28 / 40
第28話 うなぎ屋「遠藤」 前編
しおりを挟む
期末テストが終わり、夏休みが始まった。今年の夏はとにかく暑い。クラスメイトの遠藤駿の家は、うなぎ屋を営んでいる。七月下旬の土用の丑の日は繁忙期のピークを迎える事から、この日の前十日間に短期のアルバイトを募集しているのだ。もちろん、まかない付きだ。遠藤駿は今年も海斗と松本蓮に声をかけていた。
今日から十日間のアルバイトが始まった。主な仕事内容はウナ重の配達と、空き時間は店内で配膳をする仕事だ。
遠藤駿は海斗達の前に立った。
「伏見、松本、今年も手伝ってくれて有り難う。しばらく宜しく頼むね」
「遠藤、任してくれよ! なあ海斗」
「おう、去年は慣れた頃に終わりだったから、今年は即戦力だぜ、遠藤!」
海斗と松本蓮は肩を組んだ。
海斗は遠慮気味に立っているアルバイトに気がついた。
「あれ、そこにいるのは田中だろ? 田中も遠藤の所でアルバイトしていたのか?」
「うん、遠藤君にお世話になっているんだ」
遠藤駿は田中拓海の背中を叩いた。
「田中はね、半年前から手伝って貰っているんだ。とっても真面目で常連さんにも受けが良いんだよ」
経営者みたいな態度に、松本蓮は遠藤を茶化した。
「よっ、遠藤社長!」
遠藤駿は親の前なので、苦笑いをして頭を掻いた。
早速、店の電話が鳴った。遠藤駿の母は電話を取り、伝票を厨房へ回した。遠藤駿は海斗達に注文内容を伝えた。
「注文が入ったから二人の出番だよ。注文先は関内にある羽衣商事。伏見達も知っている、京野の会社だよ」
海斗は遠藤駿に質問をした。
「で、京野の会社から幾つ注文が入ったの?」
「十人前だよ、流石、京野君だよ。ウチの大お得意先だからね。……だから学校でも頭が上がらなくてさ」
松本蓮は関心をした。
「偉いな、遠藤。ホントの経営者みたいだな」
再び、遠藤駿は照れた。うなぎが焼きあがると海斗と松本蓮は、うな重を自転車に乗せ羽衣商事に向かった。
ここはオフィスビルが立ち並ぶ関内駅の周辺に有る羽衣町。中でも目を引くガラス張りの大きな建物が羽衣商事の本社ビルだ。
海斗達は自動ドアを抜け、エントランスホールに入った。天井の高い大きなホールの正面に受け付けが有り、綺麗なお姉さんが対応していた。ホールの右側には打ち合わせブースが並び、左側にはソファーがあった。ソファーには数人のビジネスマンが腰を下ろしていた。
松本蓮は雰囲気に飲まれた。
「すげーな海斗、ここが京野の会社かー。このうな重、誰に渡せばいいんだ?」
「まあ、受付に聞いてみるよ」
海斗は受付に事情を話すと女性は優しく答えた。
「左手奥へ進みエレベーターで六階に上がって下さい。近くにカウンターが有るので、そこで再び声をかけてください」
海斗と松本蓮は六階に上がった。エレベーターを出ると小さなカウンターが有った。
カウンターには誰もおらず、一年振りであったが、海斗は慣れた口調で呼びかけた。
「毎度、有難う御座います。うなぎ屋 遠藤です。うな重を十人前お持ちしましたー!」
奥から品の良い女性が現れた。
「有難う遠藤さん。お代はココに置くわね」
彼女は代金を入れた封筒をカウンターに置いた。海斗は封筒の中身を確認して領収書を渡した。
「お釣りがなくて、助かります」
「まあ、丁寧な子ね」
すると、彼女の後ろから京野颯太が現れた。
「白鳥さん、遠藤のうなぎ来た? あれ、遠藤じゃなくて伏見君と松本君が、運んで来てくれたのか、お疲れ様。僕が会議室に運ぶから白鳥さんは、お茶を入れてくれますか?」
「はい、解りました」
京野颯太は、うな重をもって会議室に向かった。白鳥さんは受付を離れる前に話しかけた。
「あら、颯太さんのお友達なの? 颯太さんは仕事が出来るのよー。社内でも評判なんだから、また、注文した時は宜しくね」
海斗達は出前を済ませ、エレベーターに乗った。
「なあ海斗、京野のやつ、何か大人していたよな。高校生の俺たちが子供に感じるよ」
「俺も思った。会社の京野はもっと、お坊ちゃましているのかと思ったら、スーツまで着てキビキビしていて驚いたよ。歳上の女性を使って、出来る男って感じがして、気が引けるよな……。あれが露天風呂で倒れた、同じ人物とは思えないよな!」
海斗は松本蓮の顔を見て笑った。松本蓮も、そのギャップに笑ったのだ。
二人は、うなぎ屋遠藤に戻った。遠藤駿は労った。
「お疲れ様。なあ伏見、凄かったろう?! 京野の会社」
「凄かったよ! 蓮なんか、雰囲気に飲まれてさあ」
松本蓮は恥ずさかしそうに答えた。
「海斗が一緒にいてくれて良かったよ、そもそもどこに持って行くのか解らなかったよ」
「俺も最初の頃はビビったよ。大きな会社だし、おまけに学校では同じクラスだもん」
「あれじゃあ、頭が上がらないのは解るよ。学校が如何に平等なのか社会に出ると、その差が分かるよな」
松本蓮が店内を見回した。
「田中の姿が見えないようだけど」
「さっき出前に行って貰ったんだ。配達先はどこだと思う? 中山さん家、中山美咲の家だよ」
海斗は驚きながらも、肩を落とした。
「えー、俺が行きたかったなー!」
「お客さんが来ているらしいよ」
松本蓮も続いた。
「京野に、中山さん……クラスに二人もお客がいたら、ますます頭が上がらないよな」
「そうなんだ、それにミスグランプリの橋本さんも来るんだぜ」
遠藤駿は自慢げに話した。遠藤駿は部活でラグビーをしている。体も筋肉質で大きい。しかし見た目とは逆に、人当たりが良く優しい性格をしている。これも商売人の息子らしい一面なのだ。
配達に出た田中拓海は、中山美咲の家に着いた。
「うなぎ屋 遠藤です!」
玄関ドアを開けると、仁王立ちをした中山春菜が立っていた。
田中拓海は、もう一度言った。
「うなぎ屋 遠藤です。うな重を四人前お持ちしました。」
中山陽菜は右手でVサインを作り、横に倒し手の甲を右目に押し当てた。
「貴様は誰の手先だ! 我が瞳に宿すレッドアイ・ブラックドラゴンが、お前を漆黒の闇に引きずり落としてやる。命が惜しくば、私の目の前から消え去るがいい」
奥から中山美咲が慌ててやって来た。
「あら田中君じゃない! 遠藤君の所でアルバイトしているの?」
「そうなんです。あの女の子は?」
「妹の陽菜よ。ちょっとイタイ所、見せちゃったわね」
「いや、陽菜さんは、とても神秘な女の子ですね。とってもステキです」
田中君も同じ種類の人なのかしら。中山美咲は苦笑した。陽菜はまだ続いていた。
「お前には我が魂の叫びが聞こえないのか、早くシスターから離れろ!」
中山美咲は田中拓海にお金を渡し、慌てて玄関の戸を閉めた。
まじめな田中拓海は台詞やポーズに、中二の頃を思い出し心を引かれたのだった。
海斗達は数件の配達を終えた。時間は二時半になり昼の部が終了した。これから昼食となった。アルバイト初日は特別に、まかないに大盛りのウナ丼をご馳走してくれた。
海斗は目の前の鰻丼を持ち上げ喜んだ。
「遠藤、まかないにうなぎって、なかなか無いよな。凄く楽しみにしていたよ」
松本蓮は嬉しそうに言った。
「遠藤、有り難う。精を付けて二週間がんばれそうだよ」
「ホント、ホント。そう言えば、田中は中山さんの家に行って来たんだろ」
「うん、それがさビックリしたよ! 中山さんの妹って、神秘的なしゃべり方をするんだよ。我が瞳に宿すレッドアイ・ブラックドラゴンがお前を……てさあ」
海斗は笑った。
「ハ、ハ、会ったの? 陽菜ちゃんだね。あの変わった女の子」
「伏見君は知っているの?」
「ああ、知っているよ。中山さんの家で勉強した時に会ったよ。あの子、中学三年生だって。来年、我が学園を受験するらしいよ」
「陽菜ちゃん、うちに受験するんだ~」
田中拓海は彼女に心を引かれていた。海斗は続けた。
「中山さんは、居た?」
「居たよ、妹を見られて恥ずかしがっていたよ」
「なんか目に浮かぶなあ、妹の仁王立ちと慌てる中山さん、見たかったなあ」
海斗は遠藤を見た。
「遠藤は、中山さんの妹、知っている?」
「俺は前に配達した時は、妹さんは未だ普通だったかな。さあ、夕方から忙しくなるからしっかり休まないとね」
海斗達は夕方の仕事も無事に済ませ、初日が終わった。
四日目の夜だった。この日も日中に比べ、夜は企業からの注文が少なくなった。配達が少なくなる反面、焼きたての香ばしいうなぎを求めて来店客が多くなるのだ。
海斗と松本蓮は、配膳の仕事をこなしていた。遠藤駿と田中拓海は一階を担当し、海斗と松本蓮は二階を担当した。一階に通されたお客さんが、近くにいた田中拓海に声をかけた。田中はお客さんの話を聞いて、何度も頭を下げていた。
遠藤駿は田中の異変に気が付き、田中の元に歩み寄った。すると遠藤駿は顔色を変えて、親父の元に走って行った。
店内は、多くのお客さんがうなぎの焼き上がりを待っていた。一階の厨房で作られたうな重は、食品用のエレベーターに乗せられ二階の配膳室に送られた。海斗達は上がって来た、うな重をお客様にお持ちするのだ。
ある時から食品用エレベーターが動かなくなった。海斗は不思議に思った。
「なあ蓮、どうしたんだろう? こんなに注文が残っているのに」
「俺も不思議に思っていたんだ」
「ちょっと厨房を観てくるよ、二階を頼むね」
海斗は厨房に行ったが、誰も居なかったのだ。客席を覗くとオヤジさんがお客さんに頭を下げていた。
今日から十日間のアルバイトが始まった。主な仕事内容はウナ重の配達と、空き時間は店内で配膳をする仕事だ。
遠藤駿は海斗達の前に立った。
「伏見、松本、今年も手伝ってくれて有り難う。しばらく宜しく頼むね」
「遠藤、任してくれよ! なあ海斗」
「おう、去年は慣れた頃に終わりだったから、今年は即戦力だぜ、遠藤!」
海斗と松本蓮は肩を組んだ。
海斗は遠慮気味に立っているアルバイトに気がついた。
「あれ、そこにいるのは田中だろ? 田中も遠藤の所でアルバイトしていたのか?」
「うん、遠藤君にお世話になっているんだ」
遠藤駿は田中拓海の背中を叩いた。
「田中はね、半年前から手伝って貰っているんだ。とっても真面目で常連さんにも受けが良いんだよ」
経営者みたいな態度に、松本蓮は遠藤を茶化した。
「よっ、遠藤社長!」
遠藤駿は親の前なので、苦笑いをして頭を掻いた。
早速、店の電話が鳴った。遠藤駿の母は電話を取り、伝票を厨房へ回した。遠藤駿は海斗達に注文内容を伝えた。
「注文が入ったから二人の出番だよ。注文先は関内にある羽衣商事。伏見達も知っている、京野の会社だよ」
海斗は遠藤駿に質問をした。
「で、京野の会社から幾つ注文が入ったの?」
「十人前だよ、流石、京野君だよ。ウチの大お得意先だからね。……だから学校でも頭が上がらなくてさ」
松本蓮は関心をした。
「偉いな、遠藤。ホントの経営者みたいだな」
再び、遠藤駿は照れた。うなぎが焼きあがると海斗と松本蓮は、うな重を自転車に乗せ羽衣商事に向かった。
ここはオフィスビルが立ち並ぶ関内駅の周辺に有る羽衣町。中でも目を引くガラス張りの大きな建物が羽衣商事の本社ビルだ。
海斗達は自動ドアを抜け、エントランスホールに入った。天井の高い大きなホールの正面に受け付けが有り、綺麗なお姉さんが対応していた。ホールの右側には打ち合わせブースが並び、左側にはソファーがあった。ソファーには数人のビジネスマンが腰を下ろしていた。
松本蓮は雰囲気に飲まれた。
「すげーな海斗、ここが京野の会社かー。このうな重、誰に渡せばいいんだ?」
「まあ、受付に聞いてみるよ」
海斗は受付に事情を話すと女性は優しく答えた。
「左手奥へ進みエレベーターで六階に上がって下さい。近くにカウンターが有るので、そこで再び声をかけてください」
海斗と松本蓮は六階に上がった。エレベーターを出ると小さなカウンターが有った。
カウンターには誰もおらず、一年振りであったが、海斗は慣れた口調で呼びかけた。
「毎度、有難う御座います。うなぎ屋 遠藤です。うな重を十人前お持ちしましたー!」
奥から品の良い女性が現れた。
「有難う遠藤さん。お代はココに置くわね」
彼女は代金を入れた封筒をカウンターに置いた。海斗は封筒の中身を確認して領収書を渡した。
「お釣りがなくて、助かります」
「まあ、丁寧な子ね」
すると、彼女の後ろから京野颯太が現れた。
「白鳥さん、遠藤のうなぎ来た? あれ、遠藤じゃなくて伏見君と松本君が、運んで来てくれたのか、お疲れ様。僕が会議室に運ぶから白鳥さんは、お茶を入れてくれますか?」
「はい、解りました」
京野颯太は、うな重をもって会議室に向かった。白鳥さんは受付を離れる前に話しかけた。
「あら、颯太さんのお友達なの? 颯太さんは仕事が出来るのよー。社内でも評判なんだから、また、注文した時は宜しくね」
海斗達は出前を済ませ、エレベーターに乗った。
「なあ海斗、京野のやつ、何か大人していたよな。高校生の俺たちが子供に感じるよ」
「俺も思った。会社の京野はもっと、お坊ちゃましているのかと思ったら、スーツまで着てキビキビしていて驚いたよ。歳上の女性を使って、出来る男って感じがして、気が引けるよな……。あれが露天風呂で倒れた、同じ人物とは思えないよな!」
海斗は松本蓮の顔を見て笑った。松本蓮も、そのギャップに笑ったのだ。
二人は、うなぎ屋遠藤に戻った。遠藤駿は労った。
「お疲れ様。なあ伏見、凄かったろう?! 京野の会社」
「凄かったよ! 蓮なんか、雰囲気に飲まれてさあ」
松本蓮は恥ずさかしそうに答えた。
「海斗が一緒にいてくれて良かったよ、そもそもどこに持って行くのか解らなかったよ」
「俺も最初の頃はビビったよ。大きな会社だし、おまけに学校では同じクラスだもん」
「あれじゃあ、頭が上がらないのは解るよ。学校が如何に平等なのか社会に出ると、その差が分かるよな」
松本蓮が店内を見回した。
「田中の姿が見えないようだけど」
「さっき出前に行って貰ったんだ。配達先はどこだと思う? 中山さん家、中山美咲の家だよ」
海斗は驚きながらも、肩を落とした。
「えー、俺が行きたかったなー!」
「お客さんが来ているらしいよ」
松本蓮も続いた。
「京野に、中山さん……クラスに二人もお客がいたら、ますます頭が上がらないよな」
「そうなんだ、それにミスグランプリの橋本さんも来るんだぜ」
遠藤駿は自慢げに話した。遠藤駿は部活でラグビーをしている。体も筋肉質で大きい。しかし見た目とは逆に、人当たりが良く優しい性格をしている。これも商売人の息子らしい一面なのだ。
配達に出た田中拓海は、中山美咲の家に着いた。
「うなぎ屋 遠藤です!」
玄関ドアを開けると、仁王立ちをした中山春菜が立っていた。
田中拓海は、もう一度言った。
「うなぎ屋 遠藤です。うな重を四人前お持ちしました。」
中山陽菜は右手でVサインを作り、横に倒し手の甲を右目に押し当てた。
「貴様は誰の手先だ! 我が瞳に宿すレッドアイ・ブラックドラゴンが、お前を漆黒の闇に引きずり落としてやる。命が惜しくば、私の目の前から消え去るがいい」
奥から中山美咲が慌ててやって来た。
「あら田中君じゃない! 遠藤君の所でアルバイトしているの?」
「そうなんです。あの女の子は?」
「妹の陽菜よ。ちょっとイタイ所、見せちゃったわね」
「いや、陽菜さんは、とても神秘な女の子ですね。とってもステキです」
田中君も同じ種類の人なのかしら。中山美咲は苦笑した。陽菜はまだ続いていた。
「お前には我が魂の叫びが聞こえないのか、早くシスターから離れろ!」
中山美咲は田中拓海にお金を渡し、慌てて玄関の戸を閉めた。
まじめな田中拓海は台詞やポーズに、中二の頃を思い出し心を引かれたのだった。
海斗達は数件の配達を終えた。時間は二時半になり昼の部が終了した。これから昼食となった。アルバイト初日は特別に、まかないに大盛りのウナ丼をご馳走してくれた。
海斗は目の前の鰻丼を持ち上げ喜んだ。
「遠藤、まかないにうなぎって、なかなか無いよな。凄く楽しみにしていたよ」
松本蓮は嬉しそうに言った。
「遠藤、有り難う。精を付けて二週間がんばれそうだよ」
「ホント、ホント。そう言えば、田中は中山さんの家に行って来たんだろ」
「うん、それがさビックリしたよ! 中山さんの妹って、神秘的なしゃべり方をするんだよ。我が瞳に宿すレッドアイ・ブラックドラゴンがお前を……てさあ」
海斗は笑った。
「ハ、ハ、会ったの? 陽菜ちゃんだね。あの変わった女の子」
「伏見君は知っているの?」
「ああ、知っているよ。中山さんの家で勉強した時に会ったよ。あの子、中学三年生だって。来年、我が学園を受験するらしいよ」
「陽菜ちゃん、うちに受験するんだ~」
田中拓海は彼女に心を引かれていた。海斗は続けた。
「中山さんは、居た?」
「居たよ、妹を見られて恥ずかしがっていたよ」
「なんか目に浮かぶなあ、妹の仁王立ちと慌てる中山さん、見たかったなあ」
海斗は遠藤を見た。
「遠藤は、中山さんの妹、知っている?」
「俺は前に配達した時は、妹さんは未だ普通だったかな。さあ、夕方から忙しくなるからしっかり休まないとね」
海斗達は夕方の仕事も無事に済ませ、初日が終わった。
四日目の夜だった。この日も日中に比べ、夜は企業からの注文が少なくなった。配達が少なくなる反面、焼きたての香ばしいうなぎを求めて来店客が多くなるのだ。
海斗と松本蓮は、配膳の仕事をこなしていた。遠藤駿と田中拓海は一階を担当し、海斗と松本蓮は二階を担当した。一階に通されたお客さんが、近くにいた田中拓海に声をかけた。田中はお客さんの話を聞いて、何度も頭を下げていた。
遠藤駿は田中の異変に気が付き、田中の元に歩み寄った。すると遠藤駿は顔色を変えて、親父の元に走って行った。
店内は、多くのお客さんがうなぎの焼き上がりを待っていた。一階の厨房で作られたうな重は、食品用のエレベーターに乗せられ二階の配膳室に送られた。海斗達は上がって来た、うな重をお客様にお持ちするのだ。
ある時から食品用エレベーターが動かなくなった。海斗は不思議に思った。
「なあ蓮、どうしたんだろう? こんなに注文が残っているのに」
「俺も不思議に思っていたんだ」
「ちょっと厨房を観てくるよ、二階を頼むね」
海斗は厨房に行ったが、誰も居なかったのだ。客席を覗くとオヤジさんがお客さんに頭を下げていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる