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グランディ帝国編
第0話 プロローグ
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ジリジリと、肌を焼くような日差し。
白く乾いた石畳の上で、陽炎がゆらりと揺れている。
アタナディ侯爵邸。
本来なら最も賑わうはずのこの場所を支配しているのは、異様なほどの静寂だった。
聞こえるのは耳障りな蝉の声と、ブンブンと飛び回る羽虫の羽音だけ。
――ジャリッ。
焦げ付くような石畳を踏みしめる、無機質な靴音。
エドは無造作に歩を進める。
その足元には、数十人もの「肉塊」が転がっていた。
全身鎧で武装した女騎士たちだ。
彼女らは一様に浅い呼吸を繰り返し、眼球を激しく痙攣させている。
恐怖に染まったその瞳だけが、彼女たちが単なる屍ではないことを物語っていた。
「……ま、て……」
その静寂を破ったのは、掠れ切った――けれど確かな執念を宿した声だった。
肉塊の山から、隊長格と思しき女が一人、槍を杖代わりにして無理やり上半身を起こす。
「……通、さな……い……ッ」
エドは足を止め、見下ろす。
ゴミを見るような、冷めきった目だった。
「大人しく寝てりゃいいものを」
「さ……殺人鬼め……! ここ、は……ッ!」
女が低く唸る。
恐怖をねじ伏せるように手背の血管を浮き上がらせ、残った魔力の全てを込めた槍先が、震えながらエドの背中を狙う。
(――あ?)
エドの眉がわずかに動く。
(もう身体が動くのか。回復が早すぎる)
指先で、血濡れた短剣をクルリと半回転させる。
剣技と呼ぶにはあまりに単純で、あまりに速すぎる一閃。
――ザシュッ。
世界が一瞬、止まった。
女騎士の動きが硬直する。
次の瞬間、力が抜けたみたいに、そのまま崩れた。
熱を持った石畳の上をゴロゴロと転がり、仲間の顔の前でピタリと止まる。
ドクドクと。
噴水のように溢れ出した鮮血が、まだ辛うじて息のある騎士たちの顔に熱い飛沫を浴びせた。
(クソッ、上位騎士クラスだと毒の回りが浅いか……なら)
短剣についた血糊をパッと振るい落とす。
エドは踵を返し、眼前の豪奢な彫刻扉へと疾走した。
(どこだ……どこに居やがる!)
心臓だけが、やけにうるさい。
それは恐怖によるものではない。
四年だ。
四年間――この瞬間だけを、待ち続けてきた。
扉を蹴破り、絢爛な廊下へとなだれ込む。
飢えた獣の目で、廊下の隅々まで睨め回す。
見つけなければならない。
毒の効果が切れる前に。
あの悪魔が、目を覚ます前に。
「――ルグナアアアアアッ!!!」|
白く乾いた石畳の上で、陽炎がゆらりと揺れている。
アタナディ侯爵邸。
本来なら最も賑わうはずのこの場所を支配しているのは、異様なほどの静寂だった。
聞こえるのは耳障りな蝉の声と、ブンブンと飛び回る羽虫の羽音だけ。
――ジャリッ。
焦げ付くような石畳を踏みしめる、無機質な靴音。
エドは無造作に歩を進める。
その足元には、数十人もの「肉塊」が転がっていた。
全身鎧で武装した女騎士たちだ。
彼女らは一様に浅い呼吸を繰り返し、眼球を激しく痙攣させている。
恐怖に染まったその瞳だけが、彼女たちが単なる屍ではないことを物語っていた。
「……ま、て……」
その静寂を破ったのは、掠れ切った――けれど確かな執念を宿した声だった。
肉塊の山から、隊長格と思しき女が一人、槍を杖代わりにして無理やり上半身を起こす。
「……通、さな……い……ッ」
エドは足を止め、見下ろす。
ゴミを見るような、冷めきった目だった。
「大人しく寝てりゃいいものを」
「さ……殺人鬼め……! ここ、は……ッ!」
女が低く唸る。
恐怖をねじ伏せるように手背の血管を浮き上がらせ、残った魔力の全てを込めた槍先が、震えながらエドの背中を狙う。
(――あ?)
エドの眉がわずかに動く。
(もう身体が動くのか。回復が早すぎる)
指先で、血濡れた短剣をクルリと半回転させる。
剣技と呼ぶにはあまりに単純で、あまりに速すぎる一閃。
――ザシュッ。
世界が一瞬、止まった。
女騎士の動きが硬直する。
次の瞬間、力が抜けたみたいに、そのまま崩れた。
熱を持った石畳の上をゴロゴロと転がり、仲間の顔の前でピタリと止まる。
ドクドクと。
噴水のように溢れ出した鮮血が、まだ辛うじて息のある騎士たちの顔に熱い飛沫を浴びせた。
(クソッ、上位騎士クラスだと毒の回りが浅いか……なら)
短剣についた血糊をパッと振るい落とす。
エドは踵を返し、眼前の豪奢な彫刻扉へと疾走した。
(どこだ……どこに居やがる!)
心臓だけが、やけにうるさい。
それは恐怖によるものではない。
四年だ。
四年間――この瞬間だけを、待ち続けてきた。
扉を蹴破り、絢爛な廊下へとなだれ込む。
飢えた獣の目で、廊下の隅々まで睨め回す。
見つけなければならない。
毒の効果が切れる前に。
あの悪魔が、目を覚ます前に。
「――ルグナアアアアアッ!!!」|
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