偽物の公爵令嬢は破滅後に本当の自分を愛されて幸せをつかむ

福留しゅん

文字の大きさ
5 / 9

承 その③

しおりを挟む
 わたくしの所属するとある組織に依頼が届いたのは今から一週間ほど前でした。王国でも由緒正しき公爵家に招かれたとある組織の代表、テレサさんは依頼人である公爵からとんでもない要求を突き付けられたそうです。

「今から一週間後までに我が愛娘ガラテアの身代わりを用意しろ」

 それがどれほどの無茶なのか想像できますでしょうか?

 テレサさんは思わず眉をひそめました。思わず断ろうと漏れかけた声を用意されたお茶と飲み込み、かろうじて堪えたらしいです。

「一週間後、とはまた急ぎますね。失礼ながら閣下は我が組織を便利屋か何かと間違っておりませんか?」
「噂には聞いている。どんな婚約破棄も承る、と豪語しているそうだな」

 かつて、この世界では『転生ヒロイン』の出現により大国が滅亡の危機にさらされました。やんごとなき方々がその悪女の毒牙にかかり、彼らの婚約者やそのご実家が『ハーレムルート』の犠牲となられた痛ましい事件、と歴史に刻まれています。

 そのため、今度『転生ヒロイン』が現れても迎え撃つべく、わたくしの祖国である公国は『乙女ゲーム』の脚本に対抗する組織を結成しました。『ヒロイン』を出し抜いて『悪役令嬢』を救う者を派遣する、その名もズバリ悪役令嬢協会を。

「謳い文句は仰るとおりですが、準備期間とご協力を充分にいただければ、という前提がございます。不可能を可能にするためにも、まずはどういった経緯で我々に依頼したのかをご説明願います」
「無理だ、とは言わぬのだな。いいだろう。事の始まりは――」

 所感混じりで整理するのが大変だったそうですが、かいつまむと依頼人のご息女ガラテア様は王太子殿下の婚約者で、その彼は突如男爵令嬢のロクサーヌさんが現れたことで約束された未来が破綻し始めたそうです。

「内容は報告書で拝見しましたが……指導や教育にしては行き過ぎだったのでは?」
「王太子殿下に横恋慕する真似以上に深刻ではないな」

 公爵閣下が開き直るように、身分の低い輩の人権はあって無いようなものです。己の溜飲を下げるためなら過度な暴力や陰湿な嫌がらせは挨拶と同程度とみなされます。ガラテア様は自分の癇癪が正しい所業だと疑いもしません。

「それで王太子殿下がご息女との婚約破棄をするだろう、と閣下はお考えで?」
「だろう、などという憶測ではない。一週間後に必ずされる確定事項なのだ」
「ではその信頼を置く情報の出どころは?」
「……いいだろう。これは他言無用だが――」

 数日前、ガラテア様は突如として『前世の記憶』とやらを思い出しました。

 この世界は『乙女ゲーム』の舞台で自分は『悪役令嬢』、王太子殿下は『攻略対象者』でロクサーヌさんは『ヒロイン』。既に『王太子ルート』に入っていて一週間後に自分は断罪される。そんな破滅の未来を。

 既に断罪まで一週間しかないため挽回は不可能。かと言って破滅を免れたいからとロクサーヌさんへ頭を下げるなんて誇りが許さない。既にガラテア様は自分を裏切った婚約者に愛想を尽かしていて恋心はもはや微塵もない。

 行き着いた対策が身代わりを用意し、生贄とするものだったのです。

「組織の娘を公爵令嬢ガラテアとして王太子殿下に断罪させるのが依頼ですね?」
「そのとおりだ」
「公爵令嬢ガラテアとして断罪された組織の娘はその後もそのように振る舞えと?」
「婚約破棄された娘など公爵家の恥だ。勘当した後にのたれ死のうが関知しない」
「では断罪を免れたご息女はいかがなさるおつもりで? 王太子殿下に知られては組織の者を差し出す意味がありません」
「公爵家の分家の娘として他の分家に嫁に出す」

 このように保身のために組織を利用する貴族は跡を絶ちません。ですが選り好みをして依頼を断れば運営するための資金が足りません。『乙女ゲーム』に対抗するとの理念に反しない限り、汚れ仕事だろうと受注するのが鉄則でした。

 テレサさんは条件をすり合わせて公爵閣下と契約を結び、依頼成立となりました。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は趣味が悪い

無色
恋愛
あなたとの婚約なんて毛ほどの興味もありませんでした。  私が真に慕うのは……

【短編】私悪役令嬢。死に戻りしたのに、断罪開始まであと5秒!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「エリーゼ・ファルギエール! 今日限りでお前との婚約を破棄する!」と嫌がらせをした記憶も、実家の公爵家が横領した事実もないのに冤罪で、悪役令嬢のように、婚約破棄、没落、そして殺されてしまうエリーゼ。 気付けば婚約破棄当日、第一王子オーウェンが入場した後に戻っていた。 嬉しさよりもなぜ断罪5秒前!? スキルを駆使して打開策を考えるも、一度目と違って初恋の相手がいることに気付く。  あーーーーーーーーーー、私の馬鹿! 気になってしょうがないから違うことを考えなきゃって、初恋の人を思い出すんじゃなかった! 気もそぞろになりつつも、断罪回避に動く。 途中でエリーゼも知らない、番狂わせが起こって──!?

【完結】悪役令嬢の本命は最初からあなたでした

花草青依
恋愛
舞踏会の夜、王太子レオポルドから一方的に婚約破棄を言い渡されたキャロライン。しかし、それは彼女の予想の範疇だった。"本命の彼"のために、キャロラインはレオポルドの恋人であるレオニーの罠すらも利用する。 ■王道の恋愛物(テンプレの中のテンプレ)です。 ■三人称視点にチャレンジしています。 ■画像は生成AI(ChatGPT)

「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ。

小鳥遊つくし
恋愛
「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ──。 聖女の転倒、貴族の断罪劇、涙を強いる舞台の中で、 完璧な“悪役令嬢”はただ微笑んだ。 「わたくしに、どのような罪がございますの?」 謝罪の言葉に魔力が宿る国で、 彼女は“嘘の反省”を語り、赦され、そして問いかける。 ――その赦し、本当に必要でしたの? 他者の期待を演じ続けた令嬢が、 “反省しない人生”を選んだとき、 世界の常識は音を立てて崩れ始める。 これは、誰にも赦されないことを恐れなかったひとりの令嬢が、 言葉と嘘で未来を変えた物語。 その仮面の奥にあった“本当の自由”が、あなたの胸にも香り立ちますように。

偽りの聖女にすべてを奪われたので、真実を見抜く『鑑定眼』で本物の逸材たちと逆襲します

希羽
恋愛
辺境伯の養女アニエスは、物や人の本質的な価値を見抜く特殊能力『鑑定眼』を持っていた。彼女はその力を、義妹の聖女セレスティーナを影から支えるために使ってきたが、そのセレスティーナと、彼女に心酔した婚約者によって全てを奪われ、追放されてしまう。絶望の淵で、アニエスは自らの『鑑定眼』を武器に、セレスティーナによって「才能なし」と切り捨てられた本物の天才たち──治水技術者、薬師、そして騎士団長──を見つけ出し、「プロデューサー」として彼らを世に送り出すことを決意する。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

処理中です...