良識のある異世界生活を

Hochschuler

文字の大きさ
33 / 41
学園

33

しおりを挟む
「で、これは一体どう言う事態かしら」
そう言って俺をきつく睥睨するのはシャーロット。
それを受けて冷や汗ダラダラの2人。
後ろには王家の家があり、その門の前で俺がリリーと共に出てくると俺を待っていたシャーロットは一気に眉間に皺を寄せたのだ。
リリー、そして俺は睥睨の意味がよくわからなかったのだが、何か不吉な予感がしてこう弁明した。

「ま、まて! 私たちはただ一緒に寝ただけなんだ! 」
リリーが両手を振ってそう言う。
「一緒に寝たですって!? 」
それに大仰な返事を返すシャーロット。
おい、なんでそれだけでそんな反応ができる。
俺は心の中で突っ込んだが、当然ご機嫌斜めのシャーロットにそれが言えるわけもなく、リリーの言葉に付け足した。
あ、ああ、本当にそれだけなんだ!
「本当かしら? 」
シャーロットがリリーの方をチラリと見やる。
「あ、ああ、後は慰めてもらったくらいで! 」
「慰める!? それはどう言う意味で慰めたのかしら!? 」
これまた大仰な返しをしたシャーロット。
俺たちは土台その反応の意味がわからないので、当惑するしかなかった。
しかしシャーロットは途端に肩をすくめて見せてこう言った。
「まぁ、十中八九私が何かを勘違いしているんでしょうね。この意気地なしにそんな大それたことができるとは思えないもの」
おい、大それたこととは何だ――まさか、お前! おれがリリーと――
それを言い終わる前にはシャーロットの意識は俺になかった。
彼女はリリーを見つめて、一呼吸おくとこう言った。

「まあ、私にはあんたがどんな事態になっていたかなんて皆目見当がつかないのだけれど、兎に角おかえり、リリー」

その言葉を受けたリリーはさっきのあくせくした表情とは打って変わって満面の笑みを浮かべてこう答えた。

「ああ、ただいま、シャーロット、アル、そしてここにはいないがマイケル」

リリーはこう続ける。
「そして、ただいま! 人間界! 」
「ちょっと! 声が大きいわよ! 歩行者から変人扱いされちゃうわ! 」
シャーロットはそう言って諌める。
「む? なら問題ない! 私はもともと人ではないしな! 」
そう言って胸を叩くリリー。
「そう言う問題じゃないわよ! それに私たちも変人だと思われちゃうじゃないの! 」
「いいじゃないか! 変人! みんなでなろう! 」
こめかみを抑えるシャーロット。
歩行者が通るたびに「ただいま! 人間! 」と呼びかけるリリー。
当然歩行者の顔には困惑の二文字が浮かぶ。
しかし、俺にはそれが平穏に見えた。

どうやらこの街には、いや、そんな大規模ではなく、俺の心には平穏が舞い戻ってきたらしい。
こうして当たり前の毎日が送れることのなんたるありがたさか。
俺はこめかみが熱くなるのを感じながら、肩にバッグを担いで道を急いだ。
「あんた、何泣いてんのよ」
そうシャーロットに囁き声で指摘されたが。










龍王の部屋にて。
で、俺を呼びつけて何の気だ。お前はもう決定的に俺たちの敵だろ。
「ふぉっふぉっ、そうか。そうなってしまったか……まあ、一つ感謝をせねばな。娘を迎え入れてくれてありがとう」

……そうか、やっぱり不思議だったんだ。時空間魔法を持ったあんたが、持たないリリーに負けるはずがないと。さらに、あれほどまでに強い龍どもが、こういっちゃなんだが小娘一匹を殺せないほど弱いはずがないと。

「……まあ、もう過ぎたことはいいわい。わしもお主らとは決別するつもりだった。だがな……時は近いぞ、青年。この世界が破滅する時が」

言いたいのはそれだけか? 

「ああ、お主には今まで時空間魔法の基礎を叩き込んだ。それをどのように発展させていくかはお主次第だ。ただ……どうか娘を頼んだぞ」

……ああ、分かった。お前は俺の恩情によって生かしといてやる。……今まで世話になったな。

「ふぉっふぉっ、それが敵に向かって言う言葉かい」

俺はその場をさった。これで龍皇との関係も終わりだ。――彼は世界が絶滅に瀕した時、どっちのサイドにいるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...