『Pâtisserie Hina 〜夢と絆のスイーツ物語〜』

ユキワラシ

文字の大きさ
80 / 173
第4章:そして、新しい日々へ

第79話: 新たな始まり

しおりを挟む
陽菜と和真は、店を出た後、しばらく歩きながら話していた。心配そうな表情を浮かべた陽菜が口を開いた。

「翔太、あの後、大丈夫かしら…?」
陽菜の声には、かすかな不安が滲んでいた。雅也の事件が解決したとはいえ、あまりにも波乱の多い出来事だった。翔太が瑠奈を守ろうと必死だったことは理解していたが、その後の心の負担は大きかっただろう。

和真も少し沈んだ表情で頷いた。「ああ、俺も心配だ。あんな状況に巻き込まれたら、誰だって傷つくだろう。」

「でも、翔太なら乗り越えられるわ。」
陽菜は微笑みを浮かべたが、その笑顔の裏にはやはり心配の色が隠れていた。「それでも、あの店がもう少しでも落ち着く場所になれば、少しでも彼にとっても安心できるんじゃないかと思うの。」

和真が考え込んだ後、静かに言った。「実は、俺も思ったんだ。翔太に一度、レストランの営業を休んでもらうべきかもしれない。あれだけの事件があった後、心の整理も必要だろうし、少しでも負担を減らすべきだ。」

陽菜が和真を見つめ、何かを察した。「それなら…私たちのカフェとレストランを一緒にやろう、っていう提案はどうかしら?」

和真は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその意図を理解した。「ああ、それなら彼も安心して働けるかもしれないな。お互いの強みを生かし合って、もっと良いものを作り上げていける。」

「そうよね。」
陽菜は深く頷き、決意を込めて言った。「翔太が心を落ち着けられる場所を作るためにも、私たちが一緒に働けば、自然と助け合えるし、より多くの人々に喜んでもらえる場所になるはず。」

和真もその意見に賛同した。「なら、今日のうちに翔太に声をかけてみるか。」

その後、陽菜と和真は翔太を呼び出すことにした。翔太がレストランで忙しく働いている最中だったが、彼らの思いを伝えるために急いで店に向かう。

店に到着した時、翔太は厨房から出てきたところだった。顔に疲れが浮かんでいたが、二人を見るとすぐに笑顔を見せた。「あ、陽菜さん、和真さん、お疲れ様です。」

陽菜は優しく微笑んで言った。「翔太、ちょっといいかしら?」

翔太は少し驚いたように頷き、「もちろんです、どうぞ。」
陽菜は和真と一緒に店の奥の席に座り、翔太にも椅子を勧めた。翔太も席につき、何か心配そうな顔をしていた。

「実はね…」
陽菜は少し言葉を選びながら話し始めた。「和真と相談したんだけど、あなたに無理をさせているんじゃないかと思って。」

和真が続けて言った。「そうだな。あの事件で心的なダメージも大きかったろうし、レストランの運営にも気を使う余裕がないんじゃないか?」

翔太はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと答えた。「確かに、あの事件以来、ずっと頭がいっぱいで…お客さんたちには楽しんでいただきたい一心で頑張ってきたけど、心の中ではどうしても不安が消えなかったんです。」

陽菜はその言葉を聞いて、穏やかな笑顔を見せた。「だから、翔太、私たちが提案したいことがあるの。私たちのカフェと、あなたのレストランを一緒に運営することを考えてみない?」

翔太は一瞬、驚いた表情を見せた。「え、でも…」
和真がすかさず言葉を補った。「俺たちが一緒に経営することで、負担を分け合って、もっと良いものを作れると思うんだ。お前も少し楽になるし、何より、みんなで力を合わせれば、素晴らしい結果が出るはずだ。」

陽菜は続けた。「私たちも、あなたが安心して働ける環境を作りたかった。これからは、二人で一緒に力を合わせていけたらと思うんだけど…どう?」

翔太は黙って考え込み、やがて深いため息をついた。「こんな風に支えてくれる人たちがいて、心から感謝しています。確かに、僕一人じゃ限界があると思う。でも、みんなと一緒にやれば、きっと新しいスタートを切れる気がする。」

陽菜と和真は互いに微笑み、同時に頷いた。「それなら、決まりね。」
翔太はその言葉を聞いて、ようやく心の中で重荷が軽くなったような気がした。

「ありがとうございます。」
翔太は深く頭を下げ、陽菜と和真に感謝の気持ちを込めて言った。「これから一緒に頑張っていきましょう。」

こうして、陽菜、和真、翔太の新たな挑戦が始まった。三人はそれぞれが持っていた力を結集し、カフェとレストランを一つの形にするための計画を立て始めた。お互いに支え合いながら、未来へと歩みを進めるその瞬間、店は新たな希望に包まれ始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...