『Pâtisserie Hina 〜夢と絆のスイーツ物語〜』

ユキワラシ

文字の大きさ
79 / 173
第4章:そして、新しい日々へ

第77話:人質と奪われた店

しおりを挟む
数日後、店は普段の賑わいを取り戻していた。しかし、その平穏は長く続かなかった。ある午後、スタッフが厨房から外に出ると、店の入り口に突然現れたのは、予想もしなかった人物――雅也だった。彼の表情は焦燥と決意に満ち、手には見覚えのない道具を握りしめていた。

「瑠奈…」
雅也は冷たく声をかけ、その目は鋭く光っていた。

「何を…?」
瑠奈は警戒心を強くして後ろに一歩下がった。しかし、すぐにその動きに気づいた雅也が、彼女を強引に引き寄せた。

「お前、翔太を選んだんだろ?」
雅也は怒鳴るように言った。「お前が俺を裏切って、あいつと一緒に幸せになるなんて、俺には耐えられない。」

その瞬間、瑠奈の体に冷たい恐怖が走った。目の前の雅也は、どこか理性を失ったように見えた。彼の手には、何かを握りしめていた。それは、店の入り口に飾ってあったアンティークのナイフだった。

「やめて、雅也…お願い。」
瑠奈は必死に彼に言葉をかけたが、雅也は聞く耳を持たない。

「もう遅いんだよ。お前が選んだのは俺じゃなかった。じゃあ、俺が何かを奪えば、お前も少しはわかるだろう!」
雅也は突如、瑠奈を抱きしめ、無理やり店の奥へと引きずり込んだ。

店内にいるお客さんたちは驚き、スタッフたちはすぐに警察に連絡をしようとしたが、雅也は店のドアを閉め切り、誰も外に出られないようにしてしまった。店の中は一瞬で緊迫した空気に包まれた。

「何をしたいの、雅也…?」
瑠奈は恐怖を感じながらも、冷静に問いかけた。彼女は自分の行動が引き起こした事態を理解していたが、どうしても逃げられない状況だった。

「店を…乗っ取るんだ。」
雅也は言い放ち、ナイフを構えた。「これで店を手に入れる。俺は、この店を取り戻すんだ、瑠奈! 俺に全てを渡せ!」

その瞬間、瑠奈は自分の体が震え始めるのを感じた。彼女の心臓が激しく打ち、思わず一歩後退しそうになったが、雅也はその動きを見逃さなかった。

「逃げるな! お前、俺に逆らうつもりか?」
雅也は瑠奈の腕を強く掴み、彼女を押し込むように店の奥へと歩かせた。

その間に、スタッフは隙を見て外に駆け込もうとしたが、雅也はその動きを瞬時に察知し、ナイフを掲げた。「誰も動くな!動けば、瑠奈に何をするか分からないぞ!」

店内は完全に支配されていた。瑠奈は恐怖と混乱の中で必死に思考を巡らせていた。彼女が望んでいたのは、何よりも平穏無事な生活だった。しかし、過去の傷と雅也の執念が、すべてを崩してしまったのだ。

その頃、翔太はレストランの近くにいた。店からの連絡が途絶えたことに気づき、急いで戻ろうとしていた。しかし、店の前に警察の車両が数台停まっているのを見て、事態が一気に深刻化していることを理解した。

「これは…ただ事じゃないな。」
翔太は覚悟を決め、急いで店に駆け込むと、店内には緊迫した雰囲気が広がっていた。

「瑠奈!」
翔太は大声で叫んだ。彼の目には焦りが滲んでいた。

雅也が振り向き、その目が翔太に向けられた。「お前…! 何をしに来た? 俺のものを奪っておいて、今更何がしたいんだ!」

翔太は一歩踏み出し、冷静な声で言った。「お前が間違ってるんだ、雅也。瑠奈をこんな風に追い詰めることが、どうして愛だと思えるんだ?」

「愛だと…?」
雅也は苦しげに笑いながら言った。「お前に愛なんてわかるか! 俺の気持ちを理解できるか!?」

「俺はお前がどんなに後悔しても、瑠奈に対してもう手を出させない。」
翔太は力強く言い切った。

店内に張り詰めた空気が続く中、警察が外で動き出していることがわかった。彼らは店内に突入する準備をしていた。だが、その間にも雅也は瑠奈をしっかりと抱え込み、ナイフを持ったまま動きを封じていた。

翔太は決して諦めるつもりはなかった。彼はこの状況を終わらせ、瑠奈を無事に取り戻すために、最後まで戦う覚悟を決めていた。

その時、店のドアが激しく開き、警察の捜査員たちが一斉に突入してきた。

「手を放せ! すぐに離れろ!」
警察官たちの指示に従うように、雅也は無意識のうちにその手を少し緩めた。だが、彼の目は依然として怒りで満ちていた。

そして、ついにその瞬間が訪れた。瑠奈は雅也の手を振りほどき、翔太のもとに駆け寄った。彼女は一言も言わず、翔太の腕に抱かれた。

雅也はその場で膝をつき、完全に力を失ったように見えた。警察がすぐに彼を取り押さえ、店内に再び平和が戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...