諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ

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11.油断

(…………油断した)

 家を知られているとわかってから、智明は極力大学付近などの外で過ごすことが多くなっていた。
 誰も居ない部屋に一人で居ると、思考が沈みがちになってしまうし、いつストーカー女性に突撃されるかもわからないという恐怖もある。

 シマとデートしたあの日は大人しく帰ってくれたし、暫くは何の音沙汰もなかったのだが、やはりあの程度で諦めてくれるわけはなく、数日後には纏わり付くような視線が復活してしまっていた。
 もしかしたら智明が休みを貰っている事を知らず、数日間はバイト先を張っていただけかもしれない。

 夜しか家でゆっくりできないのは辛い所でもあるが、逆に大学に居れば友人やゼミ仲間が傍にいてくれることも多いし、流石に外部の人間が大学内に頻繁に入って来づらいのもあってか、大学に居る方が比較的安全なのだ。
 また外に居ることで、シマとのメッセージのやり取りをわざと目撃させる意味もある。

 「恋人との頻繁なやり取り」は、対応策としては効果を発揮しているようで、以前よりは距離感が保たれている様にも感じていた。
 ただ今日は、たまたま取っていた講義の休講が重なった為に、かなり早めに時間が空いてしまった。
 本来なら少し嬉しいはずの突然の休みなのだが、早く家に帰りたくない智明としては、時間を持て余してしまう。

 かと言って、友人達と街に出かけると、ストーカー女性から声をかけられる確率が格段に上がるのだ。
 恐らくだが、ストーカー女性は智明の友人関係を把握していて、話しかけるタイミングを常に見計らっている。
 となると、今のこの状況で気軽に雑多な人混みの中へ友人達と遊びに行くのは、とても正解とは言えなかった。

 それならまだ、一人で辺りを見渡せる場所を散策している方が、回避は容易い。
 大学内で過ごしても良いのだが、流石に毎日同じ場所に居座るのも飽きてきたところだ。
 今日は時間もある上に天気も良かったので、視線を振り払う意味でも電車を使って移動し、前回シマが連れて行ってくれた大きめの公園に足を伸ばしていたのだが、どうやら上手く撒けなかったらしい。

(声をかけられる前に、退散した方が良いかな)

 智明が悩んでいたデートの誘いではなく、ヘルプの意味を込めて「今ちょっと時間ある?」とメッセージを打つと、既読の文字がすぐに浮かび上がった。

(良かった。シマとやり取りしてる間は、声かけてこないから……)

 このまま文字を打ちながら、この場から立ち去ろうとベンチから立ち上がりかけた智明のスマホが、突然ブルブルと震え出す。
 メッセージの通知とは違って長い呼び出しを不思議に思って画面を見ると、シマからメッセージの返信ではなく着信が入っていた。
 慌てて通話ボタンを押し、立ち上がりかけていたベンチに再び腰掛ける。

「もしもし、どうした?」
「それはこっちの台詞です。もしかして、何かありましたか?」

 シマからのメッセージに返事をするのが常の智明が、予定を伺うようなメッセージを送ってきたのに対して、異変を感じてくれたらしい。
 自分でも助けを求めたかったのだと気付いていなかった智明は、シマのその助け船でようやく自分の不安だった気持ちに気付いた。
 シマの声にほっとしながら、一定の距離を保ってこちらを伺っているストーカー女性に聞こえない程度の声で、事情を説明する。

「というわけだから、移動したいんだ。時間があるようなら、暫くこのまま会話してくれると助かるんだけど」

 本当はメッセージのやり取りをしながら移動しようと思っていたのだが、文字を打ちながら歩いていると隙を見て声をかけられる可能性も高いので、このまま通話してくれた方が智明としても都合が良い。
 もしシマに時間があるなら、申し訳ないが少し付き合って貰いたいところだ。

「トモさん、今どこですか?」
「この間、シマが連れて行ってくれた公園だけど……」
「良かった、すぐ近くだ。このまま電話繋げたまま、ちょっと待っていて下さい」
「え……?」

 智明が「どういうことだ」と疑問を投げかける前に、電波の向こう側にいるシマの息づかいが「ハッハッ」と早まり、規則的になる。

(もしかして、走って来てくれるつもりか?)

 直前の会話を考えると、その可能性が一番高いが、シマにそこまでしてもらう理由がない。
 とはいえ心強いのは確かなので、近くに居るというシマの言葉とその優しさを信じて、もう少しこの場に留まってみることにした。
 呼吸音と共に、シマは智明を不安にさせないためか「今日は何を食べましたか?」とか「その公園、池に主みたいなコイがいるんですよ」とか、いつものメッセージと同じような他愛なさで、いろんな話題を振ってくれる。

 話しかけるタイミングを見計らってロックオンされていた視線も、気にならなくなって来た頃。
 大きく腕を振りながら走ってくるシマの姿が、智明の視界に入ってきた。
 シマの「トモさーん!」という声が、肉声とスマホの中から二重に聞こえてきたので、間違いない。

「お待たせしました」
「いや、わざわざ来てくれてありがとう」
「安心したでしょ?」
「すごく」

 ニコニコと笑うシマを見て素直に頷くと、「可愛い」と言いながらシマが突然智明を抱きしめた。
 どこから駆けつけてくれたのかはわからないが、短くはない距離を走って来てくれたシマの鼓動は早く、つられる様に智明の心臓も高鳴る。

 縋り付くようにシマの背中に手を伸ばして、ぎゅっと控えめに抱きしめ返すと、背後から突き刺さっていた気配が遠ざかっていくのを感じた。
 そこでようやく、心から安心して身体から力が抜ける。
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