一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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33話 拠点の発展と各人の役割

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 都でリンとライミーネがエイメイに協力している頃、洞口家の方には新たに兎の獣人『ラビニアン』の親子が正和に救出されて開拓団メンバーに加わっていた。

 開拓団というのは洞口家を中心に集まった者達で、呼称がないと不便という事もあり取り敢えずつけた名前だ。拠点の事は開拓村という呼称になっている。今回ラビニアンの『サトオル』と、その息子『サオール』が加わった事で人口は十三人になり、さらに聖獣のニースとオーシンの馬がいる構成だ。 
 
 朋広が建設していた建物も完成した。入口を入ってすぐの一階正面には受付と奥に居住できる部分があり、ここはオワタとオーシン親子が担当し、住み込んでいる。右側には広いスペースで食堂があり、ここは幸依が家から通って担当する。左側から奥に向かっては住人用の個室が結構な数用意され、大半の住人はここに別れて住んでいた。二階部分は宿泊できる為の部屋が用意してあるが、現在は空き部屋だ。 
 
 メインストリートを挟んで反対側には朋広が手掛けた『完全木造大浴場』が建設され、朋広が管理していた。厚みのある板状の木材を組み合わせ、四角くて巨大な見映えのよい浴槽を完成させたのだ。入口には将来を見据えて受付があり、そこから左右に男女別で脱衣所へと続く。朋広は木材を曲げる力で丸い形の桶も作成した。

 大浴場の裏手には『ダラン工房』が開設し、ドワーフのダランはここが住居兼仕事場だ。これは亜人領土を探索していた正和の発見とダランの努力の賜物で、ドワーフがいたであろう集落跡から放棄されていた『設備』を正和が色々持ってきたのだ。持ち主のドワーフ達では不可能だったであろうが、正和のアイテムボックスなら重量、容量制限はないに等しい。 
 
 ダランも努力が実を結んだのか土魔法の応用で煉瓦のみではあるが、『接合』ができるようになっていた。この工房はダランが中心になって建設した建物なのである。さすがに朋広も本格的な鍛冶の知識と技術はないので建設時からダランに使いやすい点を考慮したのだ。なお彼自身は設備がある程度整ったため選択肢が増え色々忙しくなり、はやく他のドワーフが救出されてくる事を願っている。

 ラビニアンは戦闘向きな種族ではないが、敏捷性に優れ温厚な性格な者が多いらしく、父親のサトオルと息子のサオールは住人の中を走り回り、仲間内の情報伝達に一役買っていた。特技としてこの二人には、他の住人にない『絵心』がある事も大きかった。 
 
 このため正和から依頼された朋広は、薄い木板を大量に用意し、マジックと一緒に二人に持たせたのである。キエルやルミナと組ませると新しい服飾のデザインが目に見える形に。ダランと組ませると工具や装備品。朋広とだと建物や日用品の設計図。と、いう感じで仲間達からも重用され、うち解けるのも早かった。 

 畑の方もオワタ、オーシン、ヒラリエ達により順調で、サトオル達が持っていた作物も植えられた。持っていた作物の中に人参があり、華音が
 
「兎さんもお馬さんも人参大好きだもんねー、これはいいものだよ!」

 と喜んでいたが、正和が調べて実は兎も馬もそこまで人参が大好きな訳ではないと教えられた。ラビニアンの親子も別に普通です、と言っていたが、それも人参が幸依に調理されるまでの事。食堂で提供された数々の人参料理に皆舌鼓を打ち、その場で親子の好物にランクインした。デザート用に作ったキャロットケーキは主に女性陣のハートを鷲掴みにし、特にエルフのルミナとオワタが並んではしゃいでいたが、朋広の
 
「あれで意外な事に、オワタさんよりルミナさんの方がはるかに年上なんだよなぁ」

 と、ぽつりと発した一言を華音に聞かれ、パパはデリカシーが云々と説教される事となった。開拓村の運営そのものは順調な為、朋広の現地の住人の生活を知っておきたい要望も提案された。要望実現の為亜人メンバーを主体に村を任せ、亜人領で探索中の正和以外の家族とオーシンは、オーシンとオワタが開拓村に到着する前に寄った人間の集落『キエソナ村』に行商の一団として様子を見に行く事にした。家族の現地風の衣装はキエルとルミナ、オワタと幸依で製作。シロッコは村で待機し予想外の出来事に備える。 
 
 正和はシロッコの天上と地上を繋ぐ『門』を応用し、洞口家の三階にある門から天上へ出て、天上の門から地上の亜人領への移動ルートを確立させたおかげであまりに遠くまで行かなければ日帰りで探索する事も可能になっていた。亜人領の門はカモフラージュの為、結界で囲んだログハウスの中に設置してある。勿論ログハウスは朋広製で耐久強化仕様、周囲の結界はシロッコが張った念の入りようだ。出入口になる扉は蟻が入れないようやや小さめに設計されており、扉の前にだけは結界はない。しかし、結界に覆われた立て看板がある。
 
 これは正和が朋広に用意してもらい、サトオルに『蟻に追われてここを発見した亜人の同胞達よ、中に逃げ込め』と書いてもらっている。文字が読めない者の為に文章の下には蟻に襲われて家に逃げ込む亜人のイラスト入りだ。この看板が出来たのもサトオルがいてくれたからこそだった。 

 探索は正和のみが担当しているが、その正和は現在ひとつの疑念を抱いていた。これまで亜人が蟻に襲われる場面は見た事があるのだが、亜人の遺体はひとつも見た事がないのだ。巣に運ばれて食べられている、という話が亜人の中で定説になっているようだが、正和は今ではそれに対しても疑念を抱いている。 
 
 理由は致命傷を受けた亜人すら見たことがないからだ。そもそも本当に蟻が亜人を食料にするだけなら亜人の生死に拘る理由はない訳で、遺体を見ない理由にはならない。まさかグルメな蟻だから、なんて事はさすがにないだろう。ヒラリエから蟻が亜人ではない魔物を食べていた場面を一度見た事があるという話を聞いた。おかげで気付かれずにその場を離れる事ができたとも。

 正和は遭遇した蟻を結構な数撃退はしているが、絶命させた蟻はまだいない。それは命を奪う気になれないだけで、こういった世界と無縁だった自分の覚悟のなさの表れか、自分の命がおびやかされる心配を感じない事による驕りからくるものなのかの区別はついていない。ただ、蟻にはまだ何か謎があるのではないか。正和は漠然とそう考えていた。
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