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1.面影
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(ち、近い……っ)
初めてのデートの別れ際。
夕暮れ時の人が賑わう駅の片隅で、至近距離に迫る男性を前に、片岡智明は小さく身をすくめていた。
別れを惜しむ恋人同士なら、何もおかしくはない場面だろう。
智明が男で、迫り来る相手も男であるというところは、確かにイレギュラーではある。
けれど、雑多で色んなものが混じり合う都会の片隅においては、些末なことだと言えなくもなかった。
だが残念極まりないことに、予想外の事態に陥っていても見惚れてしまうほど顔の整った男性は、智明の恋人でもなければ友人でさえない。
一日デートをしたのは本当だが、正真正銘今日が初対面の見知らぬ男である。
今にも唇に触れそうな距離まで近付いた顔面を目の前に、智明は思わずぎゅっと目を瞑った。
事の始まりは、一週間ほど前のこと。
智明は、大学のキャンパス内にあるベンチに座って、女性からのストーカー被害について、友人に相談を持ちかけていた。
「ホントお前って、変な女に好かれるよなぁ」
「笑い事じゃないんだって!」
自慢じゃないが、智明は昔から女性に好かれるタチだ。
ただ、「格好いい」という評価ならば自信も付くというものだが、十中八九「可愛い」という男としては微妙な表現をされがちなので、何ら嬉しくはない。
加えて、そんな容姿のせいなのか、智明の争い事を好まない穏やかな性格のせいなのか、昔から圧の強い女性に好かれる事が多かった。
確かに智明自身、「俺について来い」というタイプではないので、グイグイ引っ張ってくれる女性が合っているのかもしれない。
だが、寄ってくる多くは度を過ぎていて、残念ながら好意よりも恐怖を感じる事の方が圧倒的に多いことも相まり、女性に対する苦手意識ばかりが積み重なっていく結果となっていた。
何よりも、ほとんどが「見た目が良い」という理由で近付いてくるのがあからさまで、智明の中身を見て好きになってくれている訳ではないと、すぐにわかってしまう。
幼い頃から智明に懐いてくれている、二つ年下の幼馴染みと一緒に過ごす時間が楽しすぎたというのもあって、わざわざ苦手なタイプの女性と付き合う気持ちには、とてもなれなかった。
学校に行けば馬鹿なことで一緒に盛り上がれる男友達がいたし、家に帰れば幼馴染みと気を遣わず楽しく過ごせる時間が待っている。
智明の高校生活において、彼女がいなくても別に困らなかったのだ。
それが変化したのは、可愛い弟の様に思っていた幼馴染みが、高校に上がった頃。
二つ年下の幼馴染みは、智明を追いかけて同じ高校に入学してきた。
それ自体はとても可愛く思えたし、同じ高校に通える嬉しさからか毎日のように登下校時に迎えに来る幼馴染みを、微笑ましくも思っていた。
智明を見つけると、まるで尻尾を振った仔犬の様に駆け寄ってくるので邪険には出来ず、帰宅後はそのまま家でダラダラと過ごすのが常態化していたから、必然的に一緒に居る時間は増える。
だが、いつの間にか自分の背丈を追い越し、筋肉が付いて身体が一回り大きくなった幼馴染みを見て、突然「可愛い弟のような幼馴染み」から「一人の男性」だと意識が変わってしまった瞬間が訪れた。
何がきっかけだったのか、今でも定かではない。
けれど、ずっと一緒にいたはずなのに、全く気付かなかった幼馴染みの成長に驚くと共に、本来ならば居心地の良かったはずの、いつでも触れ合える場所が急に恥ずかしくなったのを鮮明に覚えている。
思えばこの時、智明の中にある「好き」の意味が、何か違うものへと変化したのだろう。
ただ、自分の気持ちが恋愛としての「好き」かもしれないと自覚すると同時に、それが叶わぬ恋だとも十分理解していた。
相手は、幼い頃から長い時間を一緒に過ごしてきたとはいえ、単なる友人であり男なのだ。
特別な感情を抱く方が、間違っている。
恋心を自覚したのが、高校三年の時だったのは幸いだった。
受験勉強を理由に距離を置くことが出来たし、まるで逃げ出すように地元から遠く離れた都会の大学へと出る決心を固め、実行に移す事が出来たのだから。
しょんぼりと寂しそうな顔を見るたびに胸が痛んだが、それ以上に何もない振りをしてずっと隣に居続ける事の方が苦しかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最後までお付き合い下さると嬉しいです。
お気に入り・感想・いいね・エール等いただけましたら、今後の励みになります。
よろしくお願い致します。
初めてのデートの別れ際。
夕暮れ時の人が賑わう駅の片隅で、至近距離に迫る男性を前に、片岡智明は小さく身をすくめていた。
別れを惜しむ恋人同士なら、何もおかしくはない場面だろう。
智明が男で、迫り来る相手も男であるというところは、確かにイレギュラーではある。
けれど、雑多で色んなものが混じり合う都会の片隅においては、些末なことだと言えなくもなかった。
だが残念極まりないことに、予想外の事態に陥っていても見惚れてしまうほど顔の整った男性は、智明の恋人でもなければ友人でさえない。
一日デートをしたのは本当だが、正真正銘今日が初対面の見知らぬ男である。
今にも唇に触れそうな距離まで近付いた顔面を目の前に、智明は思わずぎゅっと目を瞑った。
事の始まりは、一週間ほど前のこと。
智明は、大学のキャンパス内にあるベンチに座って、女性からのストーカー被害について、友人に相談を持ちかけていた。
「ホントお前って、変な女に好かれるよなぁ」
「笑い事じゃないんだって!」
自慢じゃないが、智明は昔から女性に好かれるタチだ。
ただ、「格好いい」という評価ならば自信も付くというものだが、十中八九「可愛い」という男としては微妙な表現をされがちなので、何ら嬉しくはない。
加えて、そんな容姿のせいなのか、智明の争い事を好まない穏やかな性格のせいなのか、昔から圧の強い女性に好かれる事が多かった。
確かに智明自身、「俺について来い」というタイプではないので、グイグイ引っ張ってくれる女性が合っているのかもしれない。
だが、寄ってくる多くは度を過ぎていて、残念ながら好意よりも恐怖を感じる事の方が圧倒的に多いことも相まり、女性に対する苦手意識ばかりが積み重なっていく結果となっていた。
何よりも、ほとんどが「見た目が良い」という理由で近付いてくるのがあからさまで、智明の中身を見て好きになってくれている訳ではないと、すぐにわかってしまう。
幼い頃から智明に懐いてくれている、二つ年下の幼馴染みと一緒に過ごす時間が楽しすぎたというのもあって、わざわざ苦手なタイプの女性と付き合う気持ちには、とてもなれなかった。
学校に行けば馬鹿なことで一緒に盛り上がれる男友達がいたし、家に帰れば幼馴染みと気を遣わず楽しく過ごせる時間が待っている。
智明の高校生活において、彼女がいなくても別に困らなかったのだ。
それが変化したのは、可愛い弟の様に思っていた幼馴染みが、高校に上がった頃。
二つ年下の幼馴染みは、智明を追いかけて同じ高校に入学してきた。
それ自体はとても可愛く思えたし、同じ高校に通える嬉しさからか毎日のように登下校時に迎えに来る幼馴染みを、微笑ましくも思っていた。
智明を見つけると、まるで尻尾を振った仔犬の様に駆け寄ってくるので邪険には出来ず、帰宅後はそのまま家でダラダラと過ごすのが常態化していたから、必然的に一緒に居る時間は増える。
だが、いつの間にか自分の背丈を追い越し、筋肉が付いて身体が一回り大きくなった幼馴染みを見て、突然「可愛い弟のような幼馴染み」から「一人の男性」だと意識が変わってしまった瞬間が訪れた。
何がきっかけだったのか、今でも定かではない。
けれど、ずっと一緒にいたはずなのに、全く気付かなかった幼馴染みの成長に驚くと共に、本来ならば居心地の良かったはずの、いつでも触れ合える場所が急に恥ずかしくなったのを鮮明に覚えている。
思えばこの時、智明の中にある「好き」の意味が、何か違うものへと変化したのだろう。
ただ、自分の気持ちが恋愛としての「好き」かもしれないと自覚すると同時に、それが叶わぬ恋だとも十分理解していた。
相手は、幼い頃から長い時間を一緒に過ごしてきたとはいえ、単なる友人であり男なのだ。
特別な感情を抱く方が、間違っている。
恋心を自覚したのが、高校三年の時だったのは幸いだった。
受験勉強を理由に距離を置くことが出来たし、まるで逃げ出すように地元から遠く離れた都会の大学へと出る決心を固め、実行に移す事が出来たのだから。
しょんぼりと寂しそうな顔を見るたびに胸が痛んだが、それ以上に何もない振りをしてずっと隣に居続ける事の方が苦しかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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