1 / 43
大不況
しおりを挟む
令和の世、魔界は大不況の真っ只中にあった。
草食系男子などという言葉が使われ始めて久しく、人ひとりで完結できる娯楽に溢れた世の中では魔族たちの誘惑の手に落ちる人間も少なくなってきた。魔界においてもエネルギー資源の枯渇、人手不足、財政難は深刻なのである。
それまで悠々自適に悪魔らしく気まぐれで自堕落な生活をしてきたが、そうもいかなくなってきた。
その不況の煽りが直撃しているのが、この誰よりも自堕落で働くのが大嫌いなミリーという淫魔だ。
少年体の淫魔は主に人間のオスの精気を主食として生きる個体である……が、ミリーは淫魔であるにも関わらず大の人間嫌いだった。
人間との性交渉で生きる力を得る淫魔が人間嫌いで働けないというのだから、ミリーは魔界でも笑いものの落ちこぼれだった。
うっとりとした色気を孕んだ目元も、少年らしいすらりと細い身体も、ふわりと長い金髪も、どれも魅力的なのに誘惑するのに使ったことがなかった。
「こらミリー、まだこんなところでダラダラしてるの?」
「ラビちゃん、おかえり~」
魔王の棲む城のふもと、多くの悪魔たちがたむろするカフェテリアのような場所でひとりうだうだと時間を浪費していたミリーにそう叱りつける声をかけたのは、ラビという同じ少年体の淫魔仲間だった。
淫魔としても優秀なラビは華やかな外見と気が強いながらも世話好きな性格で、悪魔としては下級の淫魔でありながら魔界の人気者だ。
「おかえり~じゃないよ。少しは人間界に行ってみたりしたの?」
「うう~~、行ってない……人間キライ……」
「はあ、なんだってそうなんだか……で、今はなんでこんなとこにいるのさ?」
「なんか、えらい人に呼び出されたっぽい? ナントカ局に来て、書類を受け取りなさいって」
「ナントカって……たぶん司令局でしょ。何も覚えてないじゃん」
ミリーのいい加減な言動に飽きれて思わずため息が出るラビ。
「今時書類なんて渡されるのはね、アレだよ。アレ」
「アレってなにさ? 怖がらせないでよ」
「最近噂の【最終勧告】。ミリー、いよいよ働くことになるね」
ラビの言う意味をいまいち理解していないミリーだったが、このあとすぐにその運命に従う他なくなるということを理解する。
【 辞令 】
淫魔・ミリーは本辞令の掲示後三日の後、人間界行きを命じる。
その後一ヶ月の間、指定の人間から『青宝石/五十個(換算値)』を回収すること。
果たせなかった際はいかなる場合も《降格処分》とする。
補足:不安なので補佐役としてラビさんを連れていくこと。その間のラビさんのノルマは免除します。
「なにこれーー!?」
「だから言ったじゃん、最終勧告だって。この通りにしないとミリー、あんたおしまいだよ」
この司令局に掲示されている辞令こそ、魔界で今話題の最終勧告だ。
最近の魔界では、その者の働きと消費するエネルギーのバランスが取れていない者らを、もっと省エネルギーで動く下級の悪魔へと降格する……という、なんともエコな処分を下されることが増えているのだという。
ただでさえ淫魔というのは下級魔族である。そこからの降格となると、上級たちに使い捨てにされる使い魔になる他なく、つまりはそう遠くない未来に確実に死ぬことを意味していた……。
「あ、悪夢だぁ~! 青宝石を五十個なんて、どれくらい大変なのかもわかんないけど……僕には無理でしょ!?」
「青を五十かあ。なかなか厳しい設定だね」
淫魔は人間から得た精気から、さまざまな宝石を生み出すことができる。その宝石はエネルギーの結晶体であり、魔界を維持するために消費される。
これを効率よく回収できる人材不足と、魔界の人口増加に伴うエネルギー不足。負の連鎖に陥った魔界は火の車なのだ。
ゆえにミリーのような働かない、働く気がない悪魔たちは口減らしのために切り捨てられる。ここは魔界だ。手厚いサポートや猶予期間など与える文化は一切ない。
草食系男子などという言葉が使われ始めて久しく、人ひとりで完結できる娯楽に溢れた世の中では魔族たちの誘惑の手に落ちる人間も少なくなってきた。魔界においてもエネルギー資源の枯渇、人手不足、財政難は深刻なのである。
それまで悠々自適に悪魔らしく気まぐれで自堕落な生活をしてきたが、そうもいかなくなってきた。
その不況の煽りが直撃しているのが、この誰よりも自堕落で働くのが大嫌いなミリーという淫魔だ。
少年体の淫魔は主に人間のオスの精気を主食として生きる個体である……が、ミリーは淫魔であるにも関わらず大の人間嫌いだった。
人間との性交渉で生きる力を得る淫魔が人間嫌いで働けないというのだから、ミリーは魔界でも笑いものの落ちこぼれだった。
うっとりとした色気を孕んだ目元も、少年らしいすらりと細い身体も、ふわりと長い金髪も、どれも魅力的なのに誘惑するのに使ったことがなかった。
「こらミリー、まだこんなところでダラダラしてるの?」
「ラビちゃん、おかえり~」
魔王の棲む城のふもと、多くの悪魔たちがたむろするカフェテリアのような場所でひとりうだうだと時間を浪費していたミリーにそう叱りつける声をかけたのは、ラビという同じ少年体の淫魔仲間だった。
淫魔としても優秀なラビは華やかな外見と気が強いながらも世話好きな性格で、悪魔としては下級の淫魔でありながら魔界の人気者だ。
「おかえり~じゃないよ。少しは人間界に行ってみたりしたの?」
「うう~~、行ってない……人間キライ……」
「はあ、なんだってそうなんだか……で、今はなんでこんなとこにいるのさ?」
「なんか、えらい人に呼び出されたっぽい? ナントカ局に来て、書類を受け取りなさいって」
「ナントカって……たぶん司令局でしょ。何も覚えてないじゃん」
ミリーのいい加減な言動に飽きれて思わずため息が出るラビ。
「今時書類なんて渡されるのはね、アレだよ。アレ」
「アレってなにさ? 怖がらせないでよ」
「最近噂の【最終勧告】。ミリー、いよいよ働くことになるね」
ラビの言う意味をいまいち理解していないミリーだったが、このあとすぐにその運命に従う他なくなるということを理解する。
【 辞令 】
淫魔・ミリーは本辞令の掲示後三日の後、人間界行きを命じる。
その後一ヶ月の間、指定の人間から『青宝石/五十個(換算値)』を回収すること。
果たせなかった際はいかなる場合も《降格処分》とする。
補足:不安なので補佐役としてラビさんを連れていくこと。その間のラビさんのノルマは免除します。
「なにこれーー!?」
「だから言ったじゃん、最終勧告だって。この通りにしないとミリー、あんたおしまいだよ」
この司令局に掲示されている辞令こそ、魔界で今話題の最終勧告だ。
最近の魔界では、その者の働きと消費するエネルギーのバランスが取れていない者らを、もっと省エネルギーで動く下級の悪魔へと降格する……という、なんともエコな処分を下されることが増えているのだという。
ただでさえ淫魔というのは下級魔族である。そこからの降格となると、上級たちに使い捨てにされる使い魔になる他なく、つまりはそう遠くない未来に確実に死ぬことを意味していた……。
「あ、悪夢だぁ~! 青宝石を五十個なんて、どれくらい大変なのかもわかんないけど……僕には無理でしょ!?」
「青を五十かあ。なかなか厳しい設定だね」
淫魔は人間から得た精気から、さまざまな宝石を生み出すことができる。その宝石はエネルギーの結晶体であり、魔界を維持するために消費される。
これを効率よく回収できる人材不足と、魔界の人口増加に伴うエネルギー不足。負の連鎖に陥った魔界は火の車なのだ。
ゆえにミリーのような働かない、働く気がない悪魔たちは口減らしのために切り捨てられる。ここは魔界だ。手厚いサポートや猶予期間など与える文化は一切ない。
18
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる