闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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それからも病院に通い、少しづつ話す事が増えていったが春陽はあまり話したがらない。
それに先生の話だと毎晩うなされているらしく、薬がないと寝れていない状態だという。

「今日は月が綺麗だから少し散歩しようか。先生の許可は取ってるから大丈夫だ、それに少しは動かないと体力が落ちるぞ。」

「・・・でも、」

「俺に付き合ってくれ、なっ?頼むよ。」

「・・・はい。」

春陽の手を取りながら下の階のテラスに向かう。ここは就寝時間まで開いているので月見に丁度いい。

「綺麗だろ?」

今日は満月でしかも雲一つないから良く見える。
本当に綺麗だ。

「・・・・。」

『綺麗だね。これからも一緒に月を見ようね。○○。』

「う”っうぅ!」

「どうした春陽!」

「嫌!!いや!ずっといっしょにって!!・・・・」

「春陽!春陽!・・・・春陽。」

頭を押さえながら涙を流し意識を失った。きっとヒロタカとかいう奴とかつて一緒に月を見ていたんだろう、月を見てそれを思い出した。ヒロタカとどんな関係だったにしろきっと春陽は振られたのか一緒にはいられなくなったのかも知れない。それでも、自分の名前を忘れても忘れられなかった名前。なんだがイライラする。

俺は春陽を抱えて病室に戻り、先生を呼んで今あった事を話した。
やはり先生の話でも大事な記憶の中に月と関連する物があったのだろうっと言う事だ。ただ、あまり良い記憶ではないみたいなのでなるべく避けた方がいいとの事。

病室に戻ると春陽が目を覚ましていた。

「起きたか。どこか痛い所はあるか?」

「・・・僕は何で生きているんだろう。」

「えっ?」

「僕はきっと自殺したんだと思います。」

「何故そう思う?」

「生きているのが苦しい。良く解らないけど辛くて悲しいんです・・・。」

涙も見せずに無表情でそう言う春陽が月明りで今にも消えそうで思わず俺は抱き締めてしまう。

「そうか。悲しいか・・・。悲しいなら泣けばいい、俺が側に居る好きなだけ泣け。」

「けど、何で悲しのか思い出せない。確かに悲しいのに!」

俺の服を掴み震えながら涙声で訴える。
そんな春陽を強く抱き締めて、優しく頭を撫でながら、

「思い出せなくても悲しければ泣けばいい。思い出せない事も悲しい事も辛い事も全部俺に吐き出せ、何でも聞いてやる。側に居るから。」

「・・ぅっ・・だって・・・迷惑。」

「迷惑なら毎日来たりしない。それとも俺の方こそ迷惑か?」

フルフル

「良かった。俺はここに居るから好きなだけ泣け。」

安心したのか限界だったのか、春陽は声を出してやっと泣き出した。
しっかり抱き締めて俺がここに居る事を忘れさせない様にしながら頭を撫でた。

声を聞いた看護婦が様子を見に来たが俺にしがみ着いて泣いているのを見ると安心して出て行った。
春陽は泣き疲れて眠ってしまったが、感情を吐き出して少しは落ち着いた様に見えた。翌日看護婦さんの話ではその日はうなされる事無く朝までぐっすり眠っていたらしい。薬を使わずに寝れるならそれに越した事はない。

翌日から表情が少し変わった様な気がする。
今までは無表情で感情が全く判らなかったが、俺の顔を見ると少し嬉しそうに見れるのは俺の願望ではないと思いたい。


警察の話では捜索願は出されてはいないらしく、身元が解らない事に変わりはなかった。警察に春陽の保護をうちでする事に付いては問題はなく、俺の連絡先を教えて身元が解ったら連絡をくれるとの事になった。

検査結果では異常はなく強くぶつけた事により記憶障害になったのだろう、それに対しての治療法はないのも変わらなかった。

「春陽、大事な話だ。よく聞いてくれ。」

「はい。」

「春陽は記憶喪失で身元が解らないから、帰る場所が解らないのでうちで預かる事になった。これからは俺達と一緒に暮らす事になる。」

「一緒に暮らす?ご迷惑では・・・。」

「何度も言うが迷惑なら救急車を呼んで終わりだ。嫌なら他の方法を考えるが嫌でなければ俺の側に居て欲しい。」

「嫌だなんて!ただ迷惑じゃないかと・・・ご家族とか。」

「家族も反対はしていない。だから俺の家に来て欲しい。・・・ダメか?」

無理やり連れて帰っても春陽の為にならないから、出来れば自分の意思で来て欲しいがこればっかりは・・・。

「僕が行ってもいいんですか?」

「俺が来て欲しいんだ!」

「・・・分かりなした。宜しくお願いします。ぅわ!?」

嬉しさのあまり思わず抱き締めてしまった。
力を抜いて優しく抱き締めて春陽の頭にキスをした。

「これからヨロシク。」

「・・・はい。」


無事に金曜日退院した。
これからは‟春陽”として一緒に暮らしていく。


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