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5話 悪役令嬢
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薄暗く湿気を感じさせる場所。所々には仄かな明かりがついていた。鷹行はそこにぽつんと立っている。
「何処だここは? 俺は?」
直前の記憶を辿る。自分が鳩で雀に攻撃されタカに捕まり、そのタカが実は想い人の小鳩だったという状況を思い出す。
「そうだ小鳩は!?」
鷹行は慌てて周囲を見渡した。そこは暗くて見にくいが、どうやら石で作られた簡素な小部屋だという事は判断できた。だがその部屋に小鳩の姿はない。
「そんな馬鹿な?」
右手で顔を覆う。そこで違和感に気付いた。
「え......」
恐る恐る右手を顔から離しその手を見つめる。それは紛れもない鷹行の右手。そこで初めて鷹行は自分が人間である事を認識した。それと同時にどうやら牢屋の様な場所にいる事も。
「ど、どうなっているんだ?」
鉄格子がある。つまり出られない部屋に居る訳だがここに至るまでの流れに検討がつかない。とりあえず格子側に寄り見渡す。どこも同じ様な感じに見える。
「牢屋なのかやっぱり」
「その通りよ」
呟きに返事があり驚く鷹行。声は反対側の牢屋の奥から聞こえた気がした。目を凝らすが暗くて見えない。
「こんな牢屋に入れられてるのは私だけかと思っていたけれどね。いつの間にいたのかしら全く気がつかなかったわ」
「だ、誰です?」
声から女性だというのは判断できるが明かりの所まで出てくる気配はない。
「ふ。処刑されるのを待つだけの身の者よ」
「し、処刑!? 何をしたんですか?」
「何もしてないわ。ただ悪役にされただけのことよ。それよりあなたのお隣さんはお知り合い? そろそろ気がつきそうだけど?」
隣の牢屋にいたのは小鳩だった。
「小鳩! 小鳩!」
「鷹行くん! 鷹行くん!」
二人は手を伸ばしあって繋ぎ、涙を流して再会を喜んだ。
「でも私、鳥になってたと思うのに......」
「俺もだよ。鳩になって小鳩に食べられそうになってた」
「不思議な事もあるもんだね。でも鷹行くんがいるならどうでもいいや」
「小鳩......」
「仲のいい事ね。私とは大違いだわ」
二人はそちらを見る。やはり声の主は奥の粗末なベッドに座ったままで動かない。鷹行は気付いた小鳩にこれまでの流れを大まかに説明する。
「親友に裏切られ、婚約者に裏切られ、領民にまで裏切られ処刑を待つだけの私の様に貴方達はならないようにね。まぁ、この中じゃ死を待つだけなのは変わらないでしょうけど」
「わ、私は!」
小鳩が即答した。
「私は彼と一緒に死ねるならそれだけで幸せです!」
「お、俺も彼女と一緒なら怖いものはありません!」
奥の女はやや呆れ気味に笑う。
「......愛し合う二人ならせめて逃げ出す算段位はしなさいよね。でも最後にいいものを見させてもらったわ。人を呪うだけしか出来なくなっていた私にね。これはご褒美」
チャリーン。牢屋に甲高い音が一瞬響いた。女が鷹行の足元に鍵を投げてきたためだ。
「......これは?」
「見ての通り鍵よ。この牢屋のね。貴方達は隙を見てお逃げなさいな。まだ希望があるんでしょ?」
「それじゃああなたも!」
だが女はその申し出を拒否した。
「言ったでしょ。私はもうこんな世界に未練はないの。......なんでこんな事を話したのかしらね? さぁ間も無く隙ができるわ。二人とも奥に潜んでなさい」
重い扉が開くような音がして誰かの足音がこちらに近付いてくる。その者達は先程まで話していた女の牢の前で止まった。鷹行は警察や警備員というよりは中世の兵士と言った印象を抱く。
「シャーロット=フォン=マクデューヌ! 只今より刑を執行する。出ろ!」
「身だしなみは整えたか!?」
そして奥からシャーロットと呼ばれた女が姿をあらわす。やつれている様に見えるものの金髪のロングヘアーは整えられ、キリッとした顔立ちは気品すら感じさせていた。
「おかげさまで。もし生まれ変われるなら貴方達のいない世界で今度は鳥にでもなるわ」
ただ周囲へ振り撒く憎悪のオーラは半端ではなく兵士の中には動揺した者も見受けられる。
「だまれ反逆者め! 絞首刑になってもその口が叩けるか見ものだな!」
「はいはい。こんな世界こっちからおさらばしてあげるわよ。せいぜい王と王妃によろしくね」
シャーロットはこうして外へと連れ出されていった。
「何処だここは? 俺は?」
直前の記憶を辿る。自分が鳩で雀に攻撃されタカに捕まり、そのタカが実は想い人の小鳩だったという状況を思い出す。
「そうだ小鳩は!?」
鷹行は慌てて周囲を見渡した。そこは暗くて見にくいが、どうやら石で作られた簡素な小部屋だという事は判断できた。だがその部屋に小鳩の姿はない。
「そんな馬鹿な?」
右手で顔を覆う。そこで違和感に気付いた。
「え......」
恐る恐る右手を顔から離しその手を見つめる。それは紛れもない鷹行の右手。そこで初めて鷹行は自分が人間である事を認識した。それと同時にどうやら牢屋の様な場所にいる事も。
「ど、どうなっているんだ?」
鉄格子がある。つまり出られない部屋に居る訳だがここに至るまでの流れに検討がつかない。とりあえず格子側に寄り見渡す。どこも同じ様な感じに見える。
「牢屋なのかやっぱり」
「その通りよ」
呟きに返事があり驚く鷹行。声は反対側の牢屋の奥から聞こえた気がした。目を凝らすが暗くて見えない。
「こんな牢屋に入れられてるのは私だけかと思っていたけれどね。いつの間にいたのかしら全く気がつかなかったわ」
「だ、誰です?」
声から女性だというのは判断できるが明かりの所まで出てくる気配はない。
「ふ。処刑されるのを待つだけの身の者よ」
「し、処刑!? 何をしたんですか?」
「何もしてないわ。ただ悪役にされただけのことよ。それよりあなたのお隣さんはお知り合い? そろそろ気がつきそうだけど?」
隣の牢屋にいたのは小鳩だった。
「小鳩! 小鳩!」
「鷹行くん! 鷹行くん!」
二人は手を伸ばしあって繋ぎ、涙を流して再会を喜んだ。
「でも私、鳥になってたと思うのに......」
「俺もだよ。鳩になって小鳩に食べられそうになってた」
「不思議な事もあるもんだね。でも鷹行くんがいるならどうでもいいや」
「小鳩......」
「仲のいい事ね。私とは大違いだわ」
二人はそちらを見る。やはり声の主は奥の粗末なベッドに座ったままで動かない。鷹行は気付いた小鳩にこれまでの流れを大まかに説明する。
「親友に裏切られ、婚約者に裏切られ、領民にまで裏切られ処刑を待つだけの私の様に貴方達はならないようにね。まぁ、この中じゃ死を待つだけなのは変わらないでしょうけど」
「わ、私は!」
小鳩が即答した。
「私は彼と一緒に死ねるならそれだけで幸せです!」
「お、俺も彼女と一緒なら怖いものはありません!」
奥の女はやや呆れ気味に笑う。
「......愛し合う二人ならせめて逃げ出す算段位はしなさいよね。でも最後にいいものを見させてもらったわ。人を呪うだけしか出来なくなっていた私にね。これはご褒美」
チャリーン。牢屋に甲高い音が一瞬響いた。女が鷹行の足元に鍵を投げてきたためだ。
「......これは?」
「見ての通り鍵よ。この牢屋のね。貴方達は隙を見てお逃げなさいな。まだ希望があるんでしょ?」
「それじゃああなたも!」
だが女はその申し出を拒否した。
「言ったでしょ。私はもうこんな世界に未練はないの。......なんでこんな事を話したのかしらね? さぁ間も無く隙ができるわ。二人とも奥に潜んでなさい」
重い扉が開くような音がして誰かの足音がこちらに近付いてくる。その者達は先程まで話していた女の牢の前で止まった。鷹行は警察や警備員というよりは中世の兵士と言った印象を抱く。
「シャーロット=フォン=マクデューヌ! 只今より刑を執行する。出ろ!」
「身だしなみは整えたか!?」
そして奥からシャーロットと呼ばれた女が姿をあらわす。やつれている様に見えるものの金髪のロングヘアーは整えられ、キリッとした顔立ちは気品すら感じさせていた。
「おかげさまで。もし生まれ変われるなら貴方達のいない世界で今度は鳥にでもなるわ」
ただ周囲へ振り撒く憎悪のオーラは半端ではなく兵士の中には動揺した者も見受けられる。
「だまれ反逆者め! 絞首刑になってもその口が叩けるか見ものだな!」
「はいはい。こんな世界こっちからおさらばしてあげるわよ。せいぜい王と王妃によろしくね」
シャーロットはこうして外へと連れ出されていった。
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