死の境界で16人が殺し合う神前決闘

がんた

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第6話 山の影

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熱い。

煙の匂いがする。

視界が赤い。

腕の中の重みが、消える。

「守雄さん!」

誰かが叫んでいる。

伸ばした手が、空を掴む。

――もっと、力があれば。

その瞬間。

世界が、途切れた。



目を開ける。

そこは、自宅のリビングだった。

古いソファ。

低いテーブル。

床に転がる子どもの積み木。

夕方の光が、窓から差し込んでいる。

「……は?」

熊崎守雄は、ゆっくりと起き上がる。

静かすぎる。

冷蔵庫の音がしない。

外を走る車の音もない。

時計の秒針も止まっている。

まるで、時間が凍っている。

「……夢か」

呟く。

違う、とすぐに分かる。

空気が、重い。

視線を感じる。

振り向く。

リビングの奥。

壁と空間の境目が、わずかに歪んでいる。

そこに、

巨大な影が立っていた。

人の形ではない。

四肢を持つ。

分厚い肩。

黒い毛皮。

地面に爪を食い込ませる、巨大な熊。

だが。

それは動かない。

呼吸の音もない。

ただ、そこに在る。

「……何だ」

声が低くなる。

恐怖はない。

だが、本能が警戒する。

熊は、ゆっくりと顔を上げる。

目が、光る。

人間の知性を宿した目。

「境界に触れた者よ」

声は、熊の口から発せられている。

だが、口は動いていない。

空間そのものが響く。

守雄は、一歩も引かない。

「ここはどこだ」

「黄泉前」

聞いたことのない言葉。

だが、意味は理解できる。

生と死の間。

「俺は……死んだのか」

熊の目が、わずかに揺れる。

「まだ、決まっていない」

曖昧な答え。

守雄は、奥歯を噛む。

「子どもは」

問いは短い。

重い。

熊は沈黙する。

その沈黙が、答えに近い。

「勝てば願いは叶う」

熊が告げる。

「戦え」

命令でも、懇願でもない。

ただの事実。

熊崎は、拳を握る。

「誰とだ」

「他の境界者と」

部屋の床が、わずかに波打つ。

水面のように揺れる。

「願いを選別する」

熊の声は低い。

重い。

「選別?」

「叶えるべき願いを、決める」

その言葉に、胸の奥がざらつく。

「ふざけるな」

吐き捨てる。

だが、熊は怒らない。

ただ、見ている。

「願いを持たぬ者は、ここに立たぬ」

守雄は、目を細める。

願い。

ある。

迷いなく。

「子供たちを守る」

時間を戻せとは言わない。

奇跡を求めない。

熊の目が、わずかに柔らぐ。

「その重さが、形を持つ」

その瞬間。

背後の壁が崩れる。

リビングが消える。

青空が広がる。

足元が、黒い石に変わる。

冷たい。

円壇。

その外側に、静止した水面。

遠くに、鳥居の影。

熊は、そこにいる。

先ほどよりも巨大に見える。

円壇の外側に立ち、こちらを見下ろしている。

「それが、お前の象徴だ」

熊崎は、自分の手を見る。

人の手だ。

変わっていない。

だが。

胸の奥に、圧が宿る。

受け止める力。

怒りを溜める器。

逃げない質量。

円壇の向こう側に、空気が揺らぐ。

何かが、現れようとしている。

熊は告げる。

「立て」

熊崎は、静かに息を吸う。

一歩、円壇に足を踏み入れる。

冷たい石の感触。

重さが、馴染む。

「間も無く始まる」

熊の声が、最後に響く。

「退くことはできぬ」

空が、やけに青い。

風はない。

ただ、静止した世界。

守雄は、円壇の中央に立った。

次に現れる影を、待ちながら。
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