一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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35話 リン、剣難を悟り流星北西に消え行く

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「近衛騎士団武芸指南役、リン参りました」

 リンはキドウの屋敷に到着し、屋敷の者に案内された部屋の中に入る。

(誰もいない?)

 リンは部屋を見渡すがやはり誰もいない。が、リンの視線は部屋の一点で釘付けになった。リンは近付いて確認する。

「まさか......これは......」
「リン殿お待たせいたしました。おお、さすがリン殿。それの価値がお分かりになるとみえますな」

 部屋に入ってきたのはキドウではなく、息子のキトウだった。

「これはキトウ様。すみません、ついすばらしいものを見て思わず近付いてしまいました」
「いえいえおかまいなく。よろしければ抜いてみてはいかがですか?」
「本当ですか!? それは有難いお言葉です。では失礼して......やはりこれはダマスカスの剣!」
(間違いない......これはオーシン先生が持っていたものだ)

 リンは槍棒師範時代にオーシンに見せてもらった事があるので知っていた。さも大切そうにしながら、自慢気に子供のような顔をして語っていたオーシンの顔を思い出す。

「そうですそうです! 製作者不明とされながら鉄をはるかに上回る硬度をもつとされる名剣です」
「このような剣を一体どこで......」

 これは嘘だ。リンは知っている。ライミーネから聞いたオーシン逃亡のいきさつに絡んでいたからだ。キトウがそれを知っているかまではリンには分からなかったが、答えは別の場所から返ってきた。

「都の南に位置する街で入手したものだ」

 部屋の入口にこの屋敷の主、キドウが立っていた。リンは剣を抜いて立っている格好から慌てて膝をつく。

「す、すみません。この様な物騒な格好を」
「良い。いきなり呼びつけたのはこちらだ」

 キドウは部屋の椅子に座り、キトウもその横へ移動する。 

「隠す必要もないから言うが、その剣は国を逃亡したオーシンが手放した物の可能性が高い。その街で老母を連れた男が、船に乗る路銀が必要なので高く買い取って欲しいと店に持ち込んで来たという目撃証言もある」
「では、オーシン......は船で国外へ逃亡したと言う事でしょうか?」
「可能性は高いだろう」

 リンはその答えを聞いて安心した。なぜならライミーネから聞いていた話の中にこれに結びつく内容があったからだ。オーシンは南から海路で国外へ逃亡などしていない。真逆の北から陸路で亜人領へ向かったのだから。 
 
 リンはこれはキドウを欺くためライミーネがオーシンから剣を譲り受け仕掛けた計略のひとつだと悟った。なのでさらにキドウにそう思い込ませてオーシンの為に時間を稼ぐ行動をとることにした。

「なるほど。では私にオーシンを捕らえさせる為にここへ呼ばれた訳ですね?」
「いや、そうではない。確かにこの手で直接罰を与えられないのは不満ではあるが、いつまでもそんな雑魚に構っている程こちらも暇ではないのでな」

 リンはキドウの予想外の反応に少し驚きながらも(何が罰だ。罪は元々貴様にあり、先生は貴様の逆恨みで八つ当たりの対象にされただけではないか、雑魚は貴様だ)と心の中で毒づく。

「貴殿はもっと上の立場に出世したくはないか?」
「......それはどういう意味でしょうか?」
「儂は近衛騎士団団長の座で終わる男ではない。遠からずもっと上の地位に昇るだろう」

 隣では息子のキトウがうんうんと頷いている。リンは話がきな臭くなってきたと感じた。

「儂が出世した際、この近衛団長の座を貴殿に任せたいと考えている。だが、その為には貴殿にも協力してもらわねばならぬ」
「......私に何をやれと?」
「ふふふ......やるのは貴殿ではなくオーシンだ。貴殿はただ忠誠を見せてくれれば良い」
「......私ごときの頭では、仰られている意味が理解できかねます」
「何、その『オーシンの剣』である人物を斬ってくれれば良いのだよ」
「!!」
「逃げたオーシンがまだ都に潜伏していた......もしくは舞い戻り、復讐と称して行った凶行という訳だ」
「流石父上です。逃げだしたクズにも役に立ってもらおうというお考え!」

 オーシンを目の前で貶められ、どっちがクズか! と反射的に叫びそうになったリンはぐっと堪える。

「その者には即死してもらわねば困るし、殺った側が捕まるような事態も当然困る」
「リン殿なら全ての問題をクリアできるのです。 リン殿も我等に身も心も差し出して忠誠を示し、共に栄華を極めようではありませんか」

 キトウは舐め回すようにリンの全身を見る。リンは怒りと気持ち悪さで限界に達しつつあったが、ライミーネの為に出来る事を考え、情報を引き出す言動を優先させる事ができた。

「......私が引き受けたとして、誰を斬らせるおつもりですか?」
「おお、さすがリン殿は話がわかりますな。消えてもらいたい相手」
「黙れキトウ。リンよ、それは引き受ける答えにはなっておらん。教えるのは引き受けてからだ」

(引っ掛からなかった。......キトウの色ボケのバカとは違い、キドウは王国でのしあがってきた男だ。 おそらくすでに非情な手段も己の栄華の為に選択してきていて、危険に対する慎重さは持っているのだろう。これ以上の情報は引き出せない......か)
 リンはそう結論づけ、次に自分の身の振り方を考える。

「......します」
「うん? よく聞こえなかったが今なんと?」
「お断りします! と申し上げました」

 考えるまでもなくリンは威勢よく立ち上がった。

「我が身、我が心はすでに国に捧げております。悪臣の片棒を担ぐなど我が心が許しませぬ」
「リ、リン殿!? ち、父上!」
「ふん、そんな心など犬にでもくわせておけば良かったものを......残念だ。出て参れ!」

 キドウの合図であちこちから武装した兵士が入ってきてリンを取り囲む。

「その者は剣を持って我が部屋に押し入り、我等親子の命を狙った狼藉者だ。捕らえよ」
「くっ、キドウ!」
「土産にその剣はくれてやる。陛下の兵を斬れるなら好きなだけ試すがいい」
「おのれ卑劣な物言いを!」
「それとな? 貴殿の言う我が身は、『指南役』であっても『罪人』であっても、儂と息子からすれば違いはないぞ」

 キドウは笑いながら部屋から出ていき、キトウもそれに続く。リンは絶体絶命の危機に追い込まれた。キドウは予想以上に悪党だったのだ。陛下の兵を斬れるはずもなく、罪人とされ捕まり、さらにあんな親子に身体を好きにされるぐらいなら......

 リンはオーシンや、ライミーネ、出会ったばかりのエイメイの顔を思い浮かべ、最悪自決する覚悟を決めた。そして自分に引導を渡す事になるであろう、手に持つダマスカスの剣を見る。

「なるほど......剣難とは因果な。いや、オーシン先生の剣ならむしろ本望。か」

 ......その夜、たくさんの王都の住人がまばゆい輝きを放ちながら北西に消えて行く一筋の流れ星を見た。
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