16 / 73
第二章
無
しおりを挟む
その霞はランの家を円の中心に……いや、ランを円の中心にしたように徐々にすべての方向から近づいて来る。ゆっくり、ゆっくりと……。その霞の向こうには何もない。そう、無なのだ。一体何が起こっているのか?
ランはワナワナと震えるしかなかった。今、自分が巨大なすり鉢の中心いる。霞んだ風景がその中心に向かって近付いてくるのだ。
さきほどの電話が思い出される。電話の主はこう言った。
『もうすぐすべて消えるから、しっかり休むのよ』
『いいから、しっかり休んでね』
佇むほかに何ができるのだ。ランはベランダで硬直した。恐怖で声も出ない。もっとも今のランには声が出たとしても聞こえないのだが……。
しばらくすると霞は家の目前までせまってきた。自分の家以外何も無い。無い、なにも無い!
暗闇さえもない。
無! 無! 無! 無! だ。
近づくほど、抉り取られる割合が小さくなっていく。今では物体が一つ一つジワジワと消えていく。電線が消え、電柱が消え、家の垣根が消え、門扉が消え……。
「えっ! どういうこと?」
ランは聞こえない声を発し続けた。驚愕……! そう、意識は恐怖を通り越した。
ベランダから部屋に戻った。逃げ出したいのだが、一体どこへ逃げればいいというのだ。
頭の中で『消える……消える……消える……消える……』という言葉が何度も反芻される。この世界に自分と部屋だけが取り残された。
しかし、その部屋も少しずつ消えていくではないか!
目の前の物が一つ一つ消えていくたびに、ランは怯え、身動きができなくなっていく。置物が消え、壁が消え、天井が消え、テレビが消え、学習机が消え、徐々に足場が消えていく。……そして、床も全て……消えた。
周りのものがすっかり消え、無に包まれた。体はまるで宙に浮いているようだった。しかし、だらりと崩れるわけでもない。どちらが上で、どちらが下なのかも分からない……。前後左右の区別もつかない。恐怖で叫びたいのだが、その声さえでない。ランは無の中を漂っているだけだった。もうすぐ自分も消えるのだろうか? さきほどの電話の主は『すべてが消えるから、休め』と言った。どういう意味なのだ。
ランは恐怖に怯えながら、体を宙に任せ目を閉じた。永遠の無の闇の中で……。徐々に恐怖さえも遠のいていくようだった。そして、目を閉じた。これが死なのか? 自分は死を迎えるのだろうか?
意識さえも消えようとしている。自分の体は存在しているのであろうか? 疑問が浮かんだん。両手を顔の前に……。両手はある。その両手で顔を撫ぜた。顔もある。少しホッとしてから、意識が……。
ランはワナワナと震えるしかなかった。今、自分が巨大なすり鉢の中心いる。霞んだ風景がその中心に向かって近付いてくるのだ。
さきほどの電話が思い出される。電話の主はこう言った。
『もうすぐすべて消えるから、しっかり休むのよ』
『いいから、しっかり休んでね』
佇むほかに何ができるのだ。ランはベランダで硬直した。恐怖で声も出ない。もっとも今のランには声が出たとしても聞こえないのだが……。
しばらくすると霞は家の目前までせまってきた。自分の家以外何も無い。無い、なにも無い!
暗闇さえもない。
無! 無! 無! 無! だ。
近づくほど、抉り取られる割合が小さくなっていく。今では物体が一つ一つジワジワと消えていく。電線が消え、電柱が消え、家の垣根が消え、門扉が消え……。
「えっ! どういうこと?」
ランは聞こえない声を発し続けた。驚愕……! そう、意識は恐怖を通り越した。
ベランダから部屋に戻った。逃げ出したいのだが、一体どこへ逃げればいいというのだ。
頭の中で『消える……消える……消える……消える……』という言葉が何度も反芻される。この世界に自分と部屋だけが取り残された。
しかし、その部屋も少しずつ消えていくではないか!
目の前の物が一つ一つ消えていくたびに、ランは怯え、身動きができなくなっていく。置物が消え、壁が消え、天井が消え、テレビが消え、学習机が消え、徐々に足場が消えていく。……そして、床も全て……消えた。
周りのものがすっかり消え、無に包まれた。体はまるで宙に浮いているようだった。しかし、だらりと崩れるわけでもない。どちらが上で、どちらが下なのかも分からない……。前後左右の区別もつかない。恐怖で叫びたいのだが、その声さえでない。ランは無の中を漂っているだけだった。もうすぐ自分も消えるのだろうか? さきほどの電話の主は『すべてが消えるから、休め』と言った。どういう意味なのだ。
ランは恐怖に怯えながら、体を宙に任せ目を閉じた。永遠の無の闇の中で……。徐々に恐怖さえも遠のいていくようだった。そして、目を閉じた。これが死なのか? 自分は死を迎えるのだろうか?
意識さえも消えようとしている。自分の体は存在しているのであろうか? 疑問が浮かんだん。両手を顔の前に……。両手はある。その両手で顔を撫ぜた。顔もある。少しホッとしてから、意識が……。
0
あなたにおすすめの小説
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
大賢者アリアナの大冒険~もふもふパラダイス~
akechi
ファンタジー
実の親に殺されそうになっていた赤子は竜族の長に助けられて、そのまま竜の里で育てられた。アリアナと名付けられたその可愛いらしい女の子は持ち前の好奇心旺盛さを発揮して、様々な種族と出会い、交流を深めていくお話です。
【転生皇女は冷酷な皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!】のスピンオフです👍️アレクシアの前世のお話です🙋
※コメディ寄りです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる