復讐を誓う少年と蒼き魔族の女将軍 ~人類を裏切った俺が、異界の救世主になるまで~

M_mao

文字の大きさ
29 / 48
グランディ帝国編-第二章

第三話 「女帝の舞」

しおりを挟む
「キャロライン!——」

玉座の上の女王ベレーラは、喉を締め上げられたかのような、絶望的な悲鳴を上げた。

キャロラインは呻き声を一つ漏らすと、魂さえ凍てつかせるかのような冷たい痺れが背骨を駆け上がるのを感じた。
彼女はよろめきながら五歩踏み出し、ようやくその勢いを殺す。だが、固く歯を食いしばり、込み上げる血の気を無理やり抑えつけると、鋭く身を翻し、再び防御の構えを取った。その不屈の炎を燃やす瞳には、強敵に対する最大限の警戒が満ちていた。

意外にも、セリーヌは追撃してこなかった。彼女はただその場に立ち、両の腕を空にしたまま、静かにこちらを見ている。

キャロラインは視線の端で玉座を捉え、ベレーラの、恐怖と憂いに満ちた瞳と視線を交わした。彼女はありったけの力を込め、女王の方へ、ほとんど気づかれぬほど僅かに頷いた。――必ずや、お守り致します、と。

キャロラインは即座に戦術を切り替えた。もはや極限の速さを求めず、長剣を振り回し、疎にして漏らさぬ剣の網を織り上げ、広範囲の斬撃と薙ぎ払いによって、セリーヌの回避空間を絶えず圧縮していく。剣の光は銀色の嵐と化し、四方八方からセリーヌへと殺到した。

セリーヌは内心で相手の対応能力を称賛しながら、その身は風に舞う落ち葉のように、素早くしなやかに、狭い空間の中を飛び回っていた。

突如、セリーヌの足捌きに、ほとんど感知できぬほどの「停滞」が見えた。まるで力が尽きたかのように、上半身の門が、大きく開かれている!
罠か、真の好機か!?

キャロラインの脳裏に一瞬の躊躇いがよぎる。だが、軍人としての本能が、この刹那の好機を掴ませた!彼女は怒号を発すると、全身の力を剣の身に注ぎ込み、セリーヌが無防備に晒した頭部へと、石破天驚の一太刀を、斬り下ろした!

だが、彼女が勝利を確信した、その時――悪夢が始まった。

セリーヌは退かなかった。逆に、地を滑る影のように、唸りを上げる剣の光の下を潜り抜けてきた!
(速い!だが、懐に入った以上、避けられぬ!)
キャロラインがそう判断し、防御を固めようとした瞬間、彼女の全ての予測が裏切られた。

陽動であったはずの右の掌が、彼女の注意を引きつける!
真の殺招は、影に潜んでいた左手!
それは全く予測不能な角度から、下から上へと、「パッ!」という乾いた音を立て、刃と化した掌の縁が、キャロラインが剣を握る右手首の関節へと、容赦なく叩きつけられた!

「あっ――!」
鋭い痛みが電流のように迸り、右手の力が、ふっと抜けた。剣の柄が、滑り落ちそうになる!

だが、悪夢はまだ終わらない。
左手の手刀が成功したその千分の一秒後、セリーヌの右の掌が、螺旋を描く錐のように、キャロラインの長剣の鍔を正確に打ち据えた!
「キンッ!」という甲高い音と共に、長剣は悲鳴を上げ、宙高く舞う!

(剣が――!?)

思考が追いつかない。武器を失った、その刹那。
セリーヌの全身が、もはや防ぐことのできぬ破城槌と化し、肩を先端に、がら空きになった胸の真芯へと、容赦なく突っ込んできた!

「ぐ……はっ――!」
鈍い打撃音と共に、キャロラインは苦悶の声を漏らす。

鈍い打撃音と共に、キャロラインは苦悶の声を漏らす。山津波のような力が鎧を貫き、彼女の全身を十数メートル後方まで吹き飛ばした!
彼女は必死に足を踏ん張り、両足が滑らかな雪花石の床に二筋の深い溝を刻み、辛うじて倒れるのを堪えたが、口の端からは一筋の血が滲み出ていた。

だが、彼女が激痛から完全に立ち直るより早く、その瞳孔が、ぐっと収縮した――視界の果てに、天から真っ直ぐに降ってくる銀色の光。それは、己が剣!

セリーヌの姿は、熟練の舞踏家のように、優雅な半回転の中、その右手を完璧なタイミングで差し伸べる。まるで、あの剣が自らその手に飛び込んできたかのように、軽々と、そして、確かに、受け止められた。

手首への一撃から、打撃、そして、剣を奪うまで、その全工程は、流れる水のごとく滑らかで、一気呵成に行われた。電光石火の攻防は、その場にいた全ての者を、死のような沈黙へと陥れた。

キャロラインは衝撃に眩暈を覚え、呼吸さえままならない。彼女は顔を上げ、苦痛の中、どうにか再び視点の焦点を結ぶ。そして、己が魂さえ凍てつかせる光景を目にした。

セリーヌが、彼女自身の剣を、その手にしていた。
かの魔族の統帥の顔に嘲りや狂喜の色はなく、ただ、太陽が昇り、月が沈むが如き、当然の、静けさがあるだけだった。

瞬く間に、彼女はキャロラインの眼前へと歩み寄り、先程までキャロラインのものであったはずのその剣で、あたかも騎士を叙するかの如き、荘厳にして、この上なく屈辱的な仕草で、その冷たい切っ先を、そっと、彼女の右肩へと、乗せた。


「勝負は、決した!」

セリーヌの声は、平坦で、一片の揺らぎもなかったが、さながら天地創造の理のように、一切の反駁を許さない。その一言は、この短くも凄絶な決闘に、そして、グランディ帝国のかつての栄光に、最終的な、そして、覆すことのできぬ、終焉を、告げたのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...