神託など戯言です ~大聖女は人より自分を救いたい~

福留しゅん

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第3-1章 私は聖地より脱出しました

私達は聖都へと逃れました

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 海の道は想像以上に歩きづらかったです。当然ですよね。海底なんて砂と岩で出来ていて道なんてありませんから。人が行けないような高低差こそありませんでしたが、女子供は誰かの支えがなければ思うように進めないようです。

 どれほど歩いたかは分かりません。太陽の昇り具合からすると思ったほどは時間が経っていないのでしょう。延々と続くのを苦行と捉えるか試練と解釈するか、迷います。初めのうちは助かったと希望に満ちていた市民も段々と苦しみを露わにし始めました。

「この祭服、歩きづらいわね……!」
「あまり派手に動くことは考えられていない厳かな作りですからね……」
「もういっそ少し破いちゃおうかしら……!?」
「民が見ていますから止めた方がいいかと」

 疲労で足が思ったように上がらなかったのか、つまずいたリッカドンナを神官と騎士達が支えました。アウローラも初めのうちは杖を持ちながら進んでいましたが、今では地面を付いて少し体重を支えているようです。

 私もまた足取りがおぼつかなくなってふらついた身体をチェーザレに支えてもらいました。私がぶつかっても彼はびくともしません。頼もしいと思いましたし大丈夫かと問いかけた彼を優しいと感じました。駄目ですね、今は彼が何をやっても素敵と思えます。

 無限に続くかと思われた逃走は、やがて対岸が見えてきて終わりが来たのだと分かりました。地理的にはこんな短時間で聖国の向かい側にたどり着けるわけがないのですが、奇蹟の一言で説明が付いてしまいます。

「……なあキアラ」
「何でしょうか?」
「俺には向こうに見えるのが聖都の港にしか見えないんだが」
「奇遇ですね。私もです」

 なんと、海の道は聖都まで続いていたのです。
 南方島国から聖国への船旅でもかなりの日数を要したのに一日もかからなかったことから、この脱出劇は明らかに自然の摂理を超越した神の御業によるものだと改めて確信出来ました。

 海を前に天へと手をかざしているのは……やはりセラフィナでしたか。まさか彼女の脱出の奇蹟が遠い聖地まで道を繋げられるとは驚きですが、この為にこの奇蹟を授かったのかと思うほどの適役でした。

 逃げ延びた聖国市民の誘導にあたっていたのはどうやらエレオノーラとルクレツィアのようです。多くの教国兵が避難誘導に動員されているようで、聖都の港はとても慌ただしい様相を見せていました。

 アウローラとリッカドンナが陸に上がれたのは聖都の港町が視界に映って大分経ってからでした。アウローラの姿を確認したエレオノーラが歓喜に打ち震えましたが、すぐに己を律して静かに彼女へと歩み寄ります。

「聖域の聖女アウローラ、只今帰還しました」
「お帰りなさいませ、アウローラ様。ご無事で何よりです」
「任務を果たせず申し訳ありません。どんな罰でも受けます」
「そんな! 事情は少しお聞きしました。神託を授かった者が私共を追い出したのなら、これもまた神が与えた試練ではないかと」

 私は聖女同士の再会をそっちのけにセラフィナへと向かいます。私が傍によって始めてセラフィナは顔を海から外し、私に笑いかけます。ただ無理に笑みを浮かべていて若干引き攣っていることからも、相当辛いのは感じ取れます。

「見ましたかお姉様。わたしったら凄いですね。こんな神がかり的な奇蹟だって起こせちゃうんですよ」
「無茶な! 聖国の人を全員逃がす規模の奇蹟を行使して負担が軽いわけがないでしょう!」
「ええ、さすがにちょっときついです……。ルクレツィア様に少し補助してもらってますけど……」
「待っていなさい、私も助力します」

 私には脱出の奇蹟は使えませんが、奇蹟を行使するセラフィナの負担を治療の奇蹟で和らげることは出来ます。
 私が神に祈りを捧げて手のひらをセラフィナの方へと向けます。わずかに淡く輝き、優しく放たれる光の粒子がセラフィナを包み込みました。
 セラフィナが目を大きく見開きます。

「お姉様!? 駄目です! みんなの前でそんなことをしちゃったら……!」
「もう今更です。聖国で危機を乗り切るために何度も人前で見せてしまいました」
「そんなっ……!」
「それを言うならセラフィナだって脱出の奇蹟を見せてしまうなんて。逃亡の魔女との関連性を疑われてしまうでしょう」
「それは、背に腹は代えられなかったんです。お姉様をお助けするには神託に従うしかなかったですし、エレオノーラ様まで神託をお聞きになったみたいでしたから」

 神よ、もう試練はうんざりなのですが。私は神が期待されるほど過酷な道を乗り越えられる強さは無いのです。全てを救う使命を託すのであればどうしてこんなにも女の子としての幸福を願う心を許したのでしょうか?

 リッカドンナの後に続いた兵士達も半数近くが陸に上がり、水平線の彼方まで続いていた列もようやく最後尾が見えてきました。どうやら追撃戦が行われている様子もなさそうです。安堵でほっと胸を撫で下ろしたのですが……まだ早かったようです。
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