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第一章
それぞれの高校生活
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昼休憩になっても、各自席に着いたまま黙々と昼食を進めていた。その机上には、弁当と参考書が広げられている。食事に費やす時間さえも惜しい……。隣の者に勝つためには、こうまでしなければ……。
しかし、真弓は、箸が止まったままだった。
思考の中にあるものは、模試の結果のことだけだった。
八月下旬に行われた模試……。返されるまでもなく、結果は見えている。ヘタな言い訳をして職業教師の逆鱗に触れるよりは、最初から無言を貫こうと決めていた。
進学校の生徒の宿命だ。偏差値を上げられない者は口を出すな!
この高校に特徴などない。ただ、有名国公立大学に進学させるだけの養成所なのだ。逆らう者、反抗的になる者ももちろんいる。
しかし、そんなことをしても、同調して味方になってくれる者など、ここにはいない。四面楚歌となり居場所がなくなるだけだ。ヘタをすれば、中途退学となり、人生を詰むことになる。ならば、必死にしがみついていくしかないのだ。
真弓は正にしがみつくのに必死だった。いつ振り落されるか分からない危機感を抱きながら……。
そして、なぜ今自分が受験勉強から脱落しかけているのか、その理由も承知していた。止められないのだ……V3を……。
*
如月ランはいたって普通の女子高生である。このあたりでは有名なマンモス女子校の二年生。また、ランはこの学校のレトロっぽい紺色のセーラー服の制服がお気に入りだった。
他校の友だちからはダサい、昔くさいなどと不平を言う者が多いが、ラン自身はノスタルジックなものに憧れ、興味もあったので十分満足していた。だから、アンティークを扱うショップに出掛けるのも好きで、休日はよくそういったショップで時間を潰すことが多かった。
ランの通う高校は、受け入れ窓口も広く、上には短大も、四大もあるので、高校受験に不安を持つ中学三年生の女子にとってみれば、取りあえず安牌のスベり止めの高校である。地元では天神様の願掛けも必要ないと言われている。そうかといって、それほど低いイメージの高校ではなかった。その理由は、マンモス校だけに、大学受験合格への実績数が近辺の高校に比べて圧倒的に多いことにあるだろう。
大学のランクなどというものは、実際には受験生本人以外は、あまり気にも掛けないものである。要するに、ランクに関係なく、どんな大学でもいい、合格者数が多ければ、近辺からは『いい高校』の烙印が押されるのである。
そのような中で、ランの学業成績はいたって普通だった。飛び出てできる教科はないものの、常に赤点をとるような教科もなかった。運動は好きでも嫌いでもなく、特別にやっているスポーツなどはない。部活動にも参加しておらず、授業が終わったら、そそくさと帰宅するのが彼女の日常。時には友人たちと寄り道もするが、基本的には家にいるのが一番落ち着く。
趣味は音楽鑑賞とTVドラマにはまること。これもいたって普通である。友達も多く、おしゃべりが大好き。毎日、スマホやパソコンでチャットに夢中になっている。おかげで学校外の友人もたくさんでき、外国人との会話も頻繁にある。SNSでの登録数が個人の価値を決めるかのように一生懸命に新たな知り合いを探すことに励む毎日。しかし、現代っ子らしく個人情報の漏洩には、それなりに気を付けている。
家族仲もとてもよい。レンガ模様の家壁と黒縁の窓枠が特徴的なヨーロッパ調の戸建の一軒家に両親と一人っ子の自分との三人で生活をしている。
父親は事務機器メーカーに勤務しているが、どのような仕事内容で、どのような役職に就いているかなどは、ランはまったく知らないし、まったく興味がなかった。たまの休日に一緒に出掛けられれば十分だった。母親は一応専業主婦だが、不定期で近所の馴染みのカフェでバイトをしている。将来は自分のカフェを作りたいというのが、母親の口癖だった。
ランは、高校卒業後は近場の適当な私大へ推薦をもらうつもりなので、落第点さえ取らなければ、がむしゃらに受験勉強に入り込む必要もない。もし他大への推薦がもらえなくても、目立った素行の悪ささえなければ、最悪自大への推薦は得ることができるはずだ。学部や学科に要望はない。合格さえさせてくれ、華の女子大生になれるのであれば、どこでも良かった。
休日は日曜日の午前中に駅前のファースト・フード店で三時間だけバイトして、その後はバイト仲間と目一杯おしゃれをして街中をブラブラする。
好きなアイドルの話題、TVドラマの評論など、お喋りの話題もいたって普通の女子高生のもの。現在の総理大臣の名前などを訊かれても、「誰だっけ?」で済んでしまう。
とりあえずは、平凡でも楽しい日常に満足している。
しかし、真弓は、箸が止まったままだった。
思考の中にあるものは、模試の結果のことだけだった。
八月下旬に行われた模試……。返されるまでもなく、結果は見えている。ヘタな言い訳をして職業教師の逆鱗に触れるよりは、最初から無言を貫こうと決めていた。
進学校の生徒の宿命だ。偏差値を上げられない者は口を出すな!
この高校に特徴などない。ただ、有名国公立大学に進学させるだけの養成所なのだ。逆らう者、反抗的になる者ももちろんいる。
しかし、そんなことをしても、同調して味方になってくれる者など、ここにはいない。四面楚歌となり居場所がなくなるだけだ。ヘタをすれば、中途退学となり、人生を詰むことになる。ならば、必死にしがみついていくしかないのだ。
真弓は正にしがみつくのに必死だった。いつ振り落されるか分からない危機感を抱きながら……。
そして、なぜ今自分が受験勉強から脱落しかけているのか、その理由も承知していた。止められないのだ……V3を……。
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如月ランはいたって普通の女子高生である。このあたりでは有名なマンモス女子校の二年生。また、ランはこの学校のレトロっぽい紺色のセーラー服の制服がお気に入りだった。
他校の友だちからはダサい、昔くさいなどと不平を言う者が多いが、ラン自身はノスタルジックなものに憧れ、興味もあったので十分満足していた。だから、アンティークを扱うショップに出掛けるのも好きで、休日はよくそういったショップで時間を潰すことが多かった。
ランの通う高校は、受け入れ窓口も広く、上には短大も、四大もあるので、高校受験に不安を持つ中学三年生の女子にとってみれば、取りあえず安牌のスベり止めの高校である。地元では天神様の願掛けも必要ないと言われている。そうかといって、それほど低いイメージの高校ではなかった。その理由は、マンモス校だけに、大学受験合格への実績数が近辺の高校に比べて圧倒的に多いことにあるだろう。
大学のランクなどというものは、実際には受験生本人以外は、あまり気にも掛けないものである。要するに、ランクに関係なく、どんな大学でもいい、合格者数が多ければ、近辺からは『いい高校』の烙印が押されるのである。
そのような中で、ランの学業成績はいたって普通だった。飛び出てできる教科はないものの、常に赤点をとるような教科もなかった。運動は好きでも嫌いでもなく、特別にやっているスポーツなどはない。部活動にも参加しておらず、授業が終わったら、そそくさと帰宅するのが彼女の日常。時には友人たちと寄り道もするが、基本的には家にいるのが一番落ち着く。
趣味は音楽鑑賞とTVドラマにはまること。これもいたって普通である。友達も多く、おしゃべりが大好き。毎日、スマホやパソコンでチャットに夢中になっている。おかげで学校外の友人もたくさんでき、外国人との会話も頻繁にある。SNSでの登録数が個人の価値を決めるかのように一生懸命に新たな知り合いを探すことに励む毎日。しかし、現代っ子らしく個人情報の漏洩には、それなりに気を付けている。
家族仲もとてもよい。レンガ模様の家壁と黒縁の窓枠が特徴的なヨーロッパ調の戸建の一軒家に両親と一人っ子の自分との三人で生活をしている。
父親は事務機器メーカーに勤務しているが、どのような仕事内容で、どのような役職に就いているかなどは、ランはまったく知らないし、まったく興味がなかった。たまの休日に一緒に出掛けられれば十分だった。母親は一応専業主婦だが、不定期で近所の馴染みのカフェでバイトをしている。将来は自分のカフェを作りたいというのが、母親の口癖だった。
ランは、高校卒業後は近場の適当な私大へ推薦をもらうつもりなので、落第点さえ取らなければ、がむしゃらに受験勉強に入り込む必要もない。もし他大への推薦がもらえなくても、目立った素行の悪ささえなければ、最悪自大への推薦は得ることができるはずだ。学部や学科に要望はない。合格さえさせてくれ、華の女子大生になれるのであれば、どこでも良かった。
休日は日曜日の午前中に駅前のファースト・フード店で三時間だけバイトして、その後はバイト仲間と目一杯おしゃれをして街中をブラブラする。
好きなアイドルの話題、TVドラマの評論など、お喋りの話題もいたって普通の女子高生のもの。現在の総理大臣の名前などを訊かれても、「誰だっけ?」で済んでしまう。
とりあえずは、平凡でも楽しい日常に満足している。
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