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第四章 熾天魔王編
【閑話】勇者魔王、首席聖女を看取る
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■(第三者視点)■
イレーネは勇者イレーネと魔王イレーネの二人がかりでイスラフィーラと勇者を追い込んでいる。イスラフィーラが勇者と二人組で無類の力を発揮するのに対してイレーネはどちらも抜きん出た実力者。しかも同一存在と化している現在の二人のイレーネは完全に同調した攻めにより二倍にも三倍にも強さを向上させていた。
もはや勇者が盾役に専念することでようやくイレーネの攻勢を凌いでいる状況。それも段々とかばいきれなくなり、イスラフィーラも防御に回らざるをえなくなってきていた。苦悶の表情を浮かべながらもイレーネの斬撃を凌いでいたイスラフィーラだったが……、
「一文字斬り!」
「くっ!」
とうとう彼女の戦棍が聖王剣で両断され、宙を舞ってから床に転がった。
イスラフィーラはすかさず飛び退いで間合いを広げ、勇者が殿を務めつつイレーネの追撃を防ぐ。イレーネも無茶は避けてその場に留まり、互いに武具を構えた睨み合いに移行する。
イスラフィーラは腰に挿していた権杖を手にし、集中して祈り始めた。勇者もまた大盾をその場に置いてから虚空より剣を出現させて力を溜める。大気が、そして床が振動することで膨大な力が集中されていくのがイレーネにも分かった。
現代まで封印されていたイレーネは……いや、教会内にもイスラフィーラの奥の手を知る者は誰一人としていない。これこそイスラフィーラが勇者と共に魔王を撃破した必勝の一手。そしてイスラフィーラにとっては勇者との絆の証だった。
「「合体奥義、アセンションウェーブ!」」
イスラフィーラ達から太陽と見間違うばかりの膨大な光が放たれる直前、勇者イレーネと魔王イレーネはここで初めて視線を交わした。二人共それぞれの剣に光と闇を収束させ、聖王剣と魔王剣を同時に一閃させる。
それはイレーネが勇者と魔王で一心同体同然になった今ならばひょっとしたら出来るかも、と模索していた技。しかし過剰な威力なため出る幕など一切無いだろうと諦めていた夢想。それをここぞとばかりに使うことにする。
「「合体奥義、グランドフルクロス!」」
十字状の光と闇が解き放たれ、極光とぶつかりあった。最初のうちは拮抗していた互いの奥義は徐々にイレーネの方が押していく。イスラフィーラと勇者が懸命に踏ん張ってももはや不利な状況は覆せない。
そしてイレーネの奥義がイスラフィーラに炸裂する直前だった。勇者が床に置いていた大盾を構え直し、彼女の前へと躍り出た。イスラフィーラが勇者の名を叫ぶも勇者は決して退かず、勇者と魔王の一撃を受け止めきる。
光も闇も収まった決戦の場では残心を取る二人のイレーネ、膝をついて打ちひしがれるイスラフィーラ、そして彼女の前に転がる大盾だけが残った。勇者がいた証は消えつつある僅かな光の粒子だけが残っていたが、次第に消えていった。
「僕の勝ちだ」
二人のイレーネは勝利宣言をして剣を鞘に収める。イスラフィーラはしばし呆然としたもののやがて大盾を愛おしそうに、そして懐かしそうに撫で、ゆっくりとした動作で抱きかかえた。先程までの怒涛の攻勢を見せていた活発さが嘘のようだった。
「見事です。まさか私達が敗れるとは……。やはり同じ魔王だからと以前のようにはいきませんか」
「いや、君達はとても強かった。もし君の時代の魔王が僕だったとしても軍長と総掛かりで潰したくなるよ」
「ふふっ。その強さが結果的に自分達の首を絞めることになったのですが、ね」
「イスラフィーラ。ミラクルブレイブを使った君の寿命は――」
「後悔はありませんよ。もはや私がこの世でやり残したことなんて無いんですから」
人造聖女と人造勇者は捨て駒にした。魔王軍相手に有効とならないのなら今後の量産計画は破棄されるだろう。それを可能とした頭脳の持ち主だった錬金魔王もガブリエッラを相手にして無事で済む筈がない。そして先に進んだ魔王でありながら聖女となったミカエラなら自分の理想を叶えてくれる。あの方をも超えて――。
イスラフィーラは身体を横たえ、大盾を抱き締めて身体を縮めた。かけがえのない存在を失いながらもここまで歩み続け、光差す未来を見出し、全てをやり遂げたイスラフィーラは満足し、笑みをたたえながら目を瞑った。
「ブルーノ。すぐに私も貴方のもとに……」
イスラフィーラはようやく安息の時を迎え、天へと召されていった。
イレーネ、ティーナ、ダーリアはそれぞれ教会、エルフ、ドワーフの信仰にもとづいて大聖女の冥福を祈った。そして召された先で先に待っている勇者一行と再会出来ることを願って。
その時不思議なことが起こった。イスラフィーラが用意したかつて勇者一行が使ったとされる装備一式の大盾、弓、槍、杖が音を立てて壊れたのだ。まるで役目を全うしたとばかりに。
「羨ましいなぁもう」
「ああ、全くだぞ」
「悔しいから顔に落書きでもしてやろうかしらね」
三人の元魔王はそれぞれ愚痴をこぼした。思い返せば自分達の時代はこうまで絆が結ばれた勇者一行ではなかったから。
しかし、だ。だからといって妬みはしない。なぜなら彼女達だって今は誇れる仲間がいるのだから。他でもない、時代を超えた者達が集った聖女一行としての。
イレーネは勇者イレーネと魔王イレーネの二人がかりでイスラフィーラと勇者を追い込んでいる。イスラフィーラが勇者と二人組で無類の力を発揮するのに対してイレーネはどちらも抜きん出た実力者。しかも同一存在と化している現在の二人のイレーネは完全に同調した攻めにより二倍にも三倍にも強さを向上させていた。
もはや勇者が盾役に専念することでようやくイレーネの攻勢を凌いでいる状況。それも段々とかばいきれなくなり、イスラフィーラも防御に回らざるをえなくなってきていた。苦悶の表情を浮かべながらもイレーネの斬撃を凌いでいたイスラフィーラだったが……、
「一文字斬り!」
「くっ!」
とうとう彼女の戦棍が聖王剣で両断され、宙を舞ってから床に転がった。
イスラフィーラはすかさず飛び退いで間合いを広げ、勇者が殿を務めつつイレーネの追撃を防ぐ。イレーネも無茶は避けてその場に留まり、互いに武具を構えた睨み合いに移行する。
イスラフィーラは腰に挿していた権杖を手にし、集中して祈り始めた。勇者もまた大盾をその場に置いてから虚空より剣を出現させて力を溜める。大気が、そして床が振動することで膨大な力が集中されていくのがイレーネにも分かった。
現代まで封印されていたイレーネは……いや、教会内にもイスラフィーラの奥の手を知る者は誰一人としていない。これこそイスラフィーラが勇者と共に魔王を撃破した必勝の一手。そしてイスラフィーラにとっては勇者との絆の証だった。
「「合体奥義、アセンションウェーブ!」」
イスラフィーラ達から太陽と見間違うばかりの膨大な光が放たれる直前、勇者イレーネと魔王イレーネはここで初めて視線を交わした。二人共それぞれの剣に光と闇を収束させ、聖王剣と魔王剣を同時に一閃させる。
それはイレーネが勇者と魔王で一心同体同然になった今ならばひょっとしたら出来るかも、と模索していた技。しかし過剰な威力なため出る幕など一切無いだろうと諦めていた夢想。それをここぞとばかりに使うことにする。
「「合体奥義、グランドフルクロス!」」
十字状の光と闇が解き放たれ、極光とぶつかりあった。最初のうちは拮抗していた互いの奥義は徐々にイレーネの方が押していく。イスラフィーラと勇者が懸命に踏ん張ってももはや不利な状況は覆せない。
そしてイレーネの奥義がイスラフィーラに炸裂する直前だった。勇者が床に置いていた大盾を構え直し、彼女の前へと躍り出た。イスラフィーラが勇者の名を叫ぶも勇者は決して退かず、勇者と魔王の一撃を受け止めきる。
光も闇も収まった決戦の場では残心を取る二人のイレーネ、膝をついて打ちひしがれるイスラフィーラ、そして彼女の前に転がる大盾だけが残った。勇者がいた証は消えつつある僅かな光の粒子だけが残っていたが、次第に消えていった。
「僕の勝ちだ」
二人のイレーネは勝利宣言をして剣を鞘に収める。イスラフィーラはしばし呆然としたもののやがて大盾を愛おしそうに、そして懐かしそうに撫で、ゆっくりとした動作で抱きかかえた。先程までの怒涛の攻勢を見せていた活発さが嘘のようだった。
「見事です。まさか私達が敗れるとは……。やはり同じ魔王だからと以前のようにはいきませんか」
「いや、君達はとても強かった。もし君の時代の魔王が僕だったとしても軍長と総掛かりで潰したくなるよ」
「ふふっ。その強さが結果的に自分達の首を絞めることになったのですが、ね」
「イスラフィーラ。ミラクルブレイブを使った君の寿命は――」
「後悔はありませんよ。もはや私がこの世でやり残したことなんて無いんですから」
人造聖女と人造勇者は捨て駒にした。魔王軍相手に有効とならないのなら今後の量産計画は破棄されるだろう。それを可能とした頭脳の持ち主だった錬金魔王もガブリエッラを相手にして無事で済む筈がない。そして先に進んだ魔王でありながら聖女となったミカエラなら自分の理想を叶えてくれる。あの方をも超えて――。
イスラフィーラは身体を横たえ、大盾を抱き締めて身体を縮めた。かけがえのない存在を失いながらもここまで歩み続け、光差す未来を見出し、全てをやり遂げたイスラフィーラは満足し、笑みをたたえながら目を瞑った。
「ブルーノ。すぐに私も貴方のもとに……」
イスラフィーラはようやく安息の時を迎え、天へと召されていった。
イレーネ、ティーナ、ダーリアはそれぞれ教会、エルフ、ドワーフの信仰にもとづいて大聖女の冥福を祈った。そして召された先で先に待っている勇者一行と再会出来ることを願って。
その時不思議なことが起こった。イスラフィーラが用意したかつて勇者一行が使ったとされる装備一式の大盾、弓、槍、杖が音を立てて壊れたのだ。まるで役目を全うしたとばかりに。
「羨ましいなぁもう」
「ああ、全くだぞ」
「悔しいから顔に落書きでもしてやろうかしらね」
三人の元魔王はそれぞれ愚痴をこぼした。思い返せば自分達の時代はこうまで絆が結ばれた勇者一行ではなかったから。
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