一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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34話 それぞれの流れの中で

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 ある日の休日、リンが自宅で過ごしていると、伝令がきて呼び出しを受けた。

「キドウ団長が私に用? ......わかった、団長室でいいのだな?」

 キドウが公務中に何か用事ができて自分に伝令が走らされたとリンは考え、居場所の確認をした。

「いえ、団長室ではなくキドウ様のお屋敷です」
「何? 団長室ではなく屋敷......?」
「はい、なるべくはやく来てもらうようにと」

 リンは面倒事な予感がしてしばし考える。とは言え、一度了承したものをすぐさま翻す訳にもいかない。 

「ふむ......ならばすぐに向かうかわりにひとつ私の用事を頼まれてはくれないか?」
「え? 私が指南役様の用事を......ですか?」
「何、難しい事ではない。本来ならこれから私がするはずだった事なのだ」

 
~ある一室~

 コンコン。部屋のドアがノックされる。

「鍵は開いてるわよ、どうぞー」
「失礼します」

 見た事のない男が入ってきた。

「えーと...... どちら様だったかしら」
「私はキドウ様にお仕えしている者ですが、今回は指南役様の使いで参りました。この時間なら魔導教官様は自宅か、城の部屋にいるだろうと」
「キドウ殿の部下のあなたが......リンちゃんの?」
「はい。伝言と預かり物がございます」
「何かしら」

 使いの男はライミーネの机の上に空の花瓶を置いて言った。

「約束していながら申し訳ありません、本日伺うとしながらも急用ができ行けなくなりました。かわりの者に約束の品を届けさせます。との事でこれを預かり持ってまいりました」

 ライミーネは空の花瓶を見ながら考える。会う約束をした覚えもなければこんな花瓶を欲しがった覚えもない。リンは一体何のつもりでこんな事を? と。

「約束の品はそれで良いのですよね? なにか......」

 ライミーネの返事がないので使いの男は不安げにきいてくる。

「あー! 大丈夫これで間違いないわ。ちょっと見入っちゃって。いいわよねぇ、この花瓶」

 とりあえずライミーネは話をあわせた。

「そうですか。私めには花瓶の良し悪しは判りかねますが、ちゃんとお渡しできて良かったです」
「ええ、ありがとう。それで来れなくなったリンちゃんは今何を?」
「キドウ様に呼ばれまして今頃はお屋敷ではないかと」
「! そう。 彼女に会ったら私が喜んでいたと伝えてくれる?」
「はい、確かに承りました」

 男は部屋を出ていった。男が遠ざかる気配を確認してライミーネは机を両手でバンと叩いた。花瓶がグラグラと揺れて、平積みにしていた書物の山がバサバサと崩れる。

「私だって花瓶の良し悪しなんかわからないわよ!」

 だがリンの目的はわかった。リンはキドウに呼び出されて屋敷に向かうはめになった事を伝えてきたのだ。あの内容ならキドウの使者も自分が利用されているとは気付かない。呼び出しに応じなかったり、時間をかけられる方が使者にとって都合が悪かったはずだ。そうなる位なら、お使いが一件増えたところでどうという事はないと考える心理が働く。その心理を利用し、ライミーネに状況を伝えさせたリンの頭脳プレーと言った所か。

「とは言っても......この状況で私に出来る事は何もないわ。リンちゃん短気だけは起こしちゃだめだからねー」

 ライミーネは花などどこにも飾っていない部屋を見渡し、また花瓶に視線を移してため息をついた。


~亜人領~

 探索中の正和は困惑していた。気付けば蟻に囲まれている状況になっていたのである。ペンダントの反応を追っていたらこの状況になっていた。 
 
 いままでの蟻はどちらかと言えば力押しのイメージが強い。亜人に対して圧倒的優位なのだから発見してすぐ強襲しても問題はないだろう。 
 
 逃がさない為に周囲を囲んだ事はあるかもしれないが、それは結果的に囲んだ形になっただけの可能性が高く、連携による包囲ではないと正和は推測していた。 

「けど、今回の蟻の動きはまるで最初から......」

 今までとの大きな違いは連携した動きと攻撃してこずに様子を伺っている事。当然、正和が蟻に仲間として認識されたから攻撃されないのではなく、蟻達は一定の距離から近付かずにギチギチと大顎を鳴らしてこちらを警戒している。

「そうか、蟻は『僕』を『僕』と認識して情報を共有したんだな」

 要は蟻のコミュニティの中で正和が、個として要注意人物と認識されたという事だ。だが、それだと不自然な点がひとつ。そんな存在と遭遇したら、自然界の生き物なら隠れるか逃げる事を選択する。

「それをせず、僕を包囲して様子をみているという事は......」

 正和は嫌な予感がした。そしてそれは的中する。蟻のすぐ近くの地面が盛り上がり、地中から新たな蟻が姿を現わした。

「増援! 蟻はこれを待っていた? それとも……え?」

 出現した蟻は三匹。

「全身赤い蟻......レッドアント? ファイヤーアント?」

 さらにその姿も大型、中型、小型と三者三様だった。三匹とも正和を見据え、黒蟻と同じ様に大顎をギチギチと鳴らしている。

「うう......ゲームでいうなら黒蟻の上位種ってところかなぁ。まだこんな存在がいるって知ったら、キエルさん達ショック受けちゃうんじゃ......」

 正和は自分が逃げる事になる可能性を考えながらも新種の蟻と対峙する。 


~キエソナ村近くの街道~ 

 朋広達はオーシンが開拓村に来る直前の、道がなくなり馬車を放置した辺りに来ていた。今では開拓村の方から幅は狭いとは言え一本の道が出来ている。これはオーシンが馬に乗って家族に同行する事になった為、前を行く三人が強引に馬が進める場所を切り開きながら進んで来た結果だ。

「よし、ここからは行商人を装って進むぞ」

 朋広はアイテムボックスから荷台を出し馬に繋ぐ。オーシンが荷台から馬を操るために乗り込み、空いたスペースには薪の束、桶と洗濯板をだす。一応商品の一部だ。何も積んでいないのでは行商人として説得力がないので、それの対策という訳でもある。全員が荷台に乗ると馬が大変なので、スーパー家族は徒歩で進む。

「大丈夫かなー。楽しみでドキドキもするけど心配だよねー」
「それはママもおんなじよ。商人なんて未経験だもの。どんな人達がいるかもわからないし」
「幸依殿も華音殿もその格好似合っておりますよ。ちなみに私も商人をやるのは初めてです」
「最初はあくまで世間離れしている自分達の認識のズレを修正するための視察が目的だから。無理に商売をする必要はないからな?」

 オーシンが同行しているため、朋広は異世界人とは言わずに説明する。設定上は大賢者の所で生活している世間知らずな家族なのだ。

「着くまでにはまだかかるだろうから、それまでに色々復習しておこう」
「いざとなればお兄ちゃんが書いてくれた『これさえあれば大丈夫! 正和の攻略本だよ』もあるしね!」
「あらあら。ママには『正和流、旅行先でトラブルにあわない為のガイドブック、護身完成!』を書いてくれたわよ?」
「パパには『正和監修! 見知らぬ土地での交渉術、これで貴方もネゴシエーター』ってのを書いてくれたけどな......」

 三人は正和から渡された四角い木箱を取り出す。中には薄い木板がたくさん収められていて、一面は枠のみで中が見える仕掛けになっている。一番上の木板には三人が言った題名が書いてあり、一番上の木板を抜いて一番下に差し込むと二枚目の文章とイラストが書いてある木板が一番上に出てくる仕様だ。本がつくれないので正和が紙芝居を元に考えた即席の本もどきだった。

「正和にこれを作らされた時は何になるのかわからなかったけど、改めて見ると上手く考えたよなぁ」
「イラストまであって本格的だよね。このウサギさんのキャラとか可愛いよー。『フッ』とか言いそうで」
「おお、サオール殿とサトオル殿が正和殿に頼まれて書いていた絵はそれらですな。正和殿も一緒になって食堂で遅くまで作業していましたよ」
「あらあら、あの子もマメねぇ。凝り性なのかしら?」

 朋広達はここに居ない正和の発明品の話題で盛り上がった。


~開拓村~

 家族が出払っているので村はいつもより静かで、ダラン工房から時折カーン、カーンと鍛冶の音らしきものが響いている。オワタは受付で薬の調合をし、それをサオールが木板に過程を書き込んで記録している。ヒラリエは畑で作物に水をやりつつ、時折飛んでくる蝶々? にちょっかいを出していた。ニースは自由気ままに村の中を歩き回っている。ニースなりに村の巡回をしているようだ。

「あの方達が居ないと村が静かに感じますね。別に普段がうるさいと言っている訳ではなく」
「ふふ、本当にね。こんなにのんびりした気分になったのは何十年振りかしら」

 キエルとルミナは作業をやりつつ村の感想を話し合う。サトオルは正和に地図の概念を教わった為、それを形にするべくあちこち奔走している。皆がこの村を気に入っているのは確かだった。 

「やはり世界全体での言語統一は魔力の消費が多かったのぅ。亜人領への空間転移設定とあわせて、儂の余剰魔力を集めておいた魔力宝珠がひとつ完全に空になってしもうた」

 シロッコは自分の部屋で今までの経過を確認していた。

「彼等は少なからず世界に関与し、儂も力を貸した。それによりすでに影響が出始めている場所もあるはずじゃ。この村は良い影響の形。他の場所でも多少の混乱が起き、それに乗じる者が出てくる事もあろうが......」

 シロッコは左手に持った物をチラリと見てニヤリと笑う。

「負担も増えたし苦労も増えた。それは今後もまだまだ増えるであろうよ。じゃがそれでも儂は......それでも儂は毎日が楽しくて仕方がないわい!」

 シロッコは左手に正和が置いていった感謝と労いとお願いが書いてある木板を持っていた。そして右手で、同じく正和が差し入れとして置いていった器の中のキャンディをひとつつまんで口の中に放り込んだ。

「これはリンゴ味じゃな。うほほ」
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