向けていた熱意は燃え尽きた。
我は決して変わらぬぞ、と先生へ吠えていたのに、なんというていたらく。
失った熱意と共に、呪法師の捕縛は作業になりつつある。
決して滅ぼせぬ相手と終わらぬいたちごっこを繰り返す日々に、少しばかり疲れてもいる。
寿命の短い人の魔導師見習いは、驚くほど簡単に呪法師へと足を踏み外す。
その命を燃やし尽くすが如く。
そして、簡単に世界に穴を開ける。
なぜ私利私欲のために世界を滅ぼすことを、罪悪だと考えないのか。
堕ちた者たちの考えが、完璧に理解できるようになってしまったら、我もまた堕ちてしまうのかもしれない。
そんな折に、ツョヴィェク先生御本人から、魔導師協会へ依頼が入った。
辺境国の中でも最も辺境に当たる僻地で、呪法師を捕縛する仕事。
なぜ、我にその話が届いたのかと思えば、その呪法師の娘御がツョヴィェク先生の想い人だという。
退屈で色を失っていた世界に、色が戻る。
ツョヴィェク先生にお会いできる。
御健勝であらせられるのか。
おいくつになっても、精力的に動いておられるのだと知って、胸の奥が熱くなる。
普段は部隊を率いている二つ名持ちの魔導師を二人。
直属の部下として連れて行き、ツョヴィェク先生に面通しさせて頂くこととしよう。
呪法師への復讐に、心身を全て投げ打ったオドプスティ。
彼は苛烈さのあまり〝不許〟の二つ名を得た。
師匠や一門の弟子を目の前で失った、それを忘れぬと誓ったザポメノウト。
彼は執念と共に〝記銘〟の二つ名を得た。
この二人は双子だ。
父母ともに精霊混ざりの魔導師。
親が魔力もちの子は、親と同じ名であることが多い。
しかしこの二人は、二人ともに両親のどちらとも違う名を世界に与えられた。
なんのために、なのか。
過去の我のように復讐を人生の最終目標とする二人が、ツョヴィェク先生と知り合うことで、良い影響を受けられれば。
期待で胸がふくらむ。
そうと決まれば、現在手元にある仕事を割り振ることにしよう。
この時の我は知らなかった。
理性的で表情を崩すことのなかったツョヴィェク先生が、呪法師の娘御であるズトラツィム嬢を、見たことがないほど猫可愛がりする姿を見ることになる。
なんて。
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