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5話 神の視点(後編)
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私は皆のいるリビングに戻った。ニースも一緒にと頼んでおいたので、これで洞口家が揃った事になる。まずは気付いた事から説明するとしよう。
「私は偶然皆さんの世界に行き偶然トモヒロ殿と出会ったと思っていましたが、それはどうやら違いました」
「世界への往復はこの道具を使用して実行したのですが......」
言いながら懐に手を入れ手のひらを上にして取り出す。家族の視線がそこに集中する。
「え、何もない......よね?」
「まさかの不可視の物体キタコレ」
「正直者には見えない道具とか?」
「あらあら、私には見えないわね。みんなには見えているの?」
「見えないのが正解なのです。何故ならこの道具はすでに力を失い消滅しています。これがあなた方が元の世界には帰れないという理由です」
私の前半の台詞で家族がツッコミを入れてきそうな空気になったが、後半の台詞で沈黙し真面目な雰囲気になる。
「そしてトモヒロ殿に出会ったのは偶然でも、そちらの世界に行ったのは偶然ではなかった。その理由が......」
私はある一点を見ながら確信となった言葉を口にする。
「そこにいるニースの存在です」
今度は家族の視線がニースに集中する。ニースは【ガシュウイイィン!】と、くしゃみをした。あの音くしゃみだったのか! そして家族の視線は私とニースを交互に行き来する。あ、これは聞かなくてもわかる。『何言ってんのお前?』的な表情だ。
「ただの犬のニースに」
マサカズ君が口を開いたが、それを遮って言う。
「正確には犬ではない。ニースは元々こちらの世界の存在なのだよ」
私は最初ニースを犬ではなく魔獣=魔物の一種と認識した。それはこちらの世界との繋がりを証明する事に他ならない。おかげで色々失態を演じる事になった訳で、思い出すのも恥ずかしい。あ、私がつい赤面したのを『また何か見当違いな事を考えた』と受け取られたのか、『何言ってんのお前?』的な表情が強くなった。いかん。ここは神の威厳を見せねばなるまい。そう、実力行使という方法で。
「見てもらう方が早いでしょう。汝、偽りの殻を破り、在るべき姿を示せ」
私がニースに手をかざし言葉を紡ぐとニースの体が光に包まれた。光は輝きを増し、ニースの体が変容していく。さすがにこの光景に家族も言葉を失ってただ見つめている。やがて光が収まり、そこには本来の姿となったニースが現れた。
「ほう、これは......」
姿自体はあまり変わっていないようにも思えるが、体格は中型犬から大型犬へと言えるサイズになっており、何より特徴的なのが......
「角だ! お兄ちゃん、ニースに角が生えてるよ! 体も大きくなって格好いい!」
カノンちゃんは言いながらニースに飛びついた。ニースの額には真っ白な一本の角が生えていた。
「あ、ああ......うわ、なんだこの毛並み! 触り心地もシルクなんて目じゃないよ、これ」
「え? ママも触らせて貰おうかしら」
「ニースはこの世界の魔物だったのか。にわかには信じがたいけど」
信じがたい、か。確かに私も同じ気持ちではある。私がやった事なのに、何を言うのかと思う方もいるかもしれない。しかし、
「私も最初はそう考えましたが、どうやら魔物ではないようです。おそらくは、聖獣、もしくは神獣。すでに伝承でしか語られない、この世界からは絶滅したとされている種です。伝承では確か、知能が高く協調性があり、種によっては神の乗り物を引いていたとも伝えられておりましたかな。神と言っても私とは無関係ですが、まさかこんな形で目にする事になるとは」
魔獣でこそなかったが、間違いない。この聖獣の気配に引っ張られ、私はあちらの世界に引き寄せられたのだ。しかしそうなると別の疑問もうまれる。が、その疑問はトモヒロ殿が口にした。
「ニースはどうやって俺達の世界に......? 正和達が拾ってきた時は子犬だったけど、今まで全然気付かなかった」
「それは僕も華音もだよ。予防接種の時の獣医さんですら疑ってなかったし、まさか異世界の聖獣を飼ってるなんて誰も思わないよ」
「あらあら、ただのおじいちゃんになっちゃった犬じゃなかったのねぇ」
「すごいよニース!」
「ガシュウイィィン!」
家族の話題になっている当のニースは我関せずとばかりにくしゃみをした。
「世界を移動した方法は分かりませんが、そちらの世界に適応し、生き延びようとした結果が犬に限りなく近付く事だったのかもしれません。自らの魔力を極力抑える術をしらねば、こちらの生物が魔素のないあちらの世界で生きることはかなり苛酷でしょう」
ん? 魔素のない? ......そうか、彼らに説明した事で自らの疑問も解けた。飛竜はそこまで弱い魔物ではない。だがこの面々の前では全く脅威になる存在ではなかった。なのに彼らは飛竜を脅威と捉えていた。ニースの気配が強くなったのは世界に漂う魔素に触れ、本来の力を呼び戻すための覚醒が行われたからだろう。
もしも。向こうの世界の住人が魔力を持たぬのではなく、実は魔力が常に空の状態で生活をしていただけだとすれば? この世界では魔力の枯渇は生死に関わる。それだけにそこまで自分に負荷をかけて鍛練する者などおらぬ。それを彼らは無自覚で行い続け、この世界の魔素の影響で本人達も知らぬ間に覚醒が促されたのだとしたら......
「ふ、ふふふ。面白い存在ではないか。停滞した世界に刺激を与えようというのだ。どうせならとことん規格外な方が見守る方も退屈せずに済むであろうな」
もし彼らが力の使い方を誤れば、世界を滅ぼす直接の原因になるかもしれぬ。だが、ほんの短い時間一緒に過ごしただけではあるが、私に不安はなかった。
一人が全てを背負ったのであれば重圧や誘惑も多く、滅ぼす側にまわる事もあったかもしれない。しかし、今ここにいるのは1人ではない。強い『絆』で結ばれた『家族』がいるのだ。そしてこの家族の武器は『力』ではなく『心』なのだ。今度こそ世界は良い方向に動き出す。これは予感ではない、確信だ。
「父さん、ニースが大きくなったから今までの小屋には入れなくなったね」
「そうだなぁ、また新しく作らないとな」
「華音も手伝う!」
「それよりもまずはホラグチ家の滅亡回避が先決なのでは?」
「「「そうだった!!」」」
私は真剣な表情で家族の視線を集め、満を持して宣言する。
「その危機を回避する為に私の力を皆さんに受け取っていただきます」
後から聞いた話だが、この台詞を口にした時の私は『遠足』? とやらを前に、楽しみで待ちきれない子供の様に『満面』の『笑顔』だったという。
「私は偶然皆さんの世界に行き偶然トモヒロ殿と出会ったと思っていましたが、それはどうやら違いました」
「世界への往復はこの道具を使用して実行したのですが......」
言いながら懐に手を入れ手のひらを上にして取り出す。家族の視線がそこに集中する。
「え、何もない......よね?」
「まさかの不可視の物体キタコレ」
「正直者には見えない道具とか?」
「あらあら、私には見えないわね。みんなには見えているの?」
「見えないのが正解なのです。何故ならこの道具はすでに力を失い消滅しています。これがあなた方が元の世界には帰れないという理由です」
私の前半の台詞で家族がツッコミを入れてきそうな空気になったが、後半の台詞で沈黙し真面目な雰囲気になる。
「そしてトモヒロ殿に出会ったのは偶然でも、そちらの世界に行ったのは偶然ではなかった。その理由が......」
私はある一点を見ながら確信となった言葉を口にする。
「そこにいるニースの存在です」
今度は家族の視線がニースに集中する。ニースは【ガシュウイイィン!】と、くしゃみをした。あの音くしゃみだったのか! そして家族の視線は私とニースを交互に行き来する。あ、これは聞かなくてもわかる。『何言ってんのお前?』的な表情だ。
「ただの犬のニースに」
マサカズ君が口を開いたが、それを遮って言う。
「正確には犬ではない。ニースは元々こちらの世界の存在なのだよ」
私は最初ニースを犬ではなく魔獣=魔物の一種と認識した。それはこちらの世界との繋がりを証明する事に他ならない。おかげで色々失態を演じる事になった訳で、思い出すのも恥ずかしい。あ、私がつい赤面したのを『また何か見当違いな事を考えた』と受け取られたのか、『何言ってんのお前?』的な表情が強くなった。いかん。ここは神の威厳を見せねばなるまい。そう、実力行使という方法で。
「見てもらう方が早いでしょう。汝、偽りの殻を破り、在るべき姿を示せ」
私がニースに手をかざし言葉を紡ぐとニースの体が光に包まれた。光は輝きを増し、ニースの体が変容していく。さすがにこの光景に家族も言葉を失ってただ見つめている。やがて光が収まり、そこには本来の姿となったニースが現れた。
「ほう、これは......」
姿自体はあまり変わっていないようにも思えるが、体格は中型犬から大型犬へと言えるサイズになっており、何より特徴的なのが......
「角だ! お兄ちゃん、ニースに角が生えてるよ! 体も大きくなって格好いい!」
カノンちゃんは言いながらニースに飛びついた。ニースの額には真っ白な一本の角が生えていた。
「あ、ああ......うわ、なんだこの毛並み! 触り心地もシルクなんて目じゃないよ、これ」
「え? ママも触らせて貰おうかしら」
「ニースはこの世界の魔物だったのか。にわかには信じがたいけど」
信じがたい、か。確かに私も同じ気持ちではある。私がやった事なのに、何を言うのかと思う方もいるかもしれない。しかし、
「私も最初はそう考えましたが、どうやら魔物ではないようです。おそらくは、聖獣、もしくは神獣。すでに伝承でしか語られない、この世界からは絶滅したとされている種です。伝承では確か、知能が高く協調性があり、種によっては神の乗り物を引いていたとも伝えられておりましたかな。神と言っても私とは無関係ですが、まさかこんな形で目にする事になるとは」
魔獣でこそなかったが、間違いない。この聖獣の気配に引っ張られ、私はあちらの世界に引き寄せられたのだ。しかしそうなると別の疑問もうまれる。が、その疑問はトモヒロ殿が口にした。
「ニースはどうやって俺達の世界に......? 正和達が拾ってきた時は子犬だったけど、今まで全然気付かなかった」
「それは僕も華音もだよ。予防接種の時の獣医さんですら疑ってなかったし、まさか異世界の聖獣を飼ってるなんて誰も思わないよ」
「あらあら、ただのおじいちゃんになっちゃった犬じゃなかったのねぇ」
「すごいよニース!」
「ガシュウイィィン!」
家族の話題になっている当のニースは我関せずとばかりにくしゃみをした。
「世界を移動した方法は分かりませんが、そちらの世界に適応し、生き延びようとした結果が犬に限りなく近付く事だったのかもしれません。自らの魔力を極力抑える術をしらねば、こちらの生物が魔素のないあちらの世界で生きることはかなり苛酷でしょう」
ん? 魔素のない? ......そうか、彼らに説明した事で自らの疑問も解けた。飛竜はそこまで弱い魔物ではない。だがこの面々の前では全く脅威になる存在ではなかった。なのに彼らは飛竜を脅威と捉えていた。ニースの気配が強くなったのは世界に漂う魔素に触れ、本来の力を呼び戻すための覚醒が行われたからだろう。
もしも。向こうの世界の住人が魔力を持たぬのではなく、実は魔力が常に空の状態で生活をしていただけだとすれば? この世界では魔力の枯渇は生死に関わる。それだけにそこまで自分に負荷をかけて鍛練する者などおらぬ。それを彼らは無自覚で行い続け、この世界の魔素の影響で本人達も知らぬ間に覚醒が促されたのだとしたら......
「ふ、ふふふ。面白い存在ではないか。停滞した世界に刺激を与えようというのだ。どうせならとことん規格外な方が見守る方も退屈せずに済むであろうな」
もし彼らが力の使い方を誤れば、世界を滅ぼす直接の原因になるかもしれぬ。だが、ほんの短い時間一緒に過ごしただけではあるが、私に不安はなかった。
一人が全てを背負ったのであれば重圧や誘惑も多く、滅ぼす側にまわる事もあったかもしれない。しかし、今ここにいるのは1人ではない。強い『絆』で結ばれた『家族』がいるのだ。そしてこの家族の武器は『力』ではなく『心』なのだ。今度こそ世界は良い方向に動き出す。これは予感ではない、確信だ。
「父さん、ニースが大きくなったから今までの小屋には入れなくなったね」
「そうだなぁ、また新しく作らないとな」
「華音も手伝う!」
「それよりもまずはホラグチ家の滅亡回避が先決なのでは?」
「「「そうだった!!」」」
私は真剣な表情で家族の視線を集め、満を持して宣言する。
「その危機を回避する為に私の力を皆さんに受け取っていただきます」
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