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48話 予兆
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「失礼します」
王都のギルドマスターであるハンソンは早朝から城の一室を訪ねた。
いや、訪ねたではなく『呼び出された』と言う表現の方が正しい。
ハンソンが部屋に入ると上座に座る男が声をかけた。
「朝早くからすまないなハンソン君」
「いえ」
それと同時に多数の視線を感じるハンソン。
部屋のテーブルには見知った顔がいくつもあった。 年齢や性別こそばらつきがあるものの、そこに居る者には一つの共通点がある。
(近隣の都市の冒険者ギルドのマスターが揃い踏みとは......)
ハンソンは長年の経験で知っていた。
(こういう時は大抵ろくな話じゃないんだよなぁ......)
内心ため息まじりに空いている席に腰をおろす。 それを開始の合図として招集をかけた男が口を開く。
「あれ? シスリさんとアルツさん。 こんにちは」
「あらリノちゃんじゃない。 元気そうね?」
私は王都の雑貨屋に向かう途中でこの二人に出会った。
「何か用事で来たのか?」
「ちょっと雑貨屋さんに」
アルツさんの質問に答える。 雑貨屋への用事とは先日カンガ湖で考えたテントと釣竿について。 疑問を持った私はこれらを持ち込んだ人物の情報を求めて訪ねる気になったのだ。
「お二人はどうされたんですか?」
「情報収集も兼ねて見回りって所かしらね。 その後ギルドに顔を出してると思うけど」
こんな他愛ないやりとりをして私は二人と別れ雑貨屋に向かう。 雑貨屋ではこの失敗作と思われている品々を持ち込んだ人物『デューイ』さんの情報を得る事に成功。
ただここしばらくお店には顔を出していないので、また何か製作しているのだろうと店主さんは言っていた。 ついでにその人は王都から北寄りにある山の中に工房を建ててそこで生活しているらしい。
私は雑貨屋を出て考える。
「デューイさんの工房の正確な場所がわからないけどアオイと上空から探せば見つかるかしらね?」
(完全に山の中なら上からでも難しいかもしれないな。 今日はすでに午後。 さらに夜になったりしたら都合も悪いだろう?)
「うーん確かに。 じゃあ予定も済んだし今日のところは帰って......」
ふと私の視線がある看板を捉えた。
『リ・将棋集会所兼酒場』
あーあ、酒場より集会所の方が先にきてる。 先日は大会開催中とか書かれてたのよね。
「......折角ここまで来たんだからちょっと覗いていかない?」
(断る理由も特にはないな)
私ははこ丸と共に酒場の中に足を踏み入れた。
「こんにちはー」
「はいよ! 雑貨屋は隣だよ」
「わかってますよ。 先日はどうも」
「おや、あんたは」
「ちょっと好奇心で覗きに来ました」
「そうかいそうかい」
私は恰幅のいい女将さんと話す。
今日はサービスしとくから適当に覗いていくといいと言ってもらえた。 相変わらず気前のいい人だと思う。
「お言葉に甘えて...... わ、やってるやってる」
イスに座りリ・将棋盤を挟んで考えこんでいるおじいさん。 おじいさん。 ......おじいさん。
(今日はおじいさんばかりね)
(平日の昼間というのも影響しているのかもな)
(私と同じ位の人がいれば相手してもらおうかなって思ったのに......)
? あ、視界の片隅のテーブルにその条件にピタリと当てはまる人がいたわ。
幸いにも誰とも勝負しておらず、一人でリ・将棋の駒を動かしている。
私はその女性の向かい側に移動した。
「?」
女性が私に気付いて顔をあげる。
「あ、あの。 私最近このゲームやり始めたんですけど、同い年位の相手探してて......」
私に話しかけられた相手は人差し指で相手自身の顔を指した後キョロキョロしていた。
いや、貴女以外にいないから。
「お嬢ちゃん、その子に相手してもらいたいのかい?」
近くのテーブルのおじいさんがこう言ってきた。 そのおじいさんと対戦しているおじいさんも口を開く。
「ははは、悪い事は言わないからやめ」
けどそこに先程の女性が割って入る。
「いえ! 私なら大丈夫ですから。 ちょうど暇でしたし是非やりましょう!」
促され対面のイスに座る私。 はこ丸としか勝負した事のない私が遂に人を相手にリ・将棋を指す事になった。
王都のギルドマスターであるハンソンは早朝から城の一室を訪ねた。
いや、訪ねたではなく『呼び出された』と言う表現の方が正しい。
ハンソンが部屋に入ると上座に座る男が声をかけた。
「朝早くからすまないなハンソン君」
「いえ」
それと同時に多数の視線を感じるハンソン。
部屋のテーブルには見知った顔がいくつもあった。 年齢や性別こそばらつきがあるものの、そこに居る者には一つの共通点がある。
(近隣の都市の冒険者ギルドのマスターが揃い踏みとは......)
ハンソンは長年の経験で知っていた。
(こういう時は大抵ろくな話じゃないんだよなぁ......)
内心ため息まじりに空いている席に腰をおろす。 それを開始の合図として招集をかけた男が口を開く。
「あれ? シスリさんとアルツさん。 こんにちは」
「あらリノちゃんじゃない。 元気そうね?」
私は王都の雑貨屋に向かう途中でこの二人に出会った。
「何か用事で来たのか?」
「ちょっと雑貨屋さんに」
アルツさんの質問に答える。 雑貨屋への用事とは先日カンガ湖で考えたテントと釣竿について。 疑問を持った私はこれらを持ち込んだ人物の情報を求めて訪ねる気になったのだ。
「お二人はどうされたんですか?」
「情報収集も兼ねて見回りって所かしらね。 その後ギルドに顔を出してると思うけど」
こんな他愛ないやりとりをして私は二人と別れ雑貨屋に向かう。 雑貨屋ではこの失敗作と思われている品々を持ち込んだ人物『デューイ』さんの情報を得る事に成功。
ただここしばらくお店には顔を出していないので、また何か製作しているのだろうと店主さんは言っていた。 ついでにその人は王都から北寄りにある山の中に工房を建ててそこで生活しているらしい。
私は雑貨屋を出て考える。
「デューイさんの工房の正確な場所がわからないけどアオイと上空から探せば見つかるかしらね?」
(完全に山の中なら上からでも難しいかもしれないな。 今日はすでに午後。 さらに夜になったりしたら都合も悪いだろう?)
「うーん確かに。 じゃあ予定も済んだし今日のところは帰って......」
ふと私の視線がある看板を捉えた。
『リ・将棋集会所兼酒場』
あーあ、酒場より集会所の方が先にきてる。 先日は大会開催中とか書かれてたのよね。
「......折角ここまで来たんだからちょっと覗いていかない?」
(断る理由も特にはないな)
私ははこ丸と共に酒場の中に足を踏み入れた。
「こんにちはー」
「はいよ! 雑貨屋は隣だよ」
「わかってますよ。 先日はどうも」
「おや、あんたは」
「ちょっと好奇心で覗きに来ました」
「そうかいそうかい」
私は恰幅のいい女将さんと話す。
今日はサービスしとくから適当に覗いていくといいと言ってもらえた。 相変わらず気前のいい人だと思う。
「お言葉に甘えて...... わ、やってるやってる」
イスに座りリ・将棋盤を挟んで考えこんでいるおじいさん。 おじいさん。 ......おじいさん。
(今日はおじいさんばかりね)
(平日の昼間というのも影響しているのかもな)
(私と同じ位の人がいれば相手してもらおうかなって思ったのに......)
? あ、視界の片隅のテーブルにその条件にピタリと当てはまる人がいたわ。
幸いにも誰とも勝負しておらず、一人でリ・将棋の駒を動かしている。
私はその女性の向かい側に移動した。
「?」
女性が私に気付いて顔をあげる。
「あ、あの。 私最近このゲームやり始めたんですけど、同い年位の相手探してて......」
私に話しかけられた相手は人差し指で相手自身の顔を指した後キョロキョロしていた。
いや、貴女以外にいないから。
「お嬢ちゃん、その子に相手してもらいたいのかい?」
近くのテーブルのおじいさんがこう言ってきた。 そのおじいさんと対戦しているおじいさんも口を開く。
「ははは、悪い事は言わないからやめ」
けどそこに先程の女性が割って入る。
「いえ! 私なら大丈夫ですから。 ちょうど暇でしたし是非やりましょう!」
促され対面のイスに座る私。 はこ丸としか勝負した事のない私が遂に人を相手にリ・将棋を指す事になった。
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さようなら、イディオン
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