一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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37話 現地視察組、予備知識を得て大いに士気を上げる

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 朋広、幸依、華音、オーシンはキエソナ村の入口にいた。 村の周囲には申し訳程度の木の柵が設置してある。

「うー。 臭いがー」
「あらあら、確かにこれは気になる......。 かも」
「オーシンさんよく平気でしたね、これ」
「いや......。 私もこれは気になります。 以前は衛生的な生活を徹底してなかった為に気付かなかったのでしょうが、今となっては」

 オーシンは恥ずかしがっている。

「お兄ちゃんの攻略本によると、村から糞尿の臭いがする場合は道にトイレの中身がすてられている可能性があるので、用意している外套を羽織りましょう。 だって」
「外套と臭いは関係なくないか?」
「まだ続きがあるよ。 女性はハイヒールがあるなら、足を汚さないようにそれに履き替えておきましょう」
「まぁ、これはそのために用意させられたのね」

 華音と幸依はハイヒールを取り出し履き替える。

「なぁ、外套と臭いは......」
「んー。 あ、あった。 しつこく外套と臭いの関係について聞く人がいた場合はこう言ってあげましょう。 関係ありません。 外套は建物の二階などから投げすてられる排泄物が飛んでくる場合があるので、それに備えるものです。 出典、ヨーロッパ中世時代参照。 だって」

 読んだ華音がファンタジーな服装へのイメージが壊れると騒ぐ。 幸依もハイヒールの起源が糞尿避けと知って驚いていた。

「おいおい。 さすがにしつこく聞く人はーっていうのは華音のアドリブだろ? パパ傷ついちゃうなー」

 朋広は華音の攻略本を覗き込む。

「......本当に書いてある」
「あらあら、正和もすごいわね。 パパの性格をよくわかってるわ、うふふ」
「疑うなんてひどいよー。 華音が傷ついたー」
「さすが賢者殿ですね。 ではあの道の真ん中にいる家畜の事についても書いてあるのですか?」

 オーシンが村の道を我が物顔で歩き回っている家畜を指差す。

「あれは豚さんだね? えっとねー、あー、豚さんは道にすてられる糞尿やゴミを食べて掃除するんだって。 日中は放し飼いになってる可能性あり」
「......すごいな。 あいつ一人でここに来たことあるんじゃないのか?」
「んー、でもお兄ちゃんが知りたい事コーナーっていうのには、村の外壁はどんな感じか、材質は何か。 同じく、家の感じと材質。 家畜がいたら種類と肥え具合。 村人の割合、子供は遊び回っているのか仕事を手伝っているのか、とか色々書いてあるから来た事ないと思う」
「それらがわかると何がわかるんでしょう? 私にはさっぱりわからないのですが」

 オーシンが言うと他のメンバーも同意した。 

「正和の考えは既に家族の理解の外にあるからなぁ。 後で説明してもらえば納得する事なんだろうけど」
「そうねぇ。 華音、せっかくだからわかった事はメモしておいてあげるといいんじゃないかしら?」
「りょうかーい。 外壁は木で柵そのもの。 と」
 
 華音が攻略本に書き込みを加えた。

「オーシンさん。 貨幣の確認なんですが、種類は銅貨、銀貨、金貨の三種類で、銅貨四枚で銀貨一枚、銀貨四十枚で金貨一枚でいいんですね?」
「ええ。 私も商人ではないので自信はありませんが、交換の相場はそれくらいだったはずです」
「変動してると計算が面倒になりそうですけど、まぁなんとかなりますかね」
「あれだけの生活をされている皆様方が、お金の種類を知らないどころか、お金を見た事すらないと知った時は愕然としましたよ」

 オーシンはその時の事を思い出す。

「まぁ......。 お金を使う事がない生活でしたので。 あはは......」

 朋広はそういう設定でオーシンに説明していた。

「確かにあの場所ならそうでしょうなぁ。 しかしそれなのに皆様なぜか算術はかなり高度のものまで修められているという」
「だ、大賢者が身内に居ましたので全員教わっていたんですよ?」
「やはり算術を修めると色々便利でしょうか? 私は初歩的なもの位しかできませんので」
「うーん、生活に支障が出なければ問題はないと思いますけどね」

 朋広は当たり障りのない答えを返しておいた。

「でもパパ? 計算できるのはいいけど、この薪とか洗濯道具セットとかいくらで売るの?」
「あら、そう言えばそうよねぇ。 まだ商売した事ないんだから、適正価格なんてわからないわよね?」
「確かに。 もし変な値段で売買しようものなら、我々が商人でない事がばれてかえって面倒な事になりますぞ」
「あ、確かに」
「ちょっとパパ。 ここまで来たのに!?」
「ま、まてまて! 正和のくれた本もどきにきっと何か書いてあるから。 えーと」

 朋広は慌てて、『正和監修! 見知らぬ土地での交渉術、これで貴方もネゴシエーター』を読み始める。

「さすがにそんな事まで書いてないんじゃないのー?」
「ママもそう思うわ」
「正和殿もさすがに相場はご存知ないでしょうからね。 困りましたな」
「......なるほど!」
「え? パパあったの?」
「いや、あいつ本当にすごいな。 感心した」
「あなた、いくらって書いてあったの?」
「それは書いてないんだよ」
「「「え?」」」

 朋広以外が怪訝な顔をする。

「慌てない。 書いてある内容聞いたら驚くから。 これによると、『価値のわからない道具を売る場合は相手に決めさせるのも方法である。 具体的にはいかに苦労して製作、または収集したかを添えて話し、相手が欲しがる道具に払える値段をつけさせて譲る』だそうだ。 『お金のない相手がこちらの欲しい道具などを持っていた場合、話し合いで交換するのもあり』とも書いてある」

 朋広はドヤ顔で見つけた内容を読み上げた。

「「「......はー!」」」

 少し間をあけて三人が感嘆の声をもらす。

「すごいねお兄ちゃん」
「値段をつける事に意識が向いていてそこには気付けないわねー」
「ここにいないのにこちらの困る事を予想しているとは......。 王国で言えば宰相の器以上ですぞ!」
「おかげで無事にやり遂げられる気になってきたよ。 よーしパパ頑張っちゃうぞー!」

 こうして士気を上げた一行は、記念すべき村への一歩を踏み出したのだった。 なおその際朋広が、

「これは個人的には小さな一歩だが、一家にとっては大きな飛躍である」

 と格好をつけたが、誰にも元にしたネタを理解してもらえなかった。
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