降格処分寸前の人間嫌い淫魔ちゃん♂は頑張って働くことになりました

おさかな

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大不況

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 令和の世、魔界は大不況の真っ只中にあった。

 草食系男子などという言葉が使われ始めて久しく、人ひとりで完結できる娯楽に溢れた世の中では魔族たちの誘惑の手に落ちる人間も少なくなってきた。魔界においてもエネルギー資源の枯渇、人手不足、財政難は深刻なのである。
 それまで悠々自適に悪魔らしく気まぐれで自堕落な生活をしてきたが、そうもいかなくなってきた。

 その不況の煽りが直撃しているのが、この誰よりも自堕落で働くのが大嫌いなミリーという淫魔だ。

 少年体の淫魔は主に人間のオスの精気を主食として生きる個体である……が、ミリーは淫魔であるにも関わらず大の人間嫌いだった。
 人間との性交渉で生きる力を得る淫魔が人間嫌いで働けないというのだから、ミリーは魔界でも笑いものの落ちこぼれだった。
 うっとりとした色気を孕んだ目元も、少年らしいすらりと細い身体も、ふわりと長い金髪も、どれも魅力的なのに誘惑するのに使ったことがなかった。


「こらミリー、まだこんなところでダラダラしてるの?」
「ラビちゃん、おかえり~」

 魔王の棲む城のふもと、多くの悪魔たちがたむろするカフェテリアのような場所でひとりうだうだと時間を浪費していたミリーにそう叱りつける声をかけたのは、ラビという同じ少年体の淫魔仲間だった。
 淫魔としても優秀なラビは華やかな外見と気が強いながらも世話好きな性格で、悪魔としては下級の淫魔でありながら魔界の人気者だ。

「おかえり~じゃないよ。少しは人間界に行ってみたりしたの?」
「うう~~、行ってない……人間キライ……」
「はあ、なんだってそうなんだか……で、今はなんでこんなとこにいるのさ?」
「なんか、えらい人に呼び出されたっぽい? ナントカ局に来て、書類を受け取りなさいって」
「ナントカって……たぶん司令局でしょ。何も覚えてないじゃん」
 ミリーのいい加減な言動に飽きれて思わずため息が出るラビ。

「今時書類なんて渡されるのはね、アレだよ。アレ」
「アレってなにさ? 怖がらせないでよ」
「最近噂の【最終勧告】。ミリー、いよいよ働くことになるね」

 ラビの言う意味をいまいち理解していないミリーだったが、このあとすぐにその運命に従う他なくなるということを理解する。



【 辞令 】
淫魔・ミリーは本辞令の掲示後三日の後、人間界行きを命じる。
その後一ヶ月の間、指定の人間から『青宝石/五十個(換算値)』を回収すること。
果たせなかった際はいかなる場合も《降格処分》とする。

補足:不安なので補佐役としてラビさんを連れていくこと。その間のラビさんのノルマは免除します。


「なにこれーー!?」
「だから言ったじゃん、最終勧告だって。この通りにしないとミリー、あんたおしまいだよ」

 この司令局に掲示されている辞令こそ、魔界で今話題の最終勧告だ。

 最近の魔界では、その者の働きと消費するエネルギーのバランスが取れていない者らを、もっと省エネルギーで動く下級の悪魔へと降格する……という、なんともエコな処分を下されることが増えているのだという。
 ただでさえ淫魔というのは下級魔族である。そこからの降格となると、上級たちに使い捨てにされる使い魔になる他なく、つまりはそう遠くない未来に確実に死ぬことを意味していた……。

「あ、悪夢だぁ~! 青宝石を五十個なんて、どれくらい大変なのかもわかんないけど……僕には無理でしょ!?」
「青を五十かあ。なかなか厳しい設定だね」

 淫魔は人間から得た精気から、さまざまな宝石を生み出すことができる。その宝石はエネルギーの結晶体であり、魔界を維持するために消費される。
 これを効率よく回収できる人材不足と、魔界の人口増加に伴うエネルギー不足。負の連鎖に陥った魔界は火の車なのだ。

 ゆえにミリーのような働かない、働く気がない悪魔たちは口減らしのために切り捨てられる。ここは魔界だ。手厚いサポートや猶予期間など与える文化は一切ない。
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