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義妹による自白の始まり
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「……何だ、この茶番は?」
騒然となる会場内に響いたその一言は、すぐさま静けさをもたらした。
誰もがその発言者である国王へと視線を向け、多くが深々と頭を垂れる。
国王の憮然とした面持ちがあからさまに自分は不機嫌であると表していた。
「トレヴァーでもミッシェルでも良い。この様は一体何だ? 申してみよ」
「では許可いただきましたので、私より簡単にご説明いたします」
誰もが怒りを買いたくなくて沈黙する中、ミッシェルだけが優雅に笑みをこぼしながら恭しくお辞儀をし、国王を見据える。しかしミッシェルの目は全く笑っておらず、冷淡に君主を映していた。
「王太子殿下が私に失望してポーラに懸想し、ポーラが王太子殿下の心を射止め、しかしポーラには王太子妃になる気はなくむしろ我が家を継ぐ気は満々。結果、王太子殿下……ああ、元でしたね。元王太子殿下が我が家に婿入りすることとなったのです。ポーラと元王太子殿下の二人が手を携えるなら充分にやっていけるでしょう。これはこの私と父の連名で正当なる継承であることをここに宣言いたします」
「当主の座の継承は最終的に余が承認しなければならぬ。認めると思ったか?」
「何を今更。本来公爵家を継ぐはずだった私を王太子殿下の婚約者とした時点で正当なる継承は絶えました。婚約を引き受ける条件の一つに誰を後継とするかは私に一任してくださったと記憶していますが」
「ぬ、う……」
ポーラは自分が公爵になると豪語していたけれど、勿論それは事前に根回し済みだ。でなければ女公爵の血を引かないわたし達は分家筋のデヴィットの娘でしかなく、継承順位はかなり低いのだから。
「あと父のしでかしについてですか。父が母に並々ならぬ恨みを抱いていたのは国王陛下も存じていたかと。それをフィールディング家内の問題、些事だと判断なさったのが悪手だった、と今更お認めになりますか?」
「……」
「実は陛下も望まれていたのではないですか? 父が暴発しようが構わない、と。聞けば陛下も討論会で母に散々論破されていたそうですが」
「口を慎め。優秀な王太子妃候補ではあったが、目に余るようなら不敬罪を適用して捕らえても良いのだぞ」
おお怖い怖い、などと思ってもいないことを呟いて鈴を鳴らしたように笑うミッシェル。美しい仕草なのだけれどこの場においてはかえって不気味さを演出しており、恐怖を覚えた者も何人かいたようだ。
「さて、国王陛下。王太子殿下との婚約の際に提示した二つの条件のうち、もう一方を今この場で叶えていただきたく、要求いたします」
「待て、それは……」
「王家側からの申し入れにより私が有責でないにも関わらずに婚約破棄となった場合、立場、血統、能力、国籍に関係無く、私を自由にしていただく。そういう約束だったはずです」
「「「……!」」」
その発言に息を呑んだのは誰だったか。国王か、王妃か、女公爵を知る古参の有力貴族か、それとも王太子か。または天国にでもいる女公爵だったかもしれない。それほど大きな衝撃を与えていた。
「いえ、本当に苦労しましたわ。上の身分になればなるほど自由とは程遠い人生しか送れませんものね。仕事にしろ恋愛にしろ、すでに道が敷かれていると言っても過言ではございません。あとはその道をどのように舗装するか、だけですもの。そんな未来はまっぴらごめんです」
「ミッシェル、何を言って……」
「私、父が継母とその娘達を公爵家に招き入れる、などと聞いた時は歓喜に打ち震えたものです。先の通り父が母に恨みを抱いていたのは周知の事実。その忘れ形見である私のことも目の敵にしていましたからね。立派な公爵であれ、と母から教育を受けてきたそれまでの自分が無駄になるほど虐げられ、全てを奪われると期待を膨らませたものです。ま、蓋を開けてみたら想定より良い人ばかりで拍子抜けでしたが」
ミッシェルの口は止まらない。これまで品行方正だった貴族令嬢の模範たる彼女からは考えられない独白に誰もが口を挟めないでいた。何故なら、それが初めて彼女が皆に見せる本音だったから。
「次期公爵の座も、次期王太子妃の座も、むしろ公爵家の令嬢という立場自体私にとっては邪魔でしかありませんでした。今日この時を持って私の夢が叶ったのです」
「そのためにトレヴァーやそこの小娘を見過ごした、と? トレヴァーの気持ちも考えずに己の欲求を満たすために?」
「何が不満だったのでしょうか? 王太子妃教育は特に問題なく受け終え、王太子殿下との関係も普段からの交流で深めてまいりました。それとも、義務以上のことを求めておいででしたか? 期待に添えなかったこと、お詫びいたします」
そう、ミッシェルは手を抜いていた。全力を尽くしていたら王太子妃教育なんてもっと早くに終わらせて王妃教育にまで手を伸ばしていただろう。そして王太子との逢瀬でももっと彼の気を惹くように振る舞ったに違いない。あくまで求められていたのが最善で優秀な王太子妃だったから、それを満足しただけだ。
騒然となる会場内に響いたその一言は、すぐさま静けさをもたらした。
誰もがその発言者である国王へと視線を向け、多くが深々と頭を垂れる。
国王の憮然とした面持ちがあからさまに自分は不機嫌であると表していた。
「トレヴァーでもミッシェルでも良い。この様は一体何だ? 申してみよ」
「では許可いただきましたので、私より簡単にご説明いたします」
誰もが怒りを買いたくなくて沈黙する中、ミッシェルだけが優雅に笑みをこぼしながら恭しくお辞儀をし、国王を見据える。しかしミッシェルの目は全く笑っておらず、冷淡に君主を映していた。
「王太子殿下が私に失望してポーラに懸想し、ポーラが王太子殿下の心を射止め、しかしポーラには王太子妃になる気はなくむしろ我が家を継ぐ気は満々。結果、王太子殿下……ああ、元でしたね。元王太子殿下が我が家に婿入りすることとなったのです。ポーラと元王太子殿下の二人が手を携えるなら充分にやっていけるでしょう。これはこの私と父の連名で正当なる継承であることをここに宣言いたします」
「当主の座の継承は最終的に余が承認しなければならぬ。認めると思ったか?」
「何を今更。本来公爵家を継ぐはずだった私を王太子殿下の婚約者とした時点で正当なる継承は絶えました。婚約を引き受ける条件の一つに誰を後継とするかは私に一任してくださったと記憶していますが」
「ぬ、う……」
ポーラは自分が公爵になると豪語していたけれど、勿論それは事前に根回し済みだ。でなければ女公爵の血を引かないわたし達は分家筋のデヴィットの娘でしかなく、継承順位はかなり低いのだから。
「あと父のしでかしについてですか。父が母に並々ならぬ恨みを抱いていたのは国王陛下も存じていたかと。それをフィールディング家内の問題、些事だと判断なさったのが悪手だった、と今更お認めになりますか?」
「……」
「実は陛下も望まれていたのではないですか? 父が暴発しようが構わない、と。聞けば陛下も討論会で母に散々論破されていたそうですが」
「口を慎め。優秀な王太子妃候補ではあったが、目に余るようなら不敬罪を適用して捕らえても良いのだぞ」
おお怖い怖い、などと思ってもいないことを呟いて鈴を鳴らしたように笑うミッシェル。美しい仕草なのだけれどこの場においてはかえって不気味さを演出しており、恐怖を覚えた者も何人かいたようだ。
「さて、国王陛下。王太子殿下との婚約の際に提示した二つの条件のうち、もう一方を今この場で叶えていただきたく、要求いたします」
「待て、それは……」
「王家側からの申し入れにより私が有責でないにも関わらずに婚約破棄となった場合、立場、血統、能力、国籍に関係無く、私を自由にしていただく。そういう約束だったはずです」
「「「……!」」」
その発言に息を呑んだのは誰だったか。国王か、王妃か、女公爵を知る古参の有力貴族か、それとも王太子か。または天国にでもいる女公爵だったかもしれない。それほど大きな衝撃を与えていた。
「いえ、本当に苦労しましたわ。上の身分になればなるほど自由とは程遠い人生しか送れませんものね。仕事にしろ恋愛にしろ、すでに道が敷かれていると言っても過言ではございません。あとはその道をどのように舗装するか、だけですもの。そんな未来はまっぴらごめんです」
「ミッシェル、何を言って……」
「私、父が継母とその娘達を公爵家に招き入れる、などと聞いた時は歓喜に打ち震えたものです。先の通り父が母に恨みを抱いていたのは周知の事実。その忘れ形見である私のことも目の敵にしていましたからね。立派な公爵であれ、と母から教育を受けてきたそれまでの自分が無駄になるほど虐げられ、全てを奪われると期待を膨らませたものです。ま、蓋を開けてみたら想定より良い人ばかりで拍子抜けでしたが」
ミッシェルの口は止まらない。これまで品行方正だった貴族令嬢の模範たる彼女からは考えられない独白に誰もが口を挟めないでいた。何故なら、それが初めて彼女が皆に見せる本音だったから。
「次期公爵の座も、次期王太子妃の座も、むしろ公爵家の令嬢という立場自体私にとっては邪魔でしかありませんでした。今日この時を持って私の夢が叶ったのです」
「そのためにトレヴァーやそこの小娘を見過ごした、と? トレヴァーの気持ちも考えずに己の欲求を満たすために?」
「何が不満だったのでしょうか? 王太子妃教育は特に問題なく受け終え、王太子殿下との関係も普段からの交流で深めてまいりました。それとも、義務以上のことを求めておいででしたか? 期待に添えなかったこと、お詫びいたします」
そう、ミッシェルは手を抜いていた。全力を尽くしていたら王太子妃教育なんてもっと早くに終わらせて王妃教育にまで手を伸ばしていただろう。そして王太子との逢瀬でももっと彼の気を惹くように振る舞ったに違いない。あくまで求められていたのが最善で優秀な王太子妃だったから、それを満足しただけだ。
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