一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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50話 朋広、薬を入手するも効果なく アズマド、飛竜と遭遇し絶望する

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 朋広と華音はキエソナ村で雑貨商のアズマドに会っていた。 シロッコの思い出した情報のアイテムに心当たりがないか聴くのが目的だったからだ。 だが事情を知らない人族のアズマドに、神がつくりだしたとか神族が云々とか不審を抱かせるような説明をするわけにもいかず、強力な回復薬か万能薬、気付け薬がないかと尋ねる形になってしまったのは仕方のないところだろう。 

「なるほど、薬が御入り用ですか」
「そうなんです。 何かお持ちだったりしないでしょうか?」
「この雑貨屋アズマド、もちろん薬も各種取り揃えておりますとも」

(以前一緒にいた奥さんと護衛の方の姿が見えない。 病に倒れたかモンスターに襲われて怪我でもされたか.....。 どちらにしろ放ってはおけない)

 朋広達が稼いでいた現地のお金はアズマドが用意してくれた薬の代金に全然足りないものであったが、アズマドは差額はいらないと商人らしからぬ申し出をしてくれた。 だが朋広はこの感動的な話を断ったのである。

「ありがたいお話ですが、それでは他の人に商人としてのアズマドさんの立場が曖昧になります。 お金は必ず用意してお渡しします」
「.....なるほど。 善意のつもりでしたが、こちらの立場の事まで考えていただいたのですか」

(思わず感心してしまったが、中々の交渉術を身に付けているとみえる。 同じ商人同士として立場は対等にありたいというのだな)

 それならばとアズマドは気になっていた事を提案してみる事にした。

「ではよろしければ、代金は勉強させて頂きますので、そちらの娘さんがお持ちになっていた道具を譲っていただけたりはしませんでしょうか?」
「え? 華音の?」
「ええ、以前一緒にお店を並べていた時にインクも使わずに木の板に書き込んでいた道具をお持ちだったでしょう? 実は私はあれが非常に気になっておりまして」
「マジックの事かなー。 これですか?」

 華音は朋広が無言で頷いたのを確認してマジックをそれとなく取り出す。

「おお、これですこれです! マジックというのですか? 試させていただいても?」

 朋広は了承するついでに木板を一枚渡して使い方を説明した。

「おお! すごい! こんなに簡単に、いくらでも書ける!」
「いつかは書けなくなりますので、そうなったら使用できなくなりますから。 使用した後は必ずその蓋、キャップと言いますが、それを閉めてくださいね」

 感動しているアズマドに朋広が説明を加える。 結局、家にある新品のマジック数本と木板をセットで渡す事で大幅値引きの取引となった。 残りの代金を用意するなら建材を砦で買い取って貰うのが早いだろうとアズマドに助言を受け、朋広と華音は一旦家に戻る事にする。 アズマドも砦へ向かうとし、その間は村で待っていてくれるという。

「パパ、マジックをこっちの世界の人に渡しちゃって大丈夫なの? 洗濯板でも大変だって言ってたのに」

 二人が村を出て家路を高速で走りながら会話を交わす。

「洗濯板は作れちゃうからな。 マジックはパパ達の世界なら安く買える日用品だけど、こっちじゃ再現できない技術や材質があるから平気って判断したんだよ」
「華音知ってるよ! 前パパが言ってたオー......なんとかってやつだね!」
「オーバーテクノロジーな」
「そうそう、そのオーバー......なんとか」
「言えてないし。 まぁ、正和のくれた本もどきにオーバーテクノロジーな品は交渉材料に使うのも手って書いてあった。 なるべく他人に借りをつくるなってのもあったからな。 弱味を握られた部分からこちらの秘密がばれる可能性があるからだそうだ」
「なーんだ。 でもこれでお兄ちゃん目を覚ますといいねー」
「そうだなー」
 
 アズマドから入手した薬は残念ながら正和に効果はなく、アズマドにそれを報告すると、砦の責任者が王都出身なので、商売ついでにそう言った話を知らないかきいてみる方向で話がまとまった。

「それにしても随分はやかったですね? てっきり数日はかかるものと思っていたのですが、まさか翌日に来られるとは......」
「ははは...... 馬に凄く頑張ってもらいましたから」

 朋広は苦しい言い訳をする。 アズマドは朋広と華音の驚異的身体能力を知らない。

(家は思った程この村から離れていないのだろうか......?)

 アズマドはそれとなく荷台がついている朋広の馬をみる。

(馬のこの息の乱れ方は、疲れによるものなのか? どちらかと言えば全身の震えといい、怯えているように感じるのだが...... その建材の量を一頭でこの短時間で...... ???)

 まさか荷台に馬が積まれて人の方がそれを持ち上げ、高速で運んで短時間でここまで来た。 馬は荷台から落ちないように必死になってその恐怖に耐えていたのだろう。 ......などと考えられる訳がないのでアズマドの思考は迷宮入りになった。 その後、朋広から数本のマジックとたくさんの木板を渡されたアズマドはご機嫌になり、彼の馬車が前、後に朋広達の馬車という並びで砦へ向かう隊列を組んだ。

 砦までの道のりは問題も起きずに順調そのものだった。 これはオーシンがいないので御者として馬を操れる者がいないにも関わらず、馬が自発的に動いてくれたお陰である。 馬は朋広と華音、特に華音に逆らえない事を身をもって知っているので、華音達の意図を理解しようと動いていたのだ。 それはもう必死に。 だが道程半ばまで到達した頃事件が起きる。 

 ふと二台の馬車を何かの影が通過した。 突然前を行くアズマドの馬車が停止する。 オーシンの馬も何かを感じたのか歩みを止め、なんだか落ち着かない様子だ。 アズマドの馬も落ち着かない様子で嘶いている。 彼は馬を宥めて静かにさせた後、朋広の所に駆け寄ってきた。

「ま、まずい事になりました」
「どうされたんですか?」
「なんだかお馬さん達が緊張してるね」
「緊張しているのは私もですよ!」

 アズマドが小声で慌てている。 その様子から一行にとって好ましくない事態が発生したと朋広と華音も理解する。

「最悪、馬と荷物を捨てて逃げなければいけないかもしれません。 気付かれていなければいいのですが......」
「アズマドさん、一体何が」

 朋広のセリフは出現したある生物の咆哮に掻き消された。

「ああ! やはり目をつけられていたか!」

 アズマドは絶望に染まった悲鳴をあげる。

「なんだってこんな場所に飛竜なんてものが現れるんだ!」
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