46 / 55
46話 ケイローの町へ
しおりを挟む
「そうですか、そんな会談が......」
私はシクルゥさんと飲み物を用意して話をしていた。
お互いの水筒の蓋に中身を入れて飲んでいるだけだけどね。 彼女の水筒はやはりとても小さかった。
「はい。 その帰りにリノ様に助けていただきました」
シクルゥさんの言う会談とは三勇者会談と呼ばれているらしい。 もちろんこれは人間がそう言っている訳ではなく、彼女達が関わっている種族間での呼称ね。
簡単に説明すると古の昔に小人種を脅かした邪悪な存在がいて、それを選び出された三人の勇者が討伐。
その後勇者達は別れて国を興したんだけど、以降も国同士での協力や情報の交換などを目的に王族に連なる者が定期的に会談を行う風習が出来たみたいなの。
古の勇者の志を忘れない為にと選ばれた代表三名のみで安全とは言えない場所で問題点などを語り合う。
(試練を兼ねた伝統行事みたいなものだな)
と、はこ丸は言っていた。
「シクルゥさんもこのジョンと同じ位の大きさなのに色々背負って大変なんですね。 私より責任とかありそう」
「いえ、そんな......」
ちなみにジョンが王族の習慣について知識を持っていたのは人間の城に住んでいた(当然隠れて)事があったからだそう。
「城の猫に追われ逃げ出して街で暮らすようになったんですけど」
ジョンにも苦労が色々あるって事なのね。
「くすくす」
私がそんな風に考えているとシクルゥさんが笑いだした。
「どうかしましたか?」
「すみません。 ふとこの光景がおかしくなってしまいまして」
光景? リ・将棋の盤面を二人と一匹が囲み、片手で触れて会話に興じている。
「まるでこれも三勇者会談をしているみたいだな...... と」
「雰囲気がこんな感じなんですか?」
「そうですね。 こんな感じです」
シクルゥさんはころころと笑う。 その姿にも王族の気品を感じるわ。
「でも王女様がこんな大きな荷物を運ぶのは大変そうですね」
私はテントの隅にある彼女の荷物に視線を移して飲み物を口に運ぶ。
「あれですか? あれは棺ですよ」
「ぶふーーっ!?」
「きゃあ!」
私は盛大に水を吹いた。 少し気管に入ったわよ。
(お、おいリノ)
「だ、大丈夫ですかマスター」
「ごほっごほっ。 ひ、棺? 棺桶って事ですか? 二つも?」
むせながら質問する。
「はい。 あれは...... 不幸な事故でした」
安全とは言えない場所での会談だったので一体の魔物に襲撃されてしまったらしい。
本来ならシクルゥさんをはじめ全員が王族で、鍛練も欠かしていないとあって大した脅威にはならないはずだったのだが......
その魔物により仲間の二人が魅了状態になり同士討ちを始めてしまい形勢は不利に。
それは異性に働きかける性質のものだった為シクルゥさんには効果が出ず、結果として魔物と一人で戦いこれを撃破するも魔力が尽きかけ他の二人は共倒れになっていたという。
「それは確かに不幸な事故かも......」
(しかし他の王族が死んだという割には平然としているように見えるが)
重い雰囲気をまとっていないからかしら?
「私が死んでいれば全滅でしたが、ケイローの町まで行けば彼らの復活も可能なのでそちらへ向かっていた所だったのです」
「復活が可能なんですか!? それは凄いじゃないですか! そんな話は聞いた事ありませんよ?」
「私達が協力して編み出した極秘術式なので詳細はお伝えできないのです......」
当然でしょうね。
「仮に全滅しても所持金の半分で復活できる仕様なのですよ。 あら? じゃあいっそ全滅していた方が早かったかしら?」
会談自体は終了しており、各自が戻るにしてもケイローの町が目的地になっていたのですからとシクルゥさんは言う。
「いやいやいやいや」
ジョンが突っ込みを入れていたが、そこには彼女達を故郷へと瞬時に送る『転移の門』という仕掛けが設置されているようだ。
(この者達の技術は人を超えているようだな)
(こんなに小さいのに凄いわよね)
(凄いだけではすまない。 人がこれを知れば良からぬ事を企む輩が必ず出るだろう)
......確かに。 詳細を話さないという事はその危険性も理解しているのでしょうね。
「あ、でも」
私は気付いた。
「目的地が一緒で移動手段も同じ徒歩ならシクルゥさんの大きさではまだまだかかるのでは?」
棺桶も二つ引っ張りながらだから大変そう。
「そうですね...... 道沿いに進むとしても日中だと人に遭遇する危険がありますから夕方から明け方にかけて進まねばなりません。 その場合魔物への注意は必要でしょうか」
そうか。 シクルゥさんは私と違って人との遭遇にも注意しなきゃいけないんだ。
「人間が皆リノ様みたいな方達ばかりなら良かったのですけど。 それでもリノ様と出会えた事は幸運でしたわ」
シクルゥさんは笑顔で言う。
(人間の善悪への行動についても理解しているようだな。 距離の取り方としては正解と言えるだろう)
はこ丸はこう言ってるけど私としては無条件で仲良くしたい。 でもそういう人間ばかりでないのは私でもわかるし。
(むしろ人間に対して最初から好意的な魔物の方が珍しい。 種としては特に)
「まぁそうだよねー。 グラハムもアオイも本来は人間とはそういう関係ってヨーダさんの本に書いてあったよ」
ジョン...... ラットマウスに関しては敵対云々は書いてなかった。
人間の生活圏で棲息しているので見つかれば大抵ネズミの様に追い払われる。 それでもしばらくすればまた棲みつくのがラットマウス。 サイズはネズミと変わらないので戦力としては期待できないだろう。
備考欄がこんな感じだった。 そういえばコロポックルさんについては何も書いてなかったわね。
私はシクルゥさんを見つめる。
「? どうかされましたか?」
「あの、お願いがあるんですが。 それと唐突ですけど私を信じてもらえませんか?」
私は思い付いた事を口にした。
私はシクルゥさんと飲み物を用意して話をしていた。
お互いの水筒の蓋に中身を入れて飲んでいるだけだけどね。 彼女の水筒はやはりとても小さかった。
「はい。 その帰りにリノ様に助けていただきました」
シクルゥさんの言う会談とは三勇者会談と呼ばれているらしい。 もちろんこれは人間がそう言っている訳ではなく、彼女達が関わっている種族間での呼称ね。
簡単に説明すると古の昔に小人種を脅かした邪悪な存在がいて、それを選び出された三人の勇者が討伐。
その後勇者達は別れて国を興したんだけど、以降も国同士での協力や情報の交換などを目的に王族に連なる者が定期的に会談を行う風習が出来たみたいなの。
古の勇者の志を忘れない為にと選ばれた代表三名のみで安全とは言えない場所で問題点などを語り合う。
(試練を兼ねた伝統行事みたいなものだな)
と、はこ丸は言っていた。
「シクルゥさんもこのジョンと同じ位の大きさなのに色々背負って大変なんですね。 私より責任とかありそう」
「いえ、そんな......」
ちなみにジョンが王族の習慣について知識を持っていたのは人間の城に住んでいた(当然隠れて)事があったからだそう。
「城の猫に追われ逃げ出して街で暮らすようになったんですけど」
ジョンにも苦労が色々あるって事なのね。
「くすくす」
私がそんな風に考えているとシクルゥさんが笑いだした。
「どうかしましたか?」
「すみません。 ふとこの光景がおかしくなってしまいまして」
光景? リ・将棋の盤面を二人と一匹が囲み、片手で触れて会話に興じている。
「まるでこれも三勇者会談をしているみたいだな...... と」
「雰囲気がこんな感じなんですか?」
「そうですね。 こんな感じです」
シクルゥさんはころころと笑う。 その姿にも王族の気品を感じるわ。
「でも王女様がこんな大きな荷物を運ぶのは大変そうですね」
私はテントの隅にある彼女の荷物に視線を移して飲み物を口に運ぶ。
「あれですか? あれは棺ですよ」
「ぶふーーっ!?」
「きゃあ!」
私は盛大に水を吹いた。 少し気管に入ったわよ。
(お、おいリノ)
「だ、大丈夫ですかマスター」
「ごほっごほっ。 ひ、棺? 棺桶って事ですか? 二つも?」
むせながら質問する。
「はい。 あれは...... 不幸な事故でした」
安全とは言えない場所での会談だったので一体の魔物に襲撃されてしまったらしい。
本来ならシクルゥさんをはじめ全員が王族で、鍛練も欠かしていないとあって大した脅威にはならないはずだったのだが......
その魔物により仲間の二人が魅了状態になり同士討ちを始めてしまい形勢は不利に。
それは異性に働きかける性質のものだった為シクルゥさんには効果が出ず、結果として魔物と一人で戦いこれを撃破するも魔力が尽きかけ他の二人は共倒れになっていたという。
「それは確かに不幸な事故かも......」
(しかし他の王族が死んだという割には平然としているように見えるが)
重い雰囲気をまとっていないからかしら?
「私が死んでいれば全滅でしたが、ケイローの町まで行けば彼らの復活も可能なのでそちらへ向かっていた所だったのです」
「復活が可能なんですか!? それは凄いじゃないですか! そんな話は聞いた事ありませんよ?」
「私達が協力して編み出した極秘術式なので詳細はお伝えできないのです......」
当然でしょうね。
「仮に全滅しても所持金の半分で復活できる仕様なのですよ。 あら? じゃあいっそ全滅していた方が早かったかしら?」
会談自体は終了しており、各自が戻るにしてもケイローの町が目的地になっていたのですからとシクルゥさんは言う。
「いやいやいやいや」
ジョンが突っ込みを入れていたが、そこには彼女達を故郷へと瞬時に送る『転移の門』という仕掛けが設置されているようだ。
(この者達の技術は人を超えているようだな)
(こんなに小さいのに凄いわよね)
(凄いだけではすまない。 人がこれを知れば良からぬ事を企む輩が必ず出るだろう)
......確かに。 詳細を話さないという事はその危険性も理解しているのでしょうね。
「あ、でも」
私は気付いた。
「目的地が一緒で移動手段も同じ徒歩ならシクルゥさんの大きさではまだまだかかるのでは?」
棺桶も二つ引っ張りながらだから大変そう。
「そうですね...... 道沿いに進むとしても日中だと人に遭遇する危険がありますから夕方から明け方にかけて進まねばなりません。 その場合魔物への注意は必要でしょうか」
そうか。 シクルゥさんは私と違って人との遭遇にも注意しなきゃいけないんだ。
「人間が皆リノ様みたいな方達ばかりなら良かったのですけど。 それでもリノ様と出会えた事は幸運でしたわ」
シクルゥさんは笑顔で言う。
(人間の善悪への行動についても理解しているようだな。 距離の取り方としては正解と言えるだろう)
はこ丸はこう言ってるけど私としては無条件で仲良くしたい。 でもそういう人間ばかりでないのは私でもわかるし。
(むしろ人間に対して最初から好意的な魔物の方が珍しい。 種としては特に)
「まぁそうだよねー。 グラハムもアオイも本来は人間とはそういう関係ってヨーダさんの本に書いてあったよ」
ジョン...... ラットマウスに関しては敵対云々は書いてなかった。
人間の生活圏で棲息しているので見つかれば大抵ネズミの様に追い払われる。 それでもしばらくすればまた棲みつくのがラットマウス。 サイズはネズミと変わらないので戦力としては期待できないだろう。
備考欄がこんな感じだった。 そういえばコロポックルさんについては何も書いてなかったわね。
私はシクルゥさんを見つめる。
「? どうかされましたか?」
「あの、お願いがあるんですが。 それと唐突ですけど私を信じてもらえませんか?」
私は思い付いた事を口にした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる