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楓
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大学への入学をきっかけに始めた一人暮らし。卒業後も、そのまま東京で就職したので、上京して、もう六年になる。2DKの間取りは快適そのもの。私は密かにここを『別荘』と呼んでいる。六年も独り暮らしをしていると、生きていく上での知恵や裏技も身に付き、いろいろな能力も培うことができた。
学生のころは、夏休み、冬休みなどになる毎に実家に戻ったものだが、今ではすっかり億劫になってしまい、よほどのことがない限り帰省することはない。
休日も『別荘』の中でゴロゴロと過ごすのが結構な幸せ。今日のような雨の強い日は、特に……。
こんな日は、朝からネットの掲示板に書き込みしたり、ブログを書いたりして過ごす。
『あさから(変換:朝から)あめ(変換:雨)。
きが(変換:気が)めいります(変換:滅入ります)。
きょうは(変換:今日は)ながい(変換:長い)ひとりぐらしで、(変換:独り暮らしで、)つちかった(変換:培った)わたしの(変換:私の)とくぎを(変換:特技を)おつたえしたいとおもいます。(変換:お伝えしたいと思います。)』
「ねえ、春奈!」
カツカツとキーボードを叩いていると、突然声が掛かった。
せっかくブログを書き始めたのに!
同居人(?)の楓がダイニング・キッチン(DK)のテーブルから声をかけてきた。
「また、ネット? 不健康ね」
「ブログ書いてんの」
「誰かが見るの?」
「別に誰かに見せるために書いてるんじゃないの。ブログなんて日記みたいなものだから」
「日記を外に向けて書く意識が私には分かんないわ」
「ほっといてよ。別に人様に迷惑を掛けているわけじゃないんだから」
「まあ、そうだけど。ねえ、そんなことより、出掛けようよ。せっかくの休日なんだから」
窓越しに外を見たら、先ほどよりも雨が強くなっている。
「イヤだよ。こんなに雨降ってるんだし、せっかくの休日だからこそ、家でゴロゴロしたいんだから」
楓はプッと頬を膨らませた。
私はブログの書き込みを中断して、DKに移動した。ビールを取り出すために冷蔵庫を開ける。
「楓も飲む?」
「ううん、私はいらない」
私もテーブルについた。楓の向かいに腰を下ろし、ビールの栓を開ける。心地いい音がした。ひと口飲み、リビング越しに改めて外を眺める。
「それにしてもよく降るわね」
「せっかくの休みなのにね」
「だからっ! 休みは家でゴロゴロがいいの」
「はい、はい」
楓はつまらなそうに頬杖をついた。
「もう何年になる?」
ムスッとしている楓に唐突に聞いてみた。
「何が?」
「あなたがウチに来てから」
「春奈が二十歳のときの十二月からだから、もうすぐ四年かな」
「そう。もう四年か」
楓は少し不安そうに上目遣いで私を見つめ返してきた。
「いつまで居るの?」
「えっ?」
わざとちょっと意地悪に聞いてみた。
楓はさらに不安そうに私を見つめ返し、子猫のようになっている。そんな仕草が可愛くてしょうがない。
「居ちゃダメ?」
「そんなことないよ。ずっと居ていいよ」
楓はニコッと愛らしい笑顔を向けた。
「でも、いつか春奈だって、彼氏ができて、結婚するってなったら、私居られないよね」
「そういう願望は、私にだってあるよ、女なんだから。でも、残念ながら、すぐにはなさそうだけどね」
二人で笑い合った。
「でも、もし仮に結婚できたとしても、いつ来てもいいよ」
「ほんと?」
楓は嬉しそうにはにかんだ。
*
私が六年間の独り暮らしで培った能力。
あれは、二十歳の師走。街はクリスマス一色で賑わっていた。
そのころの私は大学の勉強とアルバイトに明け暮れていた。地方出の私には特別仲のいい友達もいない、彼氏と呼べる相手もいない。なぜかここに戻ると寂しくて泣けてきた。そんなとき、楓は現れた。唐突に……。
「なぜ泣いているの?」
独り床で膝を抱えている私の横に同い年くらいの女の子が立っていた。
「あなた、誰?」
そのときは恐怖もなかった。突然、目の前に見知らぬ彼女が現れても……。
彼女は首を振った。
「わかんない」
「名前は?」
「わかんない」
そんなやり取りが続いて、あぁ、この子は私にとって必要な子なんだ、っていう感覚があった。
そのころ、部屋の窓から見える紅葉を眺めるのが好きだったから、彼女の名前を私が決めた。
「楓って名前はどう?」
彼女は愛くるしい笑顔で答えた。
「素敵」
それ以来、寂しくなるといつでもどこでも現れてくれる親友。
でも、最近では、楓の方が寂しそうにすることもある。
私の空想が創り上げた親友。
そう、楓は、エア・フレンド。
『わたしが(変換:私が)ろくねんかんの(変換:六年間の)ひとりぐらしで(変換:独り暮らしで)つちかった(変換:培った)のうりょくは、(変換:能力は、)さみしくなったら、(変換:寂しくなったら、)えあ・ふれんどが(変換:エア・フレンドが)あらわれること。(変換:現れること。)』
私が六年間の独り暮らしで培った能力は、寂しくなったら、エア・フレンドが現れること。
*
「うん。本当だよ。いつでもおいでよ。友達なんだから」
「ありがとう。春奈大好き!」
可愛い笑顔でそう言って、楓は消えた。
さて、『別荘』の掃除でもするか。
学生のころは、夏休み、冬休みなどになる毎に実家に戻ったものだが、今ではすっかり億劫になってしまい、よほどのことがない限り帰省することはない。
休日も『別荘』の中でゴロゴロと過ごすのが結構な幸せ。今日のような雨の強い日は、特に……。
こんな日は、朝からネットの掲示板に書き込みしたり、ブログを書いたりして過ごす。
『あさから(変換:朝から)あめ(変換:雨)。
きが(変換:気が)めいります(変換:滅入ります)。
きょうは(変換:今日は)ながい(変換:長い)ひとりぐらしで、(変換:独り暮らしで、)つちかった(変換:培った)わたしの(変換:私の)とくぎを(変換:特技を)おつたえしたいとおもいます。(変換:お伝えしたいと思います。)』
「ねえ、春奈!」
カツカツとキーボードを叩いていると、突然声が掛かった。
せっかくブログを書き始めたのに!
同居人(?)の楓がダイニング・キッチン(DK)のテーブルから声をかけてきた。
「また、ネット? 不健康ね」
「ブログ書いてんの」
「誰かが見るの?」
「別に誰かに見せるために書いてるんじゃないの。ブログなんて日記みたいなものだから」
「日記を外に向けて書く意識が私には分かんないわ」
「ほっといてよ。別に人様に迷惑を掛けているわけじゃないんだから」
「まあ、そうだけど。ねえ、そんなことより、出掛けようよ。せっかくの休日なんだから」
窓越しに外を見たら、先ほどよりも雨が強くなっている。
「イヤだよ。こんなに雨降ってるんだし、せっかくの休日だからこそ、家でゴロゴロしたいんだから」
楓はプッと頬を膨らませた。
私はブログの書き込みを中断して、DKに移動した。ビールを取り出すために冷蔵庫を開ける。
「楓も飲む?」
「ううん、私はいらない」
私もテーブルについた。楓の向かいに腰を下ろし、ビールの栓を開ける。心地いい音がした。ひと口飲み、リビング越しに改めて外を眺める。
「それにしてもよく降るわね」
「せっかくの休みなのにね」
「だからっ! 休みは家でゴロゴロがいいの」
「はい、はい」
楓はつまらなそうに頬杖をついた。
「もう何年になる?」
ムスッとしている楓に唐突に聞いてみた。
「何が?」
「あなたがウチに来てから」
「春奈が二十歳のときの十二月からだから、もうすぐ四年かな」
「そう。もう四年か」
楓は少し不安そうに上目遣いで私を見つめ返してきた。
「いつまで居るの?」
「えっ?」
わざとちょっと意地悪に聞いてみた。
楓はさらに不安そうに私を見つめ返し、子猫のようになっている。そんな仕草が可愛くてしょうがない。
「居ちゃダメ?」
「そんなことないよ。ずっと居ていいよ」
楓はニコッと愛らしい笑顔を向けた。
「でも、いつか春奈だって、彼氏ができて、結婚するってなったら、私居られないよね」
「そういう願望は、私にだってあるよ、女なんだから。でも、残念ながら、すぐにはなさそうだけどね」
二人で笑い合った。
「でも、もし仮に結婚できたとしても、いつ来てもいいよ」
「ほんと?」
楓は嬉しそうにはにかんだ。
*
私が六年間の独り暮らしで培った能力。
あれは、二十歳の師走。街はクリスマス一色で賑わっていた。
そのころの私は大学の勉強とアルバイトに明け暮れていた。地方出の私には特別仲のいい友達もいない、彼氏と呼べる相手もいない。なぜかここに戻ると寂しくて泣けてきた。そんなとき、楓は現れた。唐突に……。
「なぜ泣いているの?」
独り床で膝を抱えている私の横に同い年くらいの女の子が立っていた。
「あなた、誰?」
そのときは恐怖もなかった。突然、目の前に見知らぬ彼女が現れても……。
彼女は首を振った。
「わかんない」
「名前は?」
「わかんない」
そんなやり取りが続いて、あぁ、この子は私にとって必要な子なんだ、っていう感覚があった。
そのころ、部屋の窓から見える紅葉を眺めるのが好きだったから、彼女の名前を私が決めた。
「楓って名前はどう?」
彼女は愛くるしい笑顔で答えた。
「素敵」
それ以来、寂しくなるといつでもどこでも現れてくれる親友。
でも、最近では、楓の方が寂しそうにすることもある。
私の空想が創り上げた親友。
そう、楓は、エア・フレンド。
『わたしが(変換:私が)ろくねんかんの(変換:六年間の)ひとりぐらしで(変換:独り暮らしで)つちかった(変換:培った)のうりょくは、(変換:能力は、)さみしくなったら、(変換:寂しくなったら、)えあ・ふれんどが(変換:エア・フレンドが)あらわれること。(変換:現れること。)』
私が六年間の独り暮らしで培った能力は、寂しくなったら、エア・フレンドが現れること。
*
「うん。本当だよ。いつでもおいでよ。友達なんだから」
「ありがとう。春奈大好き!」
可愛い笑顔でそう言って、楓は消えた。
さて、『別荘』の掃除でもするか。
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